第十二話 異世界料理のレシピ
「今朝、食べた〝ダークマター〟が俺に作って欲しい料理……?」
俺は食べた時の事を思い出し、血の気が引くのを感じた。
生命力を一瞬で吸い上げられたかのような初めての感覚。砂を噛んでいるような歯応え。鼻から突き抜ける焦げ臭さ。今思い出してもゲンナリとしてしまう。
しかし、シャルロットは俺の反応を気にしていないのか、「そうなの!」と意気揚々と話し始めた。
「あの料理の名前は〝スフレパンケーキ〟って言うの! 私が作ったのは失敗作! 火力を間違えて消し炭にしちゃったんだけど、本当はフワッフワのプルップルで口の中でシュワッて、とろけちゃうんだから!」
「すふれ……? なんだそれ、聞いた事がないな」
俺は興味がそそられた。俺の反応にシャルロットも嬉しいようで、「でしょ!?」と目を輝かせ始めた。
「スフレパンケーキは私の父が生まれ育った世界――つまり、異世界で考えられた料理なの!」
異世界で考えられた料理と聞いて興味が湧いてきた。
「レシピはないのか? 一度、俺が作れるかとか材料を見ておきたいんだけど」
「フッフッフッ、そう聞かれると思って家から持ち出してきたわ! じゃじゃーんっ、これが異世界料理ブック! その名も〝タカナシシェフの料理レシピ(上)〜ちょっぴり異世界のスパイスを添えて〜〟よ!」
シャルロットは魔法で作り出した空間に手を突っ込み、分厚い古びた本を取り出した。
「やたらと長いタイトルの本だなぁ……」
「父曰く、異世界ではこういう長いタイトルが流行っていたらしいわ!」
俺は苦笑いしつつ、本を受け取って数ページ捲ってみた。
内容は旅の日記だった。勇者アレンとその仲間達が、魔王を倒すという厳しい旅路の最中に起こったトラブルや振る舞った数々の料理が詳しく記されていた。
『◯◯年◯◯月――。
突然、前衛を務めるレックスが肉が食べたいと言い始めた。
しかも強い魔力が宿った魔物の内臓が食べたいらしい。ちゃんとした下処理をすれば、内臓も美味しく食べれるんだと。
僧侶のエリクトと魔法使いのミレーナはそんなゲテモノ料理なんて食べたくない! と断固拒否していたが、俺は日本という国から来た料理人だ。二人を美味いと言わせるのが、料理人としての腕の見せどころである。
内臓を使った美味い料理はいろいろ知ってるが、やっぱり寒い日には〝モツ鍋〟がピッタリだよな! という事で、レックスにはミノタウロスを狩ってきてもらおうと思う! 牛系の魔物だったら、エリクトもミレーナも食べたいって言うだろうしな!
まぁ、嫌だって言っても無理やり食わせるけど。笑』
読了した後、不思議な事に〝モツ鍋〟の作り方が頭に浮かんできた。料理の映像や香りを脳で感じ取り、ジュルッと唾液が込み上げる。もしかしたら、俺の母さんの先祖が〝タカナシ〟なのと何か関係があるのかもしれない。そう考えた瞬間、血が騒つくのを感じた。
シャルロットに兄弟がいるのか分からないけど、出会ってまだ日も浅いからプライベートな事は聞かないでおこう……。
そう考えた俺は再び意識をレシピ本に戻した。ページを捲るたびに見たことのない料理が載っている。どれも美味しそうな料理ばかりで、勇者達も満足そうに食事をしている姿が頭に浮かんできた。
「どう? 興味湧いた?」
シャルロットに話しかけられ、俺はハッと我に返った。
「めちゃくちゃ湧いた! 特にこの〝モツ鍋〟って料理はハンター達が喜んでくれそうな気がするんだよね! 山岳地帯に似た系統のモンスターが生息してるし、〝モツ鍋〟は寒い季節に最適な料理だ! それにシェーンベルク領の名物飯として出したら人が集まるかもしれないしな!」
「フフッ、それは良かったわ! じゃあ、今度は私の作って欲しい料理も見て欲しいんだけど……」
そう言って、シャルロットは風魔法でページを開くと、〝スフレパンケーキ〟のレシピとイメージが頭の中に流れ込んできた。
スプーンで押しても跳ね返ってくるフワフワのパンケーキ。天辺には溶け始めたバターがとろりと流れ落ち、芳醇な香りが辺りに漂っている。
脳で情報を受け取ってるから香りはしないはずなのに、いつの間にか口の端から涎が垂れそうになっていた。
「なんだこれ!? 絶対に美味いやつじゃん!!」
「そう、そうなの!! この料理、私が五歳の時に初めて食べたんだけど、めっちゃくちゃ美味しいの!! 他のレシピも感動するくらい美味しいんだから!!」
シャルロットが熱弁する程、美味しいらしい。これが手元にあったら、どれだけ料理の幅が広がるんだろうか。普段、物欲が殆どない俺でも、この本が欲しいという欲が湧いてきた。
領内にダンジョンができたし、ハンターが集まる事は間違いない。ハッ……待てよ!? この料理を領内で提供できたら、シェーンベルク領を復興できるのでは!? あの陰湿マキグソ婦人を見返せるのでは!?
俄然やる気が出てきた俺は拳を強く握り締めた。その勢いでシャルロットの手も強く握りしめると、「えっ!?」と驚いて頬を赤くさせる。けど、俺はお構いなしに感謝の言葉を述べた。
「シャルロット、俺に料理のレシピを教えてくれてありがとう! 今日は王立魔法生物研究所に行くついでに、スフレパンケーキの材料も買いに王都まで行こうぜ!」
それを聞いたシャルロットの口角がキュッと上がる。「えぇ、そうしましょ!」と頷いた所までは良かった――。
彼女は何故か指先から小さな火を出していたのだ。それを見た俺はとてつもなく嫌な予感がした。
「えぇっと、シャルロットさん? どうして、火の魔法を使おうとしてるんですか……?」
「早く残りのドーナツも揚げちゃおうと思って! ほら、火力を上げてササッと揚げちゃった方が早いでしょ?」
「あーーっ、駄目駄目!! それ以上、火を油に近付けたら危ないって!! 今度は本当に火事になっちまう!」
「えー、その方が火力が上がっていいと思ったんだけどなぁ……」
シャルロットはブツブツと文句を言っていたが、俺は彼女が料理が下手くそな原因は火力の加減にあるのでは……? と感じ始めていたのだった。
こんにちは、尾松です!!
これから仕事が繁忙期に入りますので、更新が2日〜3日に一回更新に変更させていただきます(´;ω;`)
作者自身、書いててめちゃくちゃ楽しい作品です!
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