異世界転生受付窓口、ただいま混雑しております
夢を見ていた。
両親と妹。
そして、もうすぐ生まれてくる弟か妹。
そんな優しい夢だった。
――だが、俺は死んだはずだ。
会社帰りの夜道。
背中を刺され、倒れ込み、意識が途切れた。
最後に聞こえたのは誰かの
『ごめんなさい』
という声だけ。
「……ここ、どこだ?」
目を開けると、見慣れない木の天井があった。
身体を起こす。
手を見る。
小さい。
明らかに子供の身体だった。
「は?」
その時、扉が開いた。
入ってきたのは銀髪の美女。
しかも耳が長い。
「まぁ! 目が覚めたのね!」
「耳……」
「何を言ってるの? エルフなんだから当たり前でしょう?」
エルフ。
その単語を聞いた瞬間、嫌な予感がした。
窓の外を見る。
市場の喧騒。
馬車。
石造りの街並み。
そして空を横切る巨大な影。
ドラゴンだった。
「マジかよ……」
異世界だ。
どう考えても異世界だ。
その瞬間――。
頭の中に機械音声が響いた。
《個体確認完了》
《転生者コード認証》
《世界適応システムを起動します》
青白い文字が目の前に浮かぶ。
【ようこそ二度目の人生へ】
YES
NO
「YES」
《エラー》
「は?」
《担当神が不在です》
「は?」
《現在問い合わせ中》
《しばらくお待ち下さい》
「嫌な予感しかしないんだが」
《現在の待機人数》
【3421名】
「多っ!?」
《予想待ち時間》
【約217日】
「長ぇよ!!」
《お客様の順番までしばらくお待ち下さい》
《なお、この間に死亡した場合は受付番号が失効します》
「最悪だな!?」
《苦情窓口はこちら》
《現在閉鎖中》
「閉鎖すんな!」
《担当神が長期休暇中のため対応できません》
「神が休暇取るな!」
《よくある質問》
【Q. チート能力はいつ貰えますか?】
【A. 担当神との面談後になります】
「まだかよ」
【Q. スキル取得は?】
【A. 担当神との面談後になります】
「全部それかよ!」
《現在の担当者》
【第七転生管理局】
【神官見習い 研修中】
「神ですらねぇ!」
《担当神は有給休暇中です》
「どれくらい?」
《約300年》
「文明滅ぶわ!」
――そして数ヶ月後。
《担当神との面談日が決定しました》
「やっとか!」
《午前3時12分》
「役所かよ!」
目の前に疲れ切った青年が現れる。
「第七転生管理局神官見習いのアルトです」
「神じゃないの?」
「まだ研修中です」
「担当神は?」
「有給です」
「まだ休んでんの!?」
「希望チートはありますか?」
「身体強化」
「人気です」
「魔法適性S」
「人気です」
「剣聖」
「人気です」
「じゃあ何ならあるんだよ!」
アルトは書類をめくった。
「在庫はこちらになります」
【羊の数を正確に数えられる】
【洗濯物が少し早く乾く】
【木箱の耐久度が分かる】
「弱ぇ……」
「おすすめはこちらです」
【異世界転生経験者】
「今まさに転生してるだろ!」
アルトは申し訳なさそうに頭を下げた。
「人気チートは抽選なんです」
「就活かよ……」
「なお、転生者特典として一つだけ無料配布があります」
「おっ?」
少しだけ希望が見えた。
アルトは笑顔で告げた。
【クレーム対応Lv10】
「いらねぇぇぇ!!」
《獲得しました》
「勝手に配るなぁぁぁ!!」
こうして俺の二度目の人生は、
神にクレームを入れる能力だけを持って始まった。




