第二十三話 温泉の後で(ジークside)
リヒト達が料理に奮闘している頃、プラチナ級ハンターの二人は温泉から上がって厨房を目指して歩いていた――。
「ふぃ〜、いい湯だった! やっぱり、一仕事をした後の温泉は格別だな! この後は美味い飯に美味い酒で明日に備えて寝るぞ!」
「そういえば、バルド。お前はリヒトが作る料理を食べるのは初めてだったな?」
ジークの問いかけにバルドは「あぁ、そうだな」と濡れた髪を掻き上げながら頷いた。
「何年か前に来た時はエリザベートは生きてたし、その時のリヒトは俺の腰くらいの身長だったもんな」
バルドの言葉にジークは「そうだったな!」と当時を思い出したかのように笑みを溢す。
「聞いて驚け。リヒトはエリザベートの料理スキルを受け継いでいたのさ」
「何!? 料理にもスキルがあるのか!?」
「しかもマーリンのお墨付きだぞ? エクストラスキルという珍しいスキルらしい!」
「エクストラスキル? なんだそのスキルは?」
バルドが驚きを露わにするのを見て、ジークは鼻がぐんと伸びた。「まだまだ謎の多いスキルらしいが、料理錬金術師って名前のスキルらしいぜ?」と言うと、バルドは少年のようにキラキラと目を輝かせ始めた。
「どんなスキルか分からないが、名前からして凄いスキルそうだな!!」
「俺もまだよく分かってないが、食べた者の能力や力を強化してくれるらしい。思い当たる節はいくつかあってだな、なんとヴェノムスパイダーの大規模討伐依頼に参加した時も何故か俺だけ解毒薬が必要なかったんだ!」
「何!? ヴェ……ヴェノムスパイダー、だと!? 猛毒の牙や爪に触れるだけで皮膚が爛れてしまうという毒蜘蛛か!?」
バルドが驚くのも無理はなかった。ヴェノムスパイダーは深い森の奥に群れで生活するモンスターで、一匹見つけたら百匹は巣食っていると噂されている個体だ。
大規模討伐となると、最低でも千匹以上のヴェノムスパイダー達を相手にする事となり、小さな傷一つで致命傷になり得る。マーリンのお陰で解毒薬は開発されていたものの、毒そのものを無効化する事はできなかったのだ。
「もしかしたら、リヒトは何か使命を持って生まれてきたのかも知れねぇ。居候してるシャルロットちゃんも魔王を倒した勇者一行の子孫みたいだしな」
「野生の勘だな。もしかしたら、これから行くダンジョンでも何か起こるかもしれないぞ」
「あぁ、縁起を担ぐ為にもリヒトの飯はちゃんと食っとかないと――」
砦の二階へ上がり、ジークが一点を見つめて急に黙り込んでしまった。バルドも同じように視線を向けてみる。厨房の扉の隙間からもくもくと白煙が漏れていた。廊下の奥まで煙で白み、濃厚な油の匂いが漂っている。一目見て、只事ではないと感じさせた。
「火事か!? あっ、おい! ジーク、そんな軽装で飛び込むな!」
バルドの静止を振り切って、ジークは頭で考えるよりも先に身体が動いていた。廊下に置いてあったバケツを抱えて厨房の木製の分厚い扉に向かって飛び蹴りを喰らわせる。扉は跡形もなく大破してしまったが、水は一滴も溢さずに煙が上がっていた場所へバケツをひっくり返したのだった。
「リヒト、大丈夫か!?」
ジークが大声で呼びかけると、「いきなり何するんだよ、父さん!?」と怒ったような返事が返ってきたので、ホッと胸を撫で下ろしたのだった。
煙が少しずつ晴れてきた頃、リヒトとシャルロットがトングを手に持ったまま土製の小さな四角い箱を囲むように座っていた。中には炭と思しき黒い塊が積み上げられ、網の上には白くてプリッとした内臓が乗っかっている。それを見たジークは一目で「それは……ミノタウロスの腸か?」と見抜いたのだった。
「シャルロットと一緒にモツ鍋を作ってたんだけど、材料が思ったより余っちゃったから別の料理も作ってたんだ」
「それであの煙の量だったってわけか」
「そうそう。油が炭に落ちた瞬間、煙が止まんなくなってさ。一応、シャルロットの風魔法で換気はしてたつもりなんだけど、焼肉って料理は部屋でやる料理じゃないのかもな」
悪びれもなさそうなリヒトの言葉に流石のジークも思う所があったのか、ゆらりとリヒト達に近付いた。
「あぁ、そうだな……。これは部屋の中でやる料理じゃねぇよ……」
そう言葉を発した後、ジークはそれぞれの額にデコピンを喰らわせたのだった。
シャルロットに対しては力加減をしたのか、「いたっ!」と反応していたが、リヒトは「ぎゃあっ!!」と悲鳴をあげながら軽く吹っ飛んでいた。
「いいか、二人共。この焼肉という料理は家の中じゃなく外でするように。後、部屋の中で炭は使うな。分かったな?」
「は……はい……。すみませんでした……」
リヒトが白目を剥いて気絶したのを見て、シャルロットはガタガタと震えることしかできなかった。
明けましておめでとうございます!
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