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料理しかしてないのに仲間が最強になっていくんだが?〜きづけば領地、ダンジョン、世界を救ってました〜  作者: 尾松成也
第一章 遠い親戚と出会ったら、領地改革どころじゃなかった件

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第三話 魔王の残滓

 電気蛍という小さな虫を飛ばして視界を確保しながら、暗闇の森の中を剣を片手に慎重に歩いていく。先頭にはジーク、背中には大剣が一本。腰には短剣二本と長剣が一本、革製の鞘にそれぞれ収まっている。


 ジークは近距離戦が得意なハンターなので、今日の俺の装備は長剣が一本に短剣が二本。サポートできるように携帯罠一式とボウガンを持ってきた。ちなみにこのボウガンはいろんな火薬が使える最新型。王国の鍛治職人が集まる街で作られた物だ。


「うーん、なんかいつもの活気がないなぁ……」


 俺はボウガンを背負い直しながらポツリと呟く。いつもなら蝙蝠系のモンスターが頭上を飛んでいるのに今日は一匹も飛んでいない。違和感を感じた俺は「ねぇ、父さん」と話しかけた。


「なんかさ、いつもの森と様子が違うような気がするんだけど――っ!」


 突然、ジークに剣先を突き付けられた。驚いたが静かにしろという意味だと察した俺は咄嗟に背負っていたボウガンに手を伸ばす。


 ジークが指をさした方向を見てみると、黒くて大きな塊がアサルトドラゴンの子供と対峙していた。アサルトドラゴンの子供がシャーシャーと威嚇している。どうやら、親とはぐれてしまったようだ。


「なんだよ、あの黒いデカブツは……」

「わからん。けど、アサルトドラゴンの子供がこんな森の中でうろついている事自体が珍しい。普通なら洞窟の奥深くで親に守られて生活してるはずだからな」


 確かに、と俺は思った。アサルトドラゴンの子供は視力が弱く、生まれてから五年は親元で暮らさないと生きていけないモンスターだ。それがどうして森の中にいるのだろうか。


『シャーッ、シャーッ!』


 嗅覚だけを頼りに威嚇を繰り返すアサルトドラゴンの子供。しかし、目の前にいる黒くて大きな塊から細い触手のような物がゆっくりと伸びていった。鼻先で空気の揺れを察知したアサルトドラゴンの子供が素早く逃げようとした――だが、相手の方が一枚上手だった。


 触手が束になって一直線に腹を貫いたのだ。苦しそうに呻き声を上げるアサルトドラゴンの子供。しかし、大きな黒い塊はトドメを刺さず、そのまま触手で身体を持ち上げて地面に叩き付けるを繰り返し始めた。


『ギャッギャッギャッ!』


 一部始終を見ていた俺は声が出せなかった。そういう食べ方をするモンスターだっている――そう思う人間もきっといるだろう。けれど、あんなに残虐に獲物を痛めつけているのを見るのは初めてだったから怖くなった。


 なのに怖いもの見たさなのか視線が逸らせない。息が詰まる。心臓の音だけがうるさい。気分が悪くなって胃の中の物が逆流しそうになった。


 アサルトドラゴンの子供は頭を地面に強く叩き付けられた後、激しく痙攣し、やがて動かなくなった。大きな黒い塊が獲物を捕食しようと大きな口を開ける。タイミング良く雲の切れ間から月の光が差し込み、赤色に染まった白い歯がやたらと不気味に見えた。


 それからすぐに暗闇の奥で骨の砕く音や肉の千切れる音が聞こえてきた。息を潜めていた俺は心臓が早鐘を打つのを感じた。ボウガンの引き金を引こうとするも、ジークが俺の手を握って抑える。


「リヒト、このまま息を潜めてろよ」


 ジークが俺にそっと耳打ちし、俺が返事をする間もなく電気蛍の群れが入った瓶を大きな黒い塊に向けて投げ付けた。その瞬間、『ギャッ……』と短い悲鳴があがる。俺は恐怖心と戦いながらも茂みから奴の姿を覗き見た。


「なんだよ、あのモンスターは……」


 第一印象は闇を全身に纏っているようだった。のっぺりとした平たいまんじゅう型のフォルムに手足が左右に三本ずつついている。目も耳も鼻もない。大きな口だけをもつ異様な姿。明らかに俺が知っているようなモンスターではなかったから、勝手に黒まんじゅうと名付けた。


 静かに長剣を構えるジークを見て、黒まんじゅうは大きな口でニタニタと笑っている。暫く睨み合いが続いた後、先に動いたのは黒まんじゅうだった。背中から触手を伸ばし、ジークを串刺しにしようと攻撃を繰り出す。しかし、ジークは一振りで触手を全て薙ぎ払い、鞘に剣を納めていた。


『ギャアァァァァッ!!』


 黒まんじゅうは闇夜に向かって咆哮し、ズシン……と地面に崩れ落ちた。次第に身体を纏っていた闇が風に乗り、黒い煤となって散っていく。黒まんじゅうの正体を見た俺は、「えっ!?」と驚きを露わにした。


「これ……大人のアサルトドラゴンか!?」

「みたいだな。やっぱり、あの噂は本当だったか」


 土色の鱗に覆われた巨躯と山を削ると言われる三本の鋭い角――大人のアサルトドラゴンの特徴だ。ジークは片膝を着き、素材を刈り取る短剣でアサルトドラゴンの死体を突きながら難しい顔付きになっていた。まるで大変な事になったぞと言わんばかりの反応である。


「なんだよ、その噂って?」

「〝魔王の残滓〟さ。大昔、魔王の強大な魔力を世界各地のダンジョンに封印していたんだと。その封印が弱まっちまって、漏れ出た魔力がモンスターに悪影響を与えてるらしい。ギルドで出回ってた噂だが信憑性が増してきたな」


 厄介な事になったぞと言わんばかりに大きな溜息を吐いた。口の端から赤くて薄い舌がだらりと出ているアサルトドラゴンを見つめ、ある事に気付いた俺はハッと息を呑む。


「って事は、うちの領にダンジョンができたって事!?」

「みたいだな。一振りでコイツを倒せたところを見る限り、まだ出来たてのダンジョンみたいだ」


 嬉しくなった俺は目を大きく見開き、「凄い事じゃん!!」と喜びを露わにする。ダンジョンが領内にできたとすれば、観光名所として世界各国から観光客を呼び込めると思ったからだ。


「明日、国のお偉いさんにダンジョンが出来ましたって報告しようよ! ダンジョン目的で来たハンター達に俺の料理を振る舞って飯代と宿代を貰ってさ! そしたら、シェーンベルク領の財政も潤って万々歳じゃん!」


 領主としてやっていくという目標を抱いていた矢先に舞い込んできたビッグチャンス。この手を生かさないわけにはいかない――そう思っていたのに、「悪いがその案は却下だ」とジークは悩ましい顔で断言した。


「えっ、なんでだよ!? めちゃくちゃ良い案だと思ったのに!」

「昔、悪戯ばっかりするお前を反省させる為に放り込んだダンジョンとは桁違いのものなんだ。あれは早くなんとかしないとシェーンベルク領に住むモンスター達が危ない」


 昔、アンデット系のダンジョンに放り込まれた事だけは覚えていたが、まさかそんな理由があったとは思わず、俺は恥ずかしさで押し黙った。だけど、すぐに気を取り直して「それってどういう事だよ?」と質問する。


「〝魔王の残滓〟は例えるなら新種のウィルスだ。魔力に取り憑かれたモンスターを少しずつ侵して最後は魔王の魔力が全身に回り、身体を乗っ取られて死に至る。けど、コイツの厄介なところは伝染病みたいに他のモンスターにも影響が出るって所だ」


 ジークはウェストバッグの中から硝子の小瓶を取り出した。アサルトドラゴンの死体に付着していた黒い煤を剣先でかき集め、小瓶に入れて立ち上がった。


「それどうすんの?」

「〝魔王の残滓〟について調べてる奴に渡すんだ。めちゃくちゃ変わってるけど頼りになるんだよ。今、俺が言った事もそいつの受け売りだしな」


 そう言ってジークは小瓶をウェストバッグに仕舞った。

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