第二十六話 シャルロットの本当の目的
ジーク達がウォーレン山脈の頂上にあるダンジョンへ向かってから、俺達は領地の整備やスフレパンケーキ作りに精を出していた。
先ず、手を付けたのは少し前に怒りに任せて伐採した木の後処理だ。切り株を根から引っこ抜いて地面を均した後、シャルロットの地属性魔法で煉瓦を敷き詰めたんだ。
すると、あら不思議! 道らしい道がない自然豊かな領地に煉瓦道ができた事により、街らしい印象になったんだ! 道路問題はこれで解決……といきたいところだけど、問題は他にもあった。シェーンベルク領は夜になるとウルフ系のモンスターが出現しやすくなってしまうのだ。
シャルロット曰く、魔法具の人工的な明るさはモンスターを呼び寄せてしまう原因になるらしい。なので、別の手段で道を照らす方法はないか考えようという事になった。
次にシャルロットはテレポートの巻物を使い、砦内にある使用されていない部屋の扉を使ってポータルキーの制作に励んだ。途中、巻物に書かれていたマーリンの字の汚さ(多分、涎でインクが滲んでた)に苦戦しながらも、どうにかポータルキーの制作に成功したんだ。後はジーク達の連絡を待つだけってわけ!
……え? 俺は活躍してないって? いやいや、ちゃんと活躍しましたよ? シャルロットさんの為にお菓子作りに精を出したり、リクエストされたご飯を作ったり、スフレパンケーキに挑戦したり……。あれ、おかしいな。俺、料理しかしてない気がする――。
それに気付いた俺は門番を務めるルカに愚痴を洩らしていた。
「なぁ、ルカ……。俺、いつの間にか料理人になっちまってたよ……。最初は領民が集まってきたらハンターはやめようと思ってたんだけど、人生って自分の想像した通りにはいかねぇな……」
ルカが困ったように『ワゥ……』と泣き、俺の頭に片足を乗せてきた。これは『俺に早く飯を食わせろ』という催促だ。俺はいつになく、シュン……としながら「いっぱい食べろよ……」と俺が作った特製のタレで炒めたアサルトドラゴンの野菜炒めを出す。すると、ルカは一心不乱にガツガツと食べ始め、機嫌良さそうにブンブンと尻尾を振る。どうやら、ルカのお口にあったようだ。
「リヒトー、中庭は全部綺麗にしたわよ……って、どうしてそんなにへこんでるの!?」
俺の姿に驚いたシャルロットが駆け寄ってきた。
「いや、俺って本当に料理しかできないんだなって思って……」と悩みを打ち明けると、そんな事で悩んでるのか? と言わんばかりにシャルロットは短く溜息を吐く。
「何言ってるのよ!? 料理ができるって凄い事じゃない! 私、肉を焼き上げた時のジークさん達の反応が未だに忘れられないもの!」
鼻息荒く力説してくるシャルロットを見て、俺は「料理ができるって、そんなに凄い事なのか?」と聞き返す。「勿論よ!」と即答したシャルロットは俺の手を取って立ち上がらせた。
「私ね、この世で一番美味しい料理は父の料理だと思ってたんだけど、父が亡くなってから人の手料理を食べる機会があんまりなくて。母と毎日魔法の修行をしてた時も乾パンとか果物ばっかり食べてたから、久しぶりに食べた貴方の手料理にとっても感動したの」
俺は胸がじんわりと温かくなるのを感じた――が、シャルロットが続けた言葉に緊張が走る。
「それにね、これって誰でもできるわけじゃないと思うの! ほら、私なんてダークマターしか生み出せないし……。病に臥せった母に毒物並みの危険な料理を出すし……。ここに来てから本当に父の子供なのかなって考えた事もあったわ……」
ズンと落ち込む様子のシャルロットを見て、今度は俺が「シャルロットが作る料理もいろんな可能性を秘めてると思うぞ!?」とフォローを入れる羽目になった。
「ほら、シャルロットが父さん達の前で魔法を使って肉を焼いてみせただろ!? あんな豪快な料理は普通の人じゃなかなかできない事だと思うんだ!」
「そうかしら? あれくらいの事、魔法使いなら誰でもできそうだけど……」
「俺は凄い事だと思うぜ! 昨日やったのをお客さんの前でやってくれよ! 父さんがモンスターを狩って、俺が捌いて、シャルロットが豪快に焼く……それってなんだかショーみたいじゃないか!?」
「……それってサーカスみたいな?」
この空気感でサーカスってなんだ? と聞く事ができず、俺は「そうそう! サーカスってやつだ!」と適当に答えると、シャルロットはみるみるうちに元気を取り戻したのだった。
「それなら、私……自分の魔法で人を喜ばせることをしてみたい! リュネクレール帝国の首都に訪れたサーカス団みたいに幻想的な魔法を使って人を楽しませたり幸せな気持ちにする! 私の魔法は人を傷つける為にあるんじゃないもの!」
シャルロットは嬉しそうに宣言した後、俺の手を握って「ありがとう、リヒト!」とお礼を述べたのだった。
「私、魔法で何をしたいのかずっと探してたんだけど、やっと見つけた! 私は帝国の操り人形にはならないし、病で寝たきりの母もこっちに呼んで一緒に暮らしてみせるわ!」
話の中で気になるワードが出てきた為、「ちょっと待て。帝国の操り人形ってどういう意味だよ?」と目を丸くしていると、シャルロットは眉尻を下げて話し始めた。
「実は私、リュネクレール帝国の帝国魔法協会っていう魔法使い専用のギルドに所属してるの。だけど、最近帝国を治めている帝王が何かに怯えてるみたいで、ギルドに所属してる魔法使い達を戦闘用人形化してるみたいなの」
「戦闘用人形って?」
俺が聞き返すと、シャルロットは「分かりやすく言えば、魔法使いを強制的に戦闘用の傀儡人形にしちゃうの」と説明してくれた。
「王太子に魔法を指導している母が帝王に『人の意思をなくして、傀儡人形にするのはやりすぎだ!』って帝王に直談判に行ったんだけど、その時に何かの呪いをかけられちゃったみたいで……。母の一番弟子だった私の力でもどうにもならなかった。だから、父のスキルを持っている子孫に会えば母にかけられた呪いを治せるかもと思って王国に来たの」
そういえば最初に会った頃、そんなことを言っていたなと思い出した俺は「それでウォーレン山脈を超えて来たってわけか」と納得したような表情になった。
「……でも、そんな状況で故郷から離れてても大丈夫なのか? 俺の母さんは倒れるギリギリまで我慢してて、俺達が気づいた頃には手遅れだったからさ」
言おうか迷った末に俺は遠慮がちに言った。人の家庭に口出ししないタイプではあるが、母さんが余命半年と告げられて半年経たずに亡くなってしまった経験がある為、シャルロットには後悔してほしくないと感じたからだった。
「大丈夫よ。エルフは長寿を誇る種族であるし、今は母の故郷の人達が呪いの進行を止めてくれてる。それに今は父のスキルを受け継いだ貴方がいるもの! 絶対大丈夫だって信じてるわ!」
シャルロットが真剣な表情で俺の手を握りながら言う。「それは責任重大だな」と俺が苦笑いすると、「そう、責任重大よ?」と当たり前のように肯定した。
「貴方の料理にはいろんな可能性を秘めてる。私がこうして領地改革を手伝っているのも、貴方に料理に専念してほしいからっていうのもあるんだけど……」
何故かシャルロットの耳先がほんのりと赤く染まり始めている。それを見た俺は少し首を傾げていると、少し潤んだ目で「わ、私……。あ、貴方の……」とまで聞こえたが、肝心のその先は聞こえなかった。
「シャルロット、今なんて――ブッ!?」
「な、なんでもないわ! 早く草むしりをやったお礼の今デザートを食べさせなさい!」
魔法で作った雪玉を口一杯に突っ込まれた俺を見たルカは『ギャンッ!?』と驚いたように鳴き声をあげていた。




