『社長 成本大吉』
米軍も使っている4WDビークルのシートでタバコを咥えた成本大吉は、自分の買った土地を見ていた。
広大な土地に、巨大な建物が建っている。
かつては、地域最大規模のショッピングモールであった。
成本の生家や故郷の田畑を地ならしして造られたのだ。
このショッピングモールの完成で、地域商店の多くは閉店した。
そして、親会社の不良債権によって、このショッピングモールも閉鎖された。
「バカが……」
大吉は呟いた。
大吉は、いわゆる土地成金だ。
40年前に故郷を飛び出して、大阪で鉄鋼会社を経営していた。
手狭な大阪の工場を閉鎖し、地方に新工場を建設したら、元の工場の土地が途方も無い金額で売れた。
それが、切っ掛けだった。
本業そっちのけで、土地ころがしに熱中した。
そのうち、本業の工場は権利ごと当時の専務に売り、大吉の本業は土地ブローカーになった。
おもしろいように金が懐に飛び込んできた。
大吉の周りの人間も土地に手を出し始めた。
そこで、大吉は土地を商うのを止めた。
誰もが興味を持つ金儲けはダメだ。
それが、大吉のポリシーだった。
大吉が土地ころがしを止めた後、土地バブルがはじけた。
大吉は、次に株をはじめた。
それも順調だった。
そして、誰もが株に関心を持った時点で、株も止めた。
そんな風に、大吉は生きてきた。
「ワシの人生は、ほんまに大吉や」
そう思った事もあった。
一生涯で使い切れない資産を貯めたが。
そこで、ふと疑問がわいた。
「わしは、この金で何をしたらええんや?」
何も思いつかなかった。
「故郷に錦を飾って帰るものええかな」
と思い、帰った故郷は、何もなかった。
巨大資本に蹂躙された故郷に残っていたのは、閉店したショッピングモールだけだった。
大吉は、そのショッピングモールを買いあげた。
特に、目的があるのではない。
ただ、見ていたくなかったのだ。
故郷が、廃墟になっていゆくのを……
唯それだけの為に、資産の大半を使った大吉ではあるが、まだ新しい事業を始めるには十分な資産が残っていた。
だが、何をすべきかが、分からなかった。
「まあええわ。なんにしても、この忌々しい建物をぶち壊してからや」
大吉は、咥えたタバコの紫煙を深く胸に吸い込んだ。
その時……
「くっ……」
胸の奥がチリリと焼けるように痛んだ。
この不快な痛みは、ここ数日、大吉を悩ましてはいた。
だが、大吉自身は、この痛みを気にするほどのものでは無いと考えている。
その時、大地を揺るがすような轟音が響く。
「なっ……なんや!」
大吉のいる場所から建物を挟んだ反対側で、何かが起こっている。
たぶん、爆発であろう。
ここから大吉に分かるのは、それだけだった。
「何事や。だれぞ下手うちよったか?」
大吉は、慌ててタバコを揉み消し、4WDビークルのアクセルを踏んだ。
鉄の駿馬は大地を抉るように駆け出した。
4WDビークルは巨大な建物を廻り、爆発現場へと急行する。
書き溜め分の放出完了。
次話からは、少しお待たせすると思います。
誤字脱字やまちがい、分かりにくいところなどありましたら、ご指摘ください。
これからも、よろしく。