第十五話 王立魔法生物研究所②
料理錬金術師とは、勇者一行と魔王を倒す旅をした異世界人が持っていたスキルである。このスキルを持つ者は料理で、ありとあらゆる能力を強化し、更には状態異常を治す効果を持つ万能なスキルらしい。
このスキルのお陰で勇者達は魔王に打ち勝つ事ができたとかなんとか……。どこまで本当か分からねぇけど、かなり重要なスキルらしかった。
「ジークからお前さんの話は聞いておったが、奴と同じスキルを持つ人間に再び巡り会えるとはの! やはり、長生きしてみるものじゃな!」
マーリンは機嫌良く最後のドーナツを頬張った後、指をペロリと舐めた。
「つまり、俺の作る料理は特別って事ですか?」
俺の質問にマーリンは大きく頷いた。
「厳密に言うと、親から子へ継承されるエクストラスキルというやつじゃ。妾に降り掛かったマイコニドの胞子を一瞬で解毒したのが何よりの証拠。シャルロット、お主もリヒトの料理を食べたのじゃろう? 身体の中心から湧き出る魔力を感じているはずじゃ」
「は、はい。確かに胸の奥がずっと熱いです」
シャルロットは自分の胸に手を当てながら言う。すると、マーリンはシャルロットをジッと見つめたまま眉根を寄せ、驚きの言葉を発した。
「……お主、本当にミレーナの娘か?」
「はい。無限の魔女、ミレーナ・リュミエールの娘です。マーリン様のお噂は母から聞き存じております」
「ほう? では、我が弟子から魔術の基礎を教えてもらわなかったのか?」
マーリンから発せられる怒気にシャルロットはビクッと肩を震わせた。
「ちゃ……ちゃんと教わりました!」
「嘘を吐くでない! 妾くらいの魔術師になれば、魔力コントロールがなっとらんのが丸分かりじゃぞ!」
マーリンが指をさして指摘すると、シャルロットの顔が真っ赤に染まり、バツが悪そうに視線を逸らした。
「お主もミレーナからエクストラスキル・無限魔力を受け継いでおるようじゃが、今のままでは宝の持ち腐れじゃ! お主はミレーナから何も教わっとらんのか!?」
「本当に母から一通り教わりました! 母の厳しい指導のお陰でハーフエルフの私でも一人前の魔術師として里長に認められたんです! 母の名に恥じぬよう、厳しい鍛錬を積んできました!」
シャルロットが負けじと声を張り上げる。俺は口を挟むタイミングが見つからず、二人の話を聞くだけになっていた。
「では、何故コントロールができておらぬのじゃ!? さっきも言ったが、魔術のコントロールは基礎中の基礎! 弟子の不出来は妾の不出来でもあるのじゃ! こうなった原因は分かっておるんじゃろうな!?」
マーリンの厳しい指摘にシャルロットは迷いを見せた。そして、何故か俺をチラッと見た後、半泣きになりながら空になったバスケットに指をさす。
何秒か無言になった後、俺は「……え? もしかして、原因って俺の料理?」と素っ頓狂な声をあげてしまった。
「リ、リヒトの料理を食べてから魔力が抑えられなくって……。朝食をいただいてから、魔力のコントロールが効かなくなってるんです。だから……これ以上、母を侮辱しないで下さい……」
シャルロットがポロポロと涙を溢した。一方のマーリンはというと、「いかんのう。いくらミレーナの娘だからといって性格まで同じとは限らんのに……」と気まずそうに頭を掻いていた。
「すまぬ。お主は外見も魔力もミレーナに似ておるから、つい声を荒げてしもうた。お主はミレーナの事を心の底から尊敬しとるんじゃな」
「いえ、私こそ感情をぶつけてしまってすみませんでした!」
勢いよく頭を下げたシャルロットの頭を撫でるマーリンを見て、「あのう、俺の存在を忘れないでくれます……?」と俺と遠慮がちに挙手をした。
「つまり、コントロールが効かなくなったのは俺の料理のせいって事ですか?」
俺の言葉に二人は顔を見合わせた。「ま、そういう事じゃの!」とマーリンの言葉にシャルロットは何度も頷いていたが、そんなバフ効果あるんだ……と俺は末恐ろしくなってしまった。
「じゃあ、シャルロットは俺の料理はもう食べないって事でいいんだよな? 魔力コントロールが効かなくて、今度は砦を燃やされちまうかもしれねぇもんな」
「えっ!? いやよ、絶対に嫌!! 貴方の美味しい料理を食べれないなんて死んだ方がマシ!! 無限の魔女の娘として魔力コントロールも完璧にしてみせるんだから!!」
しんみりとした空気を変えようと冗談を言ったつもりだったが、本気と捉えたシャルロットが必死の形相で俺の手を握ってきた。あまりの勢いに俺は「お、おう……」と気圧されてしまったのだった。
「しかし、揃いも揃ってエクストラスキルを受け継いでおるとは……。これは何かが起こる前触れかもしれんな。早速じゃが、例の物を見せてくれんか?」
「あ、はい! こっちが〝魔王の残滓〟で、これが〝ダークネス・スパイラル〟です!」
俺は鞄から素材を取り出し、先に〝ダークネス・スパイラル〟を渡す。すると、マーリンは「なんと、これはアサルトドラゴンの角か!?」と驚きを露わにした。
「アサルトドラゴンの角はダイヤモンド並に硬いと聞くが、魔王の魔力に染まってるせいか、先端から断面まで真っ黒じゃな!」
「〝魔王の残滓〟に侵された素材も何かに使えるんじゃないかと思って持って来ました。一応、〝魔王の残滓〟に侵された肉もうちの領地で保管してるので、今度試しに使ってみるつもりです」
今度は本命の〝魔王の残滓〟を渡すと、「お前さんも研究熱心じゃのう!」と褒めてくれたのだった。
「俺は自分の領地やモンスター達を守りたいだけなんです。その為だったらなんでも試します」
「その心意気や良し! じゃが……そうも言ってられん状況かもしれんぞ」
マーリンは〝魔王の残滓〟が入った小瓶を持って、巨大な模型の前に立った。コルク栓を開け、中に入っていた〝魔王の残滓〟をシェーンベルク領が描かれている場所へ振り撒く。
すると、刺さっていた白い駒が黒色に染まり、駒を起点に小蜘蛛が散るように地図へ広がりを見せいった。小さな黒い点がウォーレン山脈や森に散っていくのを見て、俺は「あっ……」と声を上げる。
「この小さな黒点、もしかして〝魔王の残滓〟に侵されたモンスターの居場所を示してるのか?」
「ご明察。より詳しく言えば、〝いる場所〟と〝いた場所〟を示しておる。そこからとある物を割り出そうとしておるのじゃ」
マーリンが暫く地図をジッと眺めた後、黒い点が集まった箇所にチェス駒のキングを刺した。
「ここじゃな。ここに〝封印石〟が安置されてるダンジョンがあるに違いない」
マーリンが駒を置いた場所――そこは、国が禁足地に指定しているウォーレン山脈の山頂だった。




