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料理しかしてないのに仲間が最強になっていくんだが?〜きづけば領地、ダンジョン、世界を救ってました〜  作者: 尾松成也
第一章 遠い親戚と出会ったら、領地改革どころじゃなかった件

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第十七話 王立魔法生物研究所④

「おっと、もうこんな時間じゃな。長々と喋ってしもうたが、お主達にこれを渡しておこう」


 そう言ってマーリンは巻き物を俺に手渡してきた。


「これは妾が考案したテレポートの巻き物じゃ。お主が持って来た〝ダークネス・スパイラル〟のような未知の素材にも興味もあるしの。お主の領地に大勢のハンター達が訪れる事を考えて、今後はダンジョンの入口と砦を繋げて自由に行き来できるようにしようと思っておる。シャルロット、お前がこの巻き物を使って領地にポータルキーを作るんじゃ」

「承知しました! 無限の魔女の娘、シャルロット・リュミエールが必ず遂行してみせます!」


 誇らしげに胸に手を当てたシャルロットを見て、「うむ、期待しておるぞ!」とマーリンも嬉しそうに頷いた。

 

「そして、リヒト。お主は変わらず領地改革を目標に邁進していってほしい。妾の勘は当たる。しかも今回は悪い方の意味でな」

「はい……。でも正直、マーリンさんの話を聞いて迷いが出てきちゃいました」

「ほぅ、迷いじゃと?」


 マーリンが意外だなという表情をしているのを見て、恐らく父親であるジークの気楽でおおらかな性格と比べているのだと漠然と思ってしまった。


「俺、小さい頃から自分の領地が好きで、領主になって領地を発展させたいってずっと思ってました。けど、領地を改革すれば、大なり小なり人が集まるじゃないですか。魔獣が復活したら、領地にいる人達が犠牲になりそうな気がしてるんです。それは嫌だなと思って……」


 焦りと不安を感じているのか、肩にズシッとした重みがのしかかる。将来的に領主になるなら、こんなプレッシャーは当たり前なのだろうが、いろんな問題が降りかかりすぎて何から手をつけていいか分からなくなってしまったのだ。


「なんじゃそんな事か。不安を煽るようで申し訳ないが、これからお主の領地には自然と人が集まって来るぞ」

「えっ!? なんでそんな事が分かるんですか!?」

「そんなの決まっておろう。お主が料理錬金術師(フードアルケミスト)のスキルを持っておるからじゃ」


 マーリンはフフンと得意気な表情で俺の顔を見つめてきた。


「良いか? 人間には三大欲求というものがある。その一つが食欲じゃ。中でもハンターをやっとる人間は食を何より大事にしておる。この重要さがお主にわかるか?」

「……ハンターにとって目の前の食事が最後の晩餐になるかもしれないからですよね?」


 これは幼い頃から両親の背中を見て育ってきたからこそ答えられた事だ。ジークは大型のモンスター討伐依頼を受けた時には必ず母さんの手料理をたくさん食べた。厨房で料理をする母さんの表情がいつもよりも真剣で気軽に話しかけられなかった事を俺は今でもよく覚えている。


 マーリンも「そうじゃ」と真剣な表情で頷いた。


「特にお主の作る料理は特別じゃ。その効果は生きとし生ける者達に恩恵(ギフト)を与える程にな。それに、これから王立冒険者協会に緊急調査依頼が出される。そうすれば、お主の砦にハンター達が泊まる事になって料理を振る舞う事になるじゃろう。ハンター達は美味い飯を食べれるし、お主達もお財布が潤う! 更に口コミは口コミを呼び、増客が見込める! これぞウィンウィンの関係――名付けて、噂が噂を呼ぶ領地改革作戦じゃ!!」

「う、噂が噂を呼ぶ……領地改革作戦……?」


 俺は驚きのあまり、口をポカンと開けて黙り込んでしまった。どうやら、マーリンも長い作戦名がお好きなようだ。


「キャーッ! 凄いです、マーリン様! 天才です!」

「そうじゃろう、そうじゃろう!? もっと褒め称えてもいいのじゃぞ!?」

 

 シャルロットがマーリンに向かって拍手をしていたが、ハッと我に返った俺は「ちょ、ちょっと待って下さい!」とすかさずツッコミを入れた。


「マーリンさんの話を聞いて、人を集めない方向で領地を発展させようって考えたんですが!?」

「んー、早々に諦めるんじゃな。お主が思ってる以上に人の食欲は侮れんぞ? 王都でも口コミが口コミを呼んでプライドの高い貴族共が庶民が住まう商業区にまで足を運ぶようになっておるのだからな。それに……これは仲間を集めるチャンスでもあるのじゃ!」


 鼻先に指をさされた俺は、「な、仲間ですか?」と言葉を繰り返した。


「お前達がエクストラスキルを持って生まれた事が何よりの証拠。近い未来、勇者の子孫達がお主の領地に集まり、エクストラスキルを持ってこの世界の脅威に立ち向かうに違いない。その者達が集まった時には件の魔獣も討伐できよう。領地存続の鍵を握るのは、勇者の子孫――その中でもエクストラスキルを持つ子孫達じゃ! その為には料理で話題を作り、人を集め、領地を大きくするのが一番なのじゃ!」

「は……話の筋は分かりましたけど、エクストラスキル? を持った人間が都合良く集まりますかね……?」


 俺は自信なさげに視線を彷徨わせた。しかし、一方のマーリンは自信満々な様子で「無論じゃ!」と拳を握って熱く宣言したのだった。


「勇者一行は皆、料理錬金術師(フードアルケミスト)の虜じゃった。それは遺伝子にも深く刻まれておろう。心配なんてせずとも、お主が料理を作っておれば結果はついてくるはずじゃ!」

「そうよ、リヒト! 無限の魔女の娘である私もいるんだもの! 絶対に大丈夫よ!」


 あぁ、この二人の自信はどこから湧き出て来るんだろうか……。


 俺はそう思いながら項垂れてしまったが、不思議とさっきより気持ちが楽になったような気がしていた。


「そうじゃ、お主達。この後、どこかへ行くつもりか?」

「はい。シャルロットと一緒にスフレパンケーキの材料を買いに行くつもりです」

「なぬっ、スフレパンケーキ!? 妾の知らぬ異世界料理じゃ! まさか、これから作るつもりか!?」


 マーリンがカッと目を見開いたと同時に魔力が溢れ、高級羊皮紙が宙を舞う。ビリビリと肌を刺すような痛みに襲われた俺は、「作った事がないので上手くできるか分かりませんけど……」と後退りしながら答えるしかできなかった。


「なら、スフレパンケーキとやらができたら妾に献上すると良い! 妾はこう見えて世界にたった一人しかいない錬金術師――創造の魔女、マーリン・スィルヴァノアじゃ! 商人達が喉から手が出るほどの素材をお主に提供すると約束しよう!」


 マーリンが子供のように白い歯を見せて笑うのを見て、俺は自然と笑みが溢れた。どうやらエルフ族は皆、美味しい食べ物が好きで食いしん坊のようである。


 でも……これだけ期待されているなら作るしかないよな!


「上手くできたら持ってきますね!」

「うむ、期待しておるぞ! ジークにもよろしく伝えてくれ!」

「はい、今日はありがとうございました――って、あれ? いつの間に戻されたんだ?」


 俺達はいつの間にか王立魔法生物研究所の門扉の前に戻されていた。「詠唱もなしで本当に凄いわ……」と驚くシャルロットをよそに、俺は一人で拳を強く握っていた。


 俺が領地を守る為にやれることはやった。後はマーリンさんが王立冒険者協会に出した依頼が父さんに話が来ればいい。後は運に任せるしかないか――。


 とりあえず、俺は肩の力を抜く為に大きく息を吐いた。


「大きな用事は済ませたし早く市場に行こうぜ。スフレパンケーキも試しに作ってみたいしな」

「えぇ! 私、市場は生まれて初めて行くから楽しみ!」


 好奇心が抑えられない様子のシャルロットと他愛のない会話をしながら市場へ向かう最中、冷たい風がゆるやかに頬を撫でた。

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