シスターズ
・登場人物
ラグナ――シスター
霧川禾槻――脱走未遂
アリア――シスター
ヨーコ――シスター
そう思ってしまうのはいけないことなんだろう。
それでも僕は、心のどこかで呟いた。
――これは確かに、人間として失敗している。
風が吹き、彼女の白髪が揺れる。
相変わらずの無表情の唇が、微かに蠢いた。
――君には知っておいて欲しい。
いつかどこかの記憶の欠片。
けして古いものではないのだけれど、それはとても懐かしく感じられた。
唇が蠢く。
――私の、本当の名前は…………
◆
「ヨーコちゃんでぇーっす!」
「……え?」
目覚めて一番始めに見えたのは、白い天井だった。
頭に柔らかい触感。数秒して枕だとわかった。毛布が体を覆いかぶさっていることにも気づいて、僕は病室か何かのベットに横たわっているのだと無意識に考える。
で、何となしに体を起こしてみると、茶髪を後ろに一束結んでいる17,8ほどの女の人の顔が目に入った。
彼女は起き上った僕に感心したような表情を見せ、軽い笑みを作って陽気に言う。
とまぁ、そんな感じで冒頭のようになったわけなんだけど……。
「名前だよ名前! あたしの名前!」
「あ、ああ。そうですか」
この茶髪ポニーの女性はヨーコさん、と言うらしい。
「君のお名前は何ていうのかな?」
「ええと、霧川禾槻、だけど」
「んー、成程ー。よろしくね、カツキン」
「は、はぁ」
って、アレ? それ、僕のあだ名?
ちょっと、いや結構やめて欲しいな、それ。
しかし、僕が訂正を始める前に、新たな入室者が現れた。
「あら、目が覚めたようですね」
背まで伸びた艶やかな黒髪。その双眸はヨーコさんと同じ黒だが、しかし彼女はより一層深い漆黒だった。
身には黒い修道服を纏っている。
ありきたりと言うかそのままなんだけど、黒一色、という単語が思い浮かんだ。
彼女が部屋に現れた途端、僕は圧倒されてしまう。
それは彼女が身に纏う漆黒の出で立ちにでも、薄らと浮かべているほほ笑みにでもなく、何か……そう、色で例えるなら真っ白な何かに――
「気分はいかがですか?」
その声でハッと我に返る。
あれ? 僕、一体どうしていたんだろう?
再び彼女を見ると、特になんともない。
「あまりよろしくはないようですが?」
「……あ、いや。少し考え事をしていただけだよ」
まぁ、あまり気にしないでおこう。
「やっふー、アリアちん。どうだったー」
彼女はアリアさんと言うらしい。
てか、ヨーコさんも修道服着てるし。気付かなかった。
「ええ、そちらのⅡさんの処遇は決まりました。しばらく監視をつけるとのことです」
「おー、よかったねー、カツキン。監視付くだけだってよー」
「監視? それって僕に?」
「うん、そだよー。いやー、よかったねー。脱走しようとしてそれだけなんてさー。あたし達みたいな量産型のⅠだと即廃棄もんだよー」
……うん。あれ? 話についていけないぞ。
「あのー、Ⅰって何? それに脱走? 僕、そんなことしたっけ?」
僕がそう尋ねると、ヨーコさんはあちゃー、と口に出して言った。アリアさんは終始ほほ笑んでいるだけだ。
「記憶喪失かな~。ドラゴン君、ついにやっちゃったかー」
記憶喪失!? 何か変な方向にいってる! アリアさん、ほほ笑んでないでどうにかして!
「ご愁傷様ですね」
……えー。というか、記憶喪失が普通に受け入れられるってどういうこと?
「ああ、精神干渉系の能力を持つⅡがいるんですよ」
アリアさんがフォローを入れてくれる。だから、Ⅱって何?
「監視は誰がやるのー?」
「私です」
「おお? アリアちんが? あー、確かに下手なⅡとか『a』がやるよりもその方がいいかもねー」
話が見えないんだけど……。
「というわけで、Ⅱさんには当分私と行動を共にして貰います」
「だってー、カツキン」
何がなんだか……。
というか、そのあだ名ってどうにかならないのかな?