第六話 秘密の特訓
翌日の早朝、俺はろくに寝ていない状態でルカと一緒に外へ出た。いつもなら寒さで暫くは毛布の中から出るのに時間がかかるのだが、今日はすんなりと起きる事ができた。起きれた理由はただ一つ。昨日、シャルロットが発言した言葉が頭からずっと離れなかったからだ。
「守られてばかり、だと? そんな言葉、二度と言わせねぇ……。ぜってぇ見返してやる……。客室でぬくぬくと寝てるシャルロットを見返して、俺はジーク・シェーンベルクの一人息子なんだって事を実力で認めさせてやるんだからな……。フフッ、フフフ……」
森の中を走っているルカの背の上で独り言をブツブツと呟くと、ルカは『ワウワウ……』と何か言いたげな表情になっていた。
目的地へ向かっている途中、昨日の出来事が脳裏をよぎった。
当初の目的であったアサルトドラゴンの討伐は失敗──。というのも洞窟のモンスター全てが〝魔王の残滓〟に侵されていたのだ。
三人がかりで全てのモンスターを討伐し、俺達親子が燃料石を集めている間にシャルロットは大穴を作り、死骸を一箇所に集めて火葬した。その間、俺達親子は来世は平和に暮らせるようにモンスター達に祈りを捧げたのだった。
現状、〝魔王の残滓〟に侵されたモンスターは素材として扱えないと言われている。しかし、俺は研究に使う為にアサルトドラゴンの肩肉と腿肉を持ち帰り、ついでに武器素材として重宝されている三本の角を持ち帰ってきた。父さんと話し合った結果、貴重なサンプルである黒い煤と一緒に角も知り合いに渡してみようという話になったのだ。
ちなみに切り落とした角は黒いオーラを纏っていたので、俺は勝手に〝ダークネス・スパイラル〟と名付けた。シャルロットには『男の子って本当にネーミングセンスがないわねぇ……』とダメ出しされてしまったが、彼女が名付けた〝大きくて硬い黒い角〟より遥かにマシだと思うのは俺だけの秘密だ。
「よし、やっと見えてきたぞ!」
俺達は砦から五キロ離れたヴェルディス湖の岸までやってきた。ルカには自主練が終わるまで岩場の上で寝ててもらう事にし、俺は剣を持って一人で森の中へ入っていく。
目の前には十五メートル程の巨大な大木が何本も聳え立っていた。俺は自主練を始める前に準備運動がてら、その場で何回かジャンプをした後、両手に剣をそれぞれ握りながら駆け出した。
「ハァッ!」
剣捌きのイメージは父親であるジークだ。昨夜、ジークが黒まんじゅうを倒した時の光景を思い浮かべながら剣を振る。数秒後に大木が滑るように倒れ、また別の大木に向かって剣を振る――それを繰り返していく。
しかし、それと同時に思い出させるシャルロットの悪気ない言葉。怒りの感情が湧いてくると同時に全身が熱く脈打っていた。ここまで心底腹が立ったのは、もしかしたら人生で初めてかもしれない。
俺は気が付けば天に向かって、「あぁーーっ!!」と叫んでいた。
「めっちゃくちゃ腹立つ!! 誰が料理番だ!? こう見えて俺はギルドに所属するハンターなんだぞぉぉーー!!」
俺の声が反響し山彦となって返ってくる。最上級の怒りを込めてここら辺で一番大きな大木と向かい合い、頭上から剣を振り下ろすと、落雷が落ちたかのように巨大な幹が綺麗に真っ二つになった。パァンッ! という聞き慣れない音が鳴り響き、砂埃が舞う。
「ハァッ……ハァッ……。あー、スッキリした!!」
俺は地面に剣を突き立て、ハァハァと肩で息をした。ふと背中に風を感じたので後ろを振り返ってみると、何も考えずに切り進んでいた為か馬車が二台分くらい通れるような道幅ができていた。
「へっ……。がむしゃらに切り倒してたら道ができてただなんてな。これは首都に行くまでの道を作るのに丁度いいかもしれねぇな」
俺の目標はシェーンベルク領を立て直して領主になること。今までジークの元でハンターをやっている傍ら、どうすればシェーンベルク領が良くなるかをずっと考えてきた。中でも道路の整備は必要不可欠であり、最優先事項だ。今は大木が重なるように倒れているが、ちゃんと根っこまで取り除いてレンガを敷けば少しは道らしくなるかもしれない。
「そういえば、国からの使者はいつもエンジェルホースに乗って来てたな。今後、行商人を呼ぶ時も道が必要になるし、まずは道路整備から始めた方がいいかもしれねぇな」
やるべき事が決まった俺は鼻歌を歌いながら、ルカが寝ている岩場まで戻る事に決めた――。が、砦の方角からルナが『キャンキャーーンッ!』と大声で鳴きながら走ってきた。
「ル、ルナ? なんだよ珍しい。いつも朝は父さんと一緒にベッドで寝てるのに。一体、どうしたんだ?」
『キャウッ!! キャウゥゥッ!!』
俺の服の裾を咥え、早く戻って来て! と言わんばかりの必死さで引っ張ってくる。ルナがこんなにも必死に何かを訴えてくる姿は見た事がない。どうやら砦で何かあったようだ。
「父さんの身に何かあったんだな?」
『キャンッ!』
「よし、そういう事ならすぐ戻るぞ。シェーンベルク家の家訓その一。俺の一大事は家族の一大事。家族の一大事は家族で対処するべしって父さんが言ってたからな」
そうは言ったものの、父さんでも対処できない事なんてあるのだろうか? そんな事を思いながら、俺はルナの背に跨り、ピューッ! と犬笛を鳴らす。こうしておけば、ルカは音に気付いて砦まで一人で戻ってくるはずだ。
「ルナ、頼んだぞ!」
『キャンッ!』
ルナは俺を乗せて全速力で走り出した。
俺は胸騒ぎがした。国からの使者がくるって時にトラブルが起こるだなんて、まるで不吉の前触れみたいだ。
「ったく、次から次へとトラブルが起こりやがる! 皆、俺が戻るまで無事でいてくれよ!?」




