第二十四話 異世界レシピとエクストラスキル
「シャルロット、準備はいいか?」
「えぇ、準備万端よ!」
「くれぐれも火力のコントロールには気をつけてくれよ? イメージは暖炉だからな」
「わ、わかってるわよ! さぁ、いくわよ……」
目の前にはジーク達が切り分けたミノタウロスのリブロースとサーロインの塊。シャルロットは深呼吸をした後、炭や落ち葉を集めた焚き火に向かって火の魔法を放とうとしていた。
「火の精霊よ! 我が魔力を喰らい、放て! ヘル・ファイア!」
杖の先から火の玉が何個も放たれ、炎の海が広がった。しばらくしてミノタウロスの肉から脂が滴り、ジュウジュウと焼けていく香りが漂ってくる。
俺は焦げないように肉を回転させていたが、生肉の状態でかぶりつきたくなっていた。それは俺だけではなかったようで、ジークやバルドも真顔で涎を垂れ流しにして待ち構えている。ついでのついでに言うと、門番をしているルカとルナも匂いにつられてこちらを覗き込んでいた。
「さぁて、お待ちどう!! これが俺の作った料理、ミノタウロス尽くしの肉料理だ!!」
「うぉぉっ、すげぇっ!! どこを見ても肉、肉、肉……まさに肉の暴力だな!!」
焼き上がった分厚い肉の塊を切り分けた瞬間、ジークとバルドが歓声を上げた。エールを片手に早速、二人は飲み食いを始める。
「おぉっ、噛むたびに肉汁が溢れえ止まらねぇぞ!」
「絶妙な焼き加減だ! 良い仕事してるぜ、シャルロットちゃん!」
ジーク達の反応を見聞きしたシャルロットは達成感を感じたのか、「やったわ!!」と俺にハイタッチを求めてきた。
「ぷはぁっ!! 仕留めたモンスターに感謝して流し込むエールは格別に美味いっ!! これがあるからハンターはやめられないんだよなぁ!!」
「この寒空の下で飲むエールは最高だな!! ミノタウロスのレバ刺しも新鮮で最高なんだが、そろそろ暖かい物も食いたいな。えぇっと、他の料理は……。む、あの鍋はなんだ?」
焼いた肉の隣に置いてあった大鍋を見て、ジークとバルドはエールを飲むのをやめて目を丸くした。中には野菜とニンニクがたっぷりと入った鍋に加え、炭火でじっくりと焼いたモツが浮かんでいた。
ちなみに異世界のレシピには炭火で焼くという文言はなかったのだが、エルフ族は肉をあまり食べる習慣がないようだった為、シャルロットの為に余分な油を落としてみたのだ。
「リヒト、この料理はなんだ? 見たことのない料理のようだが……」
「あれは異世界からきた料理人がレシピに残してくれた料理、その名もモツ鍋だ!!」
「モツ鍋? なんだそれは? 美味いのか?」
バルドも気になったのか鍋の中を覗き込む。すると、蒸気と共に上がってきたニンニクの香りに「これは!?」と目を見開いたのだった。
「ジーク、これは絶対美味いやつだ!! 俺の勘がそう告げている!!」
「何? どれどれ……ぬぉ!? このニンニクの香り、たまんねぇ〜〜!! リヒト、早くこのモツ鍋とやらを皿に装ってくれ!!」
急かしてくるジークを見て、どっちが子供か分からねぇな……と苦笑いしながらも、「はいよ!」とモツ鍋が入った器を二人に差し出す。
二人はフォークでミノタウロスのモツを刺し、しげしげとプリップリに輝くモツを眺めた後、チラッと顔を見合わせて同時にバクッと頬張った。
「むぅっ!?」
「うぉぉぉぉっ!!」
二人がモツ鍋を食べた瞬間、目が開けていられないくらい身体が発光し始めた。
「な、なんだっ!?」
「うぅ〜、目を開けていられない〜っ!!」
光が収まってきた頃、恐る恐る目を開けてみると驚愕の光景が広がっていた。
元々筋肉隆々な体格を誇っていたプラチナ級ハンターの二人がマッスルポーズを決めて立っていたのだ。胸筋は盛り上がり、腕の筋肉が二回り程に成長をしている。極め付けには肌がツルツルのモチモチに変わっているのが印象的だった。
「ジーク、お前の息子が持つエクストラスキルは凄いな……。俺の身体中の筋肉がこれ程までに喜んでいるのは初めての経験だぞ……」
「俺もだ……。この状態だったら一人でミノタウロスやヴェノムスパイダー共を駆逐できそうだ……」
フフフ……と薄ら笑いを浮かべる二人を見て、「やっぱり、ハンターって頭がおかしいわ……」とシャルロットが再びドン引きしていたが、俺は確かな手応えを感じていた。
今回、異世界のレシピが俺のエクストラスキルと合わさって相乗効果を発揮したことは間違いない。何より食材が持っていた記憶も自分の意思で垣間見る事ができた。
恐らく、今までは無意識で料理錬金術師の力を使っていたのだろう。マーリンにエクストラスキルを持っていると言われなかったら、一生、宝の持ち腐れだったかもしれない。
「……なぁ、シャルロット」
「どうしたの?」
「このスキルで最前線で戦うハンター達を支えていきたいって思ったんだけど、どう思う?」
プラチナ級ハンター達がいろんなポーズを決めて騒ぐのを見ながら少し遠慮がちに聞く。すると、シャルロットは笑顔で「愚問ね!」と答えた。
「貴方の夢は領主になる事なんでしょ? 将来的には領地に人を呼んで、ハンター達や領民達を料理をもてなすのがいいんじゃないかしら?」
シャルロットの言葉に俺は胸が熱くなるのを感じる。
両手で静かに拳を握ると自然と笑みが溢れた――が、シャルロットが続けた台詞で将来のビジョンにヒビが入ってしまう。
「個人的に貴方は剣を振るうよりも包丁を握っている方が似合ってると思うし! モンスターの討伐や素材集めは私やジーク様に任せて、貴方は料理番として腕を振るってのはどう?」
「りょ、料理番として……?」
あれ? 俺、ハンターじゃなくなってる……? そう思った俺は、「待て待て待て!」と即座に反論した。
「あのさ! 最終的に領主になるつもりなんだけど、ハンターをやめるとは一言も言ってないんですが!?」
「え、そうなの? 正直、私から見て貴方はハンターとしての才はないと思うし、料理に専念した方がいいと思ったんだけど……」
ハンターとしての才はないと思うし、料理に専念した方がいい――。
ハンターとしての才はないと思うし、料理に専念した方がいい――。
ハンターとしての才はないと思うし、料理に専念した方がいい――。
頭の中でシャルロットの台詞が反響する。俺は反論する気も失せてしまい、またもや「泣けるぜ……」という台詞を吐いてしまった。




