序章
「いい? あなたの十七歳の誕生日に王子様が迎えに来るの」
「? おひめさまじゃないの?」
「お姫様はあなたよ、真琴」
「ぼくがおひめさま?」
「そう、お姫様。だから王子様が迎えに来た時に恥ずかしくないように、ちゃんと綺麗にしておかなくちゃね」
そう言って母は幼い俺の髪を丁寧にまとめて可愛らしいリボンで括り、袖や裾、首元など至る所にフリルがあしらわれ、胸元には大きなリボンのついた何ともお姫様チックな服を着せる。
今になって考えると何かが決定的におかしいのだが、当時4歳の俺、城崎真琴は特に何も疑問に思わず母の言葉に頷いた。お人形やままごとセットなど、母が買い与えるのはそんなおもちゃばかりだった。
しかしながら俺はれっきとした男の子だったわけで、王子様が迎えに来る、なんて言葉は年齢を重ねるに連れ記憶の彼方へ消し飛んでいた。
元々じっとしているのが苦手だったのも影響して、室内でゲームをするよりも外へ遊びに行く方が圧倒的に多い、いわゆるわんぱく小僧へと育っていった。フリフリの洋服で着飾られていた幼少期はどこへやら。
小学校高学年になっても可愛らしい衣装で着飾ろうとする母の手から何とか逃れつつ、それでも俺は立派な男の子として成長していった。
―――そう、十七歳の誕生日までは。