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アルカナゲーム  作者: 菅原暖簾屋


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12/16

強襲

 後ろから誰もついてきていないことを確認した俺は、速度を落としつつ階段を駆け下りる。四階から一階だ、相応に息切れしながらナースステーションにたどり着くとそこには――


「うっ……酷い」


 顔面から大量に出血しているナースや医師、患者たちの死体が床に転がっていた。虐殺だ。身近にいた純白の制服が真っ赤に染まったナースの首元に手をやるが、当然ながら既に事切れていた。

 この惨状を見て、無性に怒りが湧いてくるが、俺にできることは少ない。俺は遺体を踏まないようにナースステーション内へ入ると、見返しにあるロッカールームへ侵入した。

 こじんまりとしたロッカールームでも若い女性看護師が外と同じように亡くなっていた。俺とあまり変わらないであろう彼女の死に、自身の無力さを痛感するが、今はそれどころではない。ごめんねと心の中でつぶやき、彼女の血濡れた制服のポケットを漁る。

 あった、人気のアニメキャラのラバーチャームが付いたロッカーのカギだ。彼女の胸についた名札を確認し、同じ名前のネームプレートが貼られたロッカーに鍵を差す。回った。

 俺はなるべく個人の遺品には触らないようにして、彼女のカバンからスマートフォンを取り出した。デコレーションされたスマホケースに入れられたそれには当然のようにロックがかかっていたが、パターン認証だったので手の油で浮いて見えるラインをなぞると一発で解除ができた。

 ここまで七分ほどかかった。仮に竹芝さんたちが制圧されていたらこちらにたどり着いてもおかしくはない。急げ俺!

 スマートフォンの電話アプリ起動し、暗記していた番号へかける。プルルルと通信音が流れ、ツーコールでガチャリと言う音と共に相手の声が聞こえた。


『もしもし、どちらさま?』

「俺だ、出雲だ。緊急で電話を借りてお前にかけてる」


 電話の相手は桃園、この状況下において一発逆転を託すならコイツしかいない。月渚さんにはああは言ったが、適当な応援を呼んだところで死体の山が増えるだけ。それほどまでにアルカナ能力は常軌を逸した力を持っている。


『あら、緊急事態かしら。警察にインチキ手紙の正体でもばれた?』

「いいか、よく聞け。俺のいる病院がアルカナマスターに襲撃されている。死人は数え切れんほどに出てる」


 寝起きの低い声でおちゃらけた様子だった桃園が一瞬にして閉口した。時間もないので俺はあえて気遣うこともせず要件だけ早口で彼女に伝え始める。


「まず、敵は今のところ一名。指先から黒い弾丸を射出し、それにヒットすると何かしらの誓約が課せられるようだ。その誓約……ルールはそいつの口で発言しないと発揮しないと考えられる」

『ちょっと待って。不確定な話が多すぎるわ』

「仕方ないだろ、実際に死人が出る光景は見てないんだよ。だが、それ以外の行動はしていないから間違ってはいないと思う。本人の口からも聞いたしな」

『聞いた? どういうことよ』

「時間がないから黙って聞け。その男の服装はベージュのスーツにホラー映画とかでよく見る品のないマスク、そして髪の毛の色は鈍色だ。警戒してくれ」

『……続けて』

「俺は奴の弾丸を喰らって病院内から出られない。なおかつ、国道の事件の情報を求めて狙われている状態だ。急いで救援に来てくれ。頼む。このままだと、どんどん死人が増える」


 俺の必死の懇願が嘘ではないと理解したのか、桃園は電話口でも聞こえるような大きな嘆息をした。


『わかった。超特急で向かうわ』

「よろしく頼む。警察が大挙してくる可能性は低いが、変装は忘れるな」


 俺の言葉で通話が切る。音が鳴っても困るので、スマートフォンをサイレント状態にしてから病院着のポケットに入れる。そして、ゆっくりとロッカールームから顔を出して周囲の様子を窺う。

 すると、かつんかつんと踵をわざとらしく鳴らす音が耳に届いた。直感的に奴だと理解した。


「ふむ……ここにもいないか」


 声だけだが、明らかに俺を探している。じっと息を殺して奴の大きな独り言に耳を澄ます。


「さて、困ったものだ。殺し過ぎたせいでルールで縛って捜索させようにも駒がいない」


 私の悪い癖だなとマスク男は下種な笑い声をあげた。こんな奴のために多くの人が死んだのか。絶対に許せない。


「まぁ、いい。どうせ【戦車チャリオット】と【女帝エンプレス】との盟約で荒らしているだけのこと。警察もこちらとあちら、同時にアルカナマスターは対処できまい。分割してしまえば警察も機能不全に陥る。そうしてしまえば、我らの天下だ」


 ひとりでよくしゃべる奴だ。聞かれても殺せばいいと高を括っているんだろうな。どこまでも神経を逆撫でしやがる野郎め。

 それにしても、こいつらの狙いは警察機能の停止か。確かに警察官が大量に殉職すれば、一時的に警察はマヒするに違いない。その隙をついてなにか大事を起こすつもりか? もう少しベラベラとその軽い口を開いてくれると助かるのだが……。


「ふむ、埒が明かないな。とっておきをだそう」


 しかし、願いは空しく、マスク男はナースステーション内に侵入してくると、ステーションへ配備されている館内放送のマイクを弄り始めた。ロッカールームの影からこっそりと覗いていたが、いったい何をするつもりだ? 息を殺して静観する。


『マイクテス、マイクテス。あー、聞こえるかね諸君。私はこの病院内の惨状を作り出した犯人である。逃亡した小僧、今すぐ一階のナースステーションまで出頭したまえ。さもなくば、人質である小児病棟の子供の命は保証しない』


 ボボボとノイズの走る音と共にマスク男の言葉が館内に響き渡る。そして、その内容はとても看過できるものではなかった。


『ものを知らない君たちのために教えてやろう。私は君に課したルールを小児病棟の看護師にも与えている。内容は『小児病棟の子供を逃がしてはならない』だ。逃がせば看護師が死ぬ、故に小児病棟では騒ぎが起こっても誰ひとり外へ逃げていない。

 そして、私はとある装置を病院の空調に設置している。毒ガスを流す装置だ。起動させれば瞬く間に病院内では死が溢れるぞ。

 さぁ、子供たちを殺したくなければ直ちにナースステーションへ出頭しろっほぉ!?』


 ――限界だった。

 大音量の館内放送で俺の足音は掻き消され、無防備に背後を晒していた下手人に悟られることもなく背後を取った俺は、全身全霊で右手の鉄拳をこのクズの後頭部へ見舞った。勢いの乗った拳は油断しきっていた男の右側頭部へ突き刺さり、遺体の倒れ伏す床へ男を沈める。


「『ぐああああああ!! いたい! いたいいぃいい!』」


 絶叫をマイクが拾ったせいで、スピーカーと目の前の男からの悲鳴二重奏がナースステーション内に響く。

 俺はそれを無視して頭を抱えて転げまわる男へ全力の蹴りを追加で繰り出す。スニーカーで蹴飛ばしたのであまり威力は出なかったが、それでも人ひとりを昏倒させるには十分な感触が足に伝わる。


「『あぁあああああ!?』」


 しかし、目の前のマスク男はなおも耐えた。意識を飛ばすこともなく、這いずったままナースステーションの出口に向かって這いずっている。

 生き汚い奴め。こうなったら俺の手でとどめを刺してやる。胸の中の正義感が暴走しているのは自覚しているが、なんの罪もない人間を面白半分で殺してきたこの男を許すなと、わずかに残った理性を怒りが抑え込む。


「死ねっ」


 そして、俺が鼻息荒く手近にあった椅子を振り下ろしてマスク男を殺そうとしたときだった。

 ナースステーションの向かいにある中庭に通じる壁が轟音を立てて破壊され、噴煙が辺りに満ちた。このどこかで見た光景を、俺は瞬時に思い出した。

 あの日の、俺が酷い目に遭い始めた、あの日の光景だ。


「よぉ、助けに来たぜ【節制テンパランス】ちゃ~ん」


 そして、俺の目の前に二度と相対したくなかった、例の昆虫男が立ち塞がったのである。




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