『ラブ・パニック』
〈あ……あの……私の手を触るのは、そんなに気持ちが良い行為なのですか?〉
アムネ姫は、洋平におずおずと問うた。
「えっ?」
洋平は、アムネの手をあわてて離したのだが。
「○○×△……」
とたんに、アムネの言葉が分からなくなる。
(ああ……手を離すとダメだな)
かといって、手を握り続けるのも気恥ずかしい。
確かに、アムネ姫の手を握っているのは心地よかった。
異性の手を、こんなに長く握り続けている経験は、母親以外に無いような気がする。
また、さっきに姫の言葉から、言語化されていない気持ちまで知られのは、怖いような気もする。
どうしようかと迷う洋平の手を、アムネの方から手を伸ばして握ってきた。
〈ごめんなさい……私、変な事を言ったみたいですね。こんな風に……その……お話をしたことがありませんから……ちょっと、あがったみたいです〉
「いや……僕の方こそ、手を離してごめん」
洋平は、頭を下げた。
気持ちまで伝わるのは、洋平だけでなく、アムネ姫も同様なのだ。
お互いの気持ちがダイレクトに伝わる。
そう考えると同時に、洋平の心拍が上がり、血が顔に集まりだした。
(うわっ……どうしよう、ドキドキしてきた)
〈あの……私も……なんだか、胸が苦しい……やだ……止まらない〉
洋平がアムネ姫の顔を見た。
アムネ姫の洋平を見る。
アムネ姫も、洋平同様かそれ以上に顔が真っ赤である。
瞳は潤み、乱れる息に唇は柔らかく開いている。
そんな姫の表情に、洋平はますますドキドキしてくる。
もはや生命維持が危険かと思えるレベルである。
(いやいや……大丈夫です、姫。これは、アレです。危機状態になった人間の間に起こる生理現象です……えと……バタフライ効果?)
なんとか、平静を保とうとする洋平ではあるが、かなりテンパッている。
『つり橋効果』を思い出せないくらいに。
〈そうですわね、普通の事ですわね〉
対するアムネ姫も、かなりパニクッている。
異性に免疫が無いのは、洋平以上。
それが、いきなりドラゴン退治に心話である。
お互いの思いが、心話を通して増幅され、収集がつかなくなってきている。
洋平は、思わずアムネの体を抱き寄せた。
そうせずにはいられなかったのだ。
(ごめんなさい、姫。でも……僕……)
洋平は拒まれと思った。
だが、アムネ姫の両手は、洋平の背中に回されギュッと力が込められた。
(あう……姫、姫……胸が……あの……)
〈ごめんなさい、ごめんなさい……でも、私も……こうしていないと、立っていられないのです〉
震えながら瞳に涙をためたアムネ姫が、洋平を見上げる。
洋平がアムネ姫を見つめると、アムネはそっと目を閉じる。
(あの……これ……しちゃっていいって……こと?)
洋平の思考への姫の反応は、言語化することのできない甘く痺れるような感情の波だけ。
(えっ……えと……一生たいせつにします!)
洋平は、思い切って唇を重ねようとした。
ドロロロロウ!
重いエンジンサウンドが響き、タイヤが大地を蹂躙しながら回転を止めた。
「なんじゃ、これは!」
4WDビークルが止まると同時に、飛び出してきた成本大吉は叫んだ。