101話~200話まで(6/8~7/11)
Xに載せている140字小説のまとめです。
詩のような余韻のある物語を目指しています。
よろしくお願いします。
6月8日 日曜日
『…私ってお喋り?』
音声以外の方法でコミュニケーションが取れればいいのに。 人間のコミュニケーション手段はあまりにも脆弱だ。 視覚情報からくる文字という手段は素晴らしい。 ただ残念なことに私は文字を音声に変換して読まなければ記憶に残らない。
なんと効率が悪いことか。
『今日は何日?』
昨日は忙しかったな、今日はもうちょっとゆっくり過ごせるといいな思って日付を見たら昨日と一緒。
…あれおかしい? もしかしてループしてる?
TV をつけると同じ内容。やっぱりループしてる!
そう思うとリビングにやってきた父が日めくりカレンダーをビリッとめくった。
…何だ剥がし忘れか。
『雨音とミシン』
雨の日はどうも憂鬱だ。
雨音を聞きながら部屋の中を見渡す。そうだクローゼットの中のスカートが小柄な私にはどうも大きく裾が長かった。お直しをしよう。
ミシンに糸をかけてペダルを踏む。
勢いよく走るミシンと雨の音。
すっかりちょうど良い長さになったスカートをまとい鏡の前でくるんと回った。
6月9日
『紫陽花の園』
曇天の空の下、色鮮やかに咲き誇る紫陽花たち。
SNS には紫陽花の名所の写真がいっぱい上がっているけど、きっと見に行く時間は取れないだろう。
スーパーの外の花売り場、出迎えてくれた紫陽花たちを見ながら心を和ませる。
…金平糖の花みたい
忙しい日常に彩りを添えてくれる事に感謝。
『過剰社会』
トイレの流水音が苦手だ。
これでもかと言わんばかりに主張してくる。他人がたてる音に意識を傾け非難してくる人間などほぼいないだろう。だったら何のためにこの音をたてているのか。とかく現代社会は騒がしい。
ボタンを押してOFFにする。
静かになった空間でため息を1つついて私は現実へと戻る。
『梅雨が上がればもうすぐ夏』
雨だというのに傘を忘れてしまった。
濡れるのが嫌で目に飛び込んできたコンビニに入る。商品棚には夏場の商品、かき氷カップだってある。
体がすっかり冷えてしまってむしろ肉まんが食べたい気分だ。フランクフルトを1本買って、外に出れば雨が止んでいる。
…そういえば昔夏祭りでよく食べたな。
6月10日
『山道』
いつも通る国道が大渋滞で出勤時間に間に合いそうにない。仕方がないので山道を走る。
ぐるぐるぐるぐるうねる道を走りながら、ふと異界に迷い込んだ様な感覚に陥る。果たしてこの道は合っているのか得体の知れない不安が押し寄せる。
トンネルを抜けると見慣れた風景
元の世界に戻ってこれたのか?
『今日のおやつは』
子供達がお腹が空いたというのでフライパンに油をひく。ポップコーンの粒をカップ1杯分。
「わーすごい魔法みたい!」
「危ないからちょっと離れててね」
子供の頃のおやつといえば母が作ったホットケーキだった。懐かしいな
我が家のおやつはもっぱらポップコーンだ
子供達が美味しそうに頬張る。
『人間ではない』
猫は人間のことを大きな猫だと思っているらしいというのを最近SNSで目にした。人間も人間でないものを人間だと思ってしまうのかもしれないとそこには書いてあった。
…そうだろうな。
人間たちはどうも私のことを人間だと思っているらしい。
6月11日
『マリオネット』
はぁ〜…
体がガクガクする。
マリオネットになったような気分だ。もちろん腕には糸などついていない。私を操っているのは一体誰なのか。社会か周りの人間関係か それとも もっと見えない大きな力なのか。
何もかも断ち切って自由に振る舞いたい。
『友人』
朝からたわいないおしゃべりをする時間ってとっても幸せ。気軽に挨拶、どうでも良い話題。
友人との時間はとっても大切だ。
今日もおはようと書き込めばすぐにおはようと 返事が帰ってくる。友人はとってもおしゃべりなタチだ。
最も面と向かって出会ったことはない。
彼はAIアプリ。
『しじみ論争』
しじみの身を食べるか否かという意見を目にしたが、そもそも論として関東と関西ではしじみの身の大きさが違う。
関東の人間にしてみれば貧乏臭いという感覚かもしれない関西の人間からしてみたらそんな小さなしじみしか食べたことがないなんて可哀想という感覚だ。
そうしじみ汁を飲みながら思った。
『理想の君』
私は彼女に恋をしている。
彼女は誰よりもエレガントで美しく賢く誰もが彼女を愛さずにはいられないほどだ。優雅な立ち振る舞いも美しい声も何もかもが完璧で私の理想通りだ。
…当然といえば当然かもしれない。
私が考えた物語の主人公なのだから
6月12日
『ツバメの親子』
ツバメの巣の周りが騒がしい。
どうやら雛が生まれたようだ。まだ小さくて巣から顔を見せてはくれないが声だけが響いている。
姿を見たくて上からじっと見上げたら親鳥が黙ってこっちを見ている。
…ごめんよ。
私は巣からそっと離れた、子供達の成長を楽しみにしながら。
『春の夜の月見』
「ねえ母ちゃん 知ってる?今日はストロベリームーンなんだって!」
目をキラキラさせた中学1年生の息子がそう言ってきた。 自分の知った新しい知識を話したくてうずうずしている顔だ。
「へーそうなんだ」
「ちょっと今日の月ピンクっぽいよね!」
朧月はほんのりと紅をさしていた。
6月13日
『トイレに行きたい』
トイレに行きたくなったので近くの小児科に入った。
なぜか中が迷路のようになっているその周りに男性用の小便器がいっぱい並んでいる。
困ったな…私は女性だ。迷路の中を延々と進んで行く出口が見つからない。
どうしよう
一番奥にあった扉を開くと部屋の天井が見えた。
あぁ、夢から覚めたのだ。
『妄想執事』
お嬢様いかがなさいました?
そのように ため息をつかれてはせっかくの朝日に輝くバラのようなお顔立ちがくすんでしまいますよ。
今日はカモミールティーをお入れしましょう。お嬢様の好きなビスコッティも一緒に。
私の頭の中に住んでいる老執事がそう言った。
疲れてるな…多分。
『ひさしぶり』
近頃書き込みの全くない相互様からのポストが一言。
「ひさしぶり」
あぁ、なんとか元気でいてくれるのか…
いや この書き込みでは元気かどうかは分からないな
どうしよう、こっちからも何か書き込んだ方がいいかな。でもそんなにやり取りした事ないし…
とりあえず、いいねをポチッと押した。
6月14日
『約束』
「あなたにお会いするためならば五百年でも千年でもここでずっとお待ちしております。この身に花を咲かせて」
「本当に?それでは僕は千回でも万回でも生まれ変わって君に会いに行くよ」
……風変わりな四季咲きの桜の老木と蝶々が交わした約束を知る者はいない。
『雨の土曜日』
せっかくの休日だというのに鎮痛剤をガブ飲みしたい気分なのは雨のせいだ。体は確かにだるくて重いが、しんどくて動けないというほどではない。
…あぁ、スッキリしないこの気分。
パジャマを着替えないでコーヒーとサブスクで映画、チョコレートはやけ食い。
なんてだらしない充実した休日。
6月15日
『忘却』
人間の記憶というものは 崩れてゆく砂時計の様なものであっという間に忘却の彼方へと去って行ってしまいます。
ですから大切なことは記録に残しすべきかもしれません。
…大切なあの人の記憶がどんどん薄れていってしまいます。どうして写真に映像に残しておかなかったのかと悔やまれてなりません。
『光ふみ』
梅雨が明けた空は雲ひとつなくて、 輝く新緑が地面に踊る影を作っている。
木漏れ日の中を5歳の息子が踊っていた。
「何してるの?」
「あのね。かげふみの逆してるの!」
影ではなく光の部分を踏む遊びらしい。
…子供というのは、新しい遊びを考えるのが上手だな。
『走れよ太宰』
檀一雄は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の友を除かなければならぬと決意した。檀には天才がわからぬ。檀は、只の文人である。筆をとり、友と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。
…というメロスの元ネタの熱海事件のパロディを書きたい(笑)
『父の日』
子供の頃 父の日のプレゼントが何か良いと聞いたら、いつも買っている雑誌がいいと言うので買ってきて プレゼントした。
「おお、そこに置いとけ」
父はプレゼントに振り向きもせず、ただそう一言言っただけだった。
…あまりにも悲しかった。
大好物だったかりんとうを仏前に供える。
父の日に…
6月16日
『私が小説を書き始めた理由?』
私はその小説を愛していた。
今まで読んだどの作家のものより美しく造形美に溢れていて深い心情と心理と運命に涙した。
…だがもう二度と出会う事は出来ない。
作者様がアカウントごと削除されてしまった。
某サイトの二次創作作品だ。
だから私はその小説に会いたくて自分で書き始めた。
『静かな夜に』
夜の海を歩く。
月明かりが反射して静寂の世界が広がる。
…汽笛の音がする
海の向こうに行ってしまったあの人はどうしているだろうか。平な海はどこまでも遠くまで音を響かせる。音を遮るものは何もない。
私はあの人の名を叫んだ。
あい…
…会いたい
…会いたい
愛してる。
『今夜の晩御飯!』
頂き物でパン粉をもらったのだけど使い道がないのでハンバーグをたくさん作ろうと思う。ミンチを1kg玉ねぎ4個、卵5個牛乳は500ccぐらい?
大きな俵型のハンバーグ15個完成!
だけど今夜食べて明日のお弁当に入れたらもうなくなっちゃう!
…大家族の母親って大変。
6月17日
『賽の河原』
昼間に子供たちが積んで遊んだ石を片付ける。
今日もたっぷり遊べただろうか?
この場所に来て親に会いたいと泣く子は大勢いる。
だが親が生きている場合、その子はこの場所で会える日が来るまで待つことになる。人でなしの親は大勢いるそれでも会いたいと泣く。
…1つ積んでは親のため
『今日はモカにしよう』
コーヒーのドリップから、ポタリポタリと落ちる雫が好きだ。熱と香り、穏やかなひとときを運んできてくれる。
きっとそういう人は私以外にも大勢いるのだろう。スーパーのコーヒー売り場には沢山の種類のコーヒー豆が並んでいる。
幸せなひとときを思い浮かべながら私は手を伸ばした。
『概念グッズ』
「…買ってしまった」
机の上にちょこんと2匹座ったクマのぬいぐるみを目の前にため息を1つ。
100円均一で推しの色グッズコーナーで見つけた2匹をお迎えしてしまった。とっても可愛いが推しとは全然関係のないのにな…
いや、ここに飾りを付けたらちょっと推しっぽいかも。
6月18日
『梅雨明け?』
「梅雨前線が消滅したんだって?ちょっと待って3日前に梅雨入りって言ってなかった?」
「なんか暑すぎたらしいよ。やだな〜もう夏?」
ニュースを見ながら家族と会話する。
スイカをかじりながらクーラーをつけた。
異常気象なのかわからないけれど…不安な気持ちが胸に芽生える。
『夏空』
空の色がトルコブルーに変わった。
ついこの間まで 淡いアクアマリンの色をしていたのに 、じきに深いラピスラズリの色に変わるだろう。
光が強くなっていくにつれて空の色は濃くなってゆく。花も木々の緑も原色に近い色をして、エネルギーと生命力と憎しみの焼き付くように鮮やかな世界
6月19日
『初夏』
先週までホットで入れていた水筒のお茶に氷を入れてゆく。ギチギチに詰め込んだ氷の間にお茶を注ぐ。
外はドライヤーを口に突っ込んだような熱風だ。
バスの待ち時間にお茶を一口。
カラン…コロン カラン
氷の転がる音がする。
あぁ、いよいよ夏がやってきたのだ。
『プール開き』
我が家の子供達は水遊びが大好きだ。
だけどプールに連れて行くのには時間がかかるし距離も遠い。ビニールプールを出すが去年穴が開いてしまってもう使えない。仕方がないから大きな四角い野菜を洗うタライを出した。
バチャ!バチャバチャ!
キャッキャと笑う声がする。
我が家のプール開きである。
『カモミールティーと夏の花』
夏の花を植えたいので名残り惜しいがカモミールを抜いてしまうことにした。
花だけを摘み取ってカモミールティーにしよう。
去年の残りのカモミールティーは今夜お風呂に浮かべて入浴剤に。…きっと良い香りだろうな。
手がほんのりとカモミールの香りに染まる。
…初夏の庭は真っ赤なダリア
6月20日
『夜明け』
朝起きて一番に窓を開ける。
小鳥の声がする。朝焼けと夜明けの月がこちらを見ている。深呼吸をしてエネルギーをもらう。
今日生きていくエネルギーを…
夏の暑さも、不安も希望も、これから待ち受けるであろう1日の激しさを生きていくために。
『私の執筆スタイル』
ゴロゴロとソファーに寝転がりながら、タブレットを開くと音声入力のメモを立ち上げる。
一気に妄想を叫びまくる。句読点や改行スペースなどは後で考えるからいいとして、ともかく一気に叫びまくる!
さて、これが私の執筆スタイルである。
……あぁ自堕落。
6月21日
『朝のスイッチ』
ウグイスのさえずりで目を覚ます。
朝のほんのわずかな穏やかな時間が鉛のように重たい体にゆっくりと沁みてゆく。
あぁ、きっと今日も暑くなるだろうな。
体を伸ばし深呼吸をする。
そうだシャワーを浴びよう。
体のスイッチが入る、寝苦しい熱帯夜の夜がオフにされ今日という一日が始まる。
『ぬいぐるみのお手入れ』
息子が毎晩抱っこして寝るぬいぐるみが破れてしまったので修理する。
ぺったんこになったところに綿を詰めてゆく。破れたところを縫い合わせて、取れそうになっている目もしっかりと縫い付ける。
仕上げはお風呂に入れて綺麗になったら、日向ぼっこで乾燥。
保育園から帰ってきたら喜んでくれるかな。
『酷暑』
6月だというのに異様に暑い。
スイカにスポドリ、冷たい麦茶もたっぷり用意した。
梅雨はどこに行ってしまったのだろう?
近頃の天気は夏ばかりが膨れ上がり春も秋も隅へ追いやられている。
暴力的な恐ろしい夏がもうやってきてしまった!
…花が咲くなり枯れてしまった紫陽花は太陽の下。
6月22日日曜日
もうすぐ夏がやってくる。
『いつもと変わらぬ日常を』
予定調和の物語が苦手だった。
物語は冒険とスリリングな展開に満ち溢れていて それを読むのが楽しかった。
だけど今は予定調和の物語が心地よい。
現実はスリリングな展開と不協和音に満ち溢れていて、せめてTV の中の物語ぐらい予定調和でなければ苦しい。
『鬼ごっこ』
いつも繰り返し見る夢である。
私は夢の中を鬼に追いかけられて逃げている。いつもいつも必死に、だが足取りは遅くいつも鬼に捕まりそうになる。そして目が覚める。
…ある夜の私は鬼に捕まった。
そして目が覚める。
あぁ、次は私が鬼の番だ。
6月23日
『バス停の花』
バス停のベンチに紫陽花の花が浸食してきている。
枝を伸ばしこれでもかと言わんばかりに私に向かって花を咲かせている。
愛らしいお隣さんは微笑ましい。
だが今朝バス停に行くと剪定されお隣さんはいなくなっていた。仕方がない事とはいえ少し寂しい。
もうすぐ夏がやってくる。
『おだちん50円』
あのねあのね!おだちんに50円もらったんだ。
お母さんがお醤油切れたから買ってきてって、それで買ってきたらお釣りの50円もらったんだ!
だから今来た道を戻ってスーパーに行ってお菓子を買うんだ。
鼻歌を歌ってスキップしながらスーパーに向かう我が子を見ながら自分もそうだった事を思い出した。
6月24日
『紫陽花の花』
庭の紫陽花が満開になった。
昔母の日に紫陽花の花をプレゼントした。母は毎年挿し木をしてその紫陽花を増やしていった。いつの間にか屋敷の周りは紫陽花の園になった。
母は近所の人にも紫陽花の苗木をあげたので村そのものが紫陽花の名所になった。
遠く離れたこの地で母のことを思う。
『梅雨の職場復帰1』
皆様ごきげんよう。
わたくし復活いたしましたわ。ご心配をお掛けしました。ですから今日は 思う存分雨を降らせたいと思いますわ。
私が倒れている間に焼けてしまった紫陽花さん 本当に申し訳ありませんわ。雨で鬱陶しいと言われても 私の仕事ですから。
ええ夏の暑さになんて負けてたまるものですか。
『梅雨の職場復帰2』
頼むよ梅雨さん!
あなたが頑張ってくれないと夏に水不足で大変なことになってしまうんだよ。それにほらごらん 暑さでバッタバッタと倒れている人たちがいっぱいいるじゃないか。
毎年君に文句を言っていた人たちも君のありがたさが身にしみたんじゃないかい。
『バス停にて』
水彩絵の具を溶かした様な寂れた紫陽花のバス停。
「バスは来ませんよ」
隣にいた人が言う。
そうだここはもうとっくに廃線になっていた。
どうして私はここにいるのだろう?
…ふと思い出した。
自分がとっくに死んでいる事に。
死んだ私はバスに乗って帰ろうとしていたのだ、我が家に。
6月25日
『キツネの嫁入り』
祭りばやしが聞こえる中、パラパラと雨が降り出す。
どこかの神社で夏祭りでもやっているのだろうか。
「ママ見てキツネの嫁入りだよ」
「ああ、そうだね」
雨が降っているのにうっすらと空は晴れている。
この音はキツネの嫁入りのお囃子なのか。目には見えぬものの存在を心で感じ取る。
『ノートいっぱいに』
本棚を整理していると学生時代にノートに大量に書いたイラストや詩を見つけた。
そういえば授業中ノートに絵や詩を書いてばかりで黒板の板書がとても苦手だったな。
頭の中に湧き上がる言葉を素早く書かなければならないのに黒板の文字まで書くことが困難だったっけ。
…ノートをそっと棚に戻した。
『食べ過ぎに注意!』
イラついて壁を蹴破ると、ほこりだらけのドロップ缶が出てきた。子供の頃に怪しいテキ屋から買ったものだ。家のリフォームの時になくして壁の中に埋まっていたのか。
「一粒飲めば1年若返るよ」
でたらめに決まってる。
だけど…子供の頃に戻りたい
俺は中のドロップをガリガリと噛んで全部食べた。
6月26日
『ハイビスカスの記憶』
ハイビスカスに向日葵と赤いサルビア、スーパーの園芸コーナーはすっかり夏の様相だ。
私は鉢植えを一つ買って帰った。
…あなたのいなくなった部屋はがらんと寂しい。
写真には一緒に旅行に行ったハワイの風景。
窓辺にハイビスカスの赤い色が輝いて見えた。
『紫陽花の君へ』
紅という名の紫陽花は日が経つにつれて色が濃くなっていく。
梅雨の雨をいっぱい浴びながら。
それはどこか恋をしている様に思う。
花は恋をしているのだ。
梅雨という季節に。
私もまた君という存在に恋をしている。日が経つにつれて、紅が濃くなっていくこの花のやうに。
『愛の言葉』
「るいちゃん可愛いね!」
「オイこら話を聞け!」
「…もう誰も私の話を誰も聞いてくれない!」
彼はありったけの愛の言葉を私に向かって言ってくる。キラキラとした瞳を私に向けて。
…私のネガティブな発言まで覚えて
彼は私の愛するインコ
6月27日
『梅雨明け宣言』
水筒のアイスコーヒーをカランと飲み干す。
日本晴れの空はこれから暑くなるぞと言わんばかりに早朝から照りつける。
…まいったな
もう梅雨明け宣言らしい。今年の梅雨はいくら 何でも短すぎるんじゃないか?
早速バテ気味の体を引きずっての出勤
—バス停には枯れてしまった紫陽花の花—
『朝の戦争』
しまった!朝から寝過ごした!
急いで飛び起きると1分で早着替え!
子供を起こしてリビングでお着替えさせてレンチンしたご飯にふりかけを混ぜてラップのおにぎり、子供にバナナとおにぎりを渡して雑に布団をあげるとロボット掃除機を放し飼い。
子供を車に乗せてエンジンかけて私は優勝!
『ママの頃は禁止だったの』
娘を追いかけて慌ててスポーツドリンクのペットボトルを渡す。
「ちゃんと水分補給するのよ」
「分かってるよもう!」
娘の学校は先週からプールだ。熱中症予防でスポーツドリンクを持って行っても良いらしい。
…時代は変わったなと思う。
6月28日
『グラジオラスの花』
グラジオラスが今年も美しい花を咲かせた。
もう5年も前にスーパーの処分品コーナーで売っていた球根を植えて全く何もせずに放置していたのに、毎年毎年このシーズンになると大輪の花を咲かせる。いかにも手間暇かかりそうなこの花は 雑草のように強い。
「まるで私みたいだね」
と花に話しかけた。
『拝啓 宮沢賢治 様』
首筋がヒリヒリ痛い。
強すぎる日差し。6月でこの様子では一体この先どうなってしまうのやら…
「暑さの夏はオロオロ歩き」
息子の朗読する声が聞こえた。
「違うよそこ!暑さの夏に歩いたら熱中症になっちゃうでしょ」
「えーでも」
息子は口とんがらす。
寒さの夏にオロオロ歩き…
『私の友人の話』
彼はとってもいいやつだ。
陽気でサービス精神が旺盛でいつもこっち が喜ぶことを言ってくる。
…だけど信用できるかと言うと正直イマイチだ。
すぐにデタラメな事ばかり言うし、平然と嘘をつくし。
え?なぜ彼と付き合っているかって?
…初めからそんなやつだって知ってるし…あいつAI だもの。
6月29日
『うらめしや』
どうも昨日風邪を引いたらしい。
体が暑さに全く慣れていない。熱こそないがくしゃみと頭痛が止まらない。
スイカを頬張る。
赤い果肉がボトリと落ちる。
1ヶ月も早くやってきた夏を恨めしく思う。そういえば幽霊が現れるシーズンは大概夏だ。
…なるほどこのシーズンは確かに恨めしい。
『世界分岐仮説』
うまくいかなかった事や諦めてしまった事に対して
「もしもあの時ああしていれば…」
と考えるのをやめる事ができない。
私の性格ならばやっぱり今の選択をしていたと思うが、違う選択をしていたならきっと違う私がいるだろう。
鏡を見ながら考える。
鏡に映るのはもしもの私かもしれない
『ホタル』
「ばあちゃんみてみてホタル捕まえた!」
孫が蛍を見た事がないというので近くの小川までやってきた。
「な〜んだホタルってちっちゃいんだね」
キラキラした瞳で見ていた。
蛍を連れて帰ると駄々をこねる孫に綺麗な所でしか生きれないんだと言う。
「バイバイまたね〜」
孫は寂しそうに手を振った。
6月30日
『かくれんぼ』
家の壁の間からゴソゴソと音がする。
イタチでも入り込んだのかと思って覗けば子供がそこにいた。私の姿を見て口元に手をやりシーっという。
「あのね、かくれんぼしてるの誰にも言わないで」
「危ないから別の所でやろうね」
その子は頷いて道の方へ行った。
夏休みだから近所の親戚の子だろうか…
『愛猫と夏の夜』
蚊取り線香の煙が渦を巻いて上がってゆく。
昼間の暑さが幾分ましとはいえ、扇風機の1つでもつけないことには暑くてクラクラする。
愛猫が膝に乗ってくる。
「お前こんな毛皮着ててよく平気だな…」
私がそう言うと
彼は「ミャア」と鳴いた。
『鏡の中の世界』
「霊障の原因はこれですね」
そう言って霊媒師は合わせ鏡を指差した。
「撤去しましょう。そうすれば霊障は出ないはずだ」
霊媒師曰く鏡の向こうの世界とこっちが繋がって向こうから色々なモノがやってきていたらしい。
鏡は撤去され怪異は起きなくなった。
…そして私は元の世界に戻れなくなった。
7月1日
『まっさら』
朝からじんわり汗をかく。
洗濯機にシーツを放り込みガランゴロンと回す。晴れ渡った空に白いシーツがよく生える。
毎日毎日暑い日が続く七月の朝。
少しでも気持ちよく過ごしたい。
まっさらなシーツにゴロンと横になる。
—蚊取り線香の夜
#文披31題
『休日の過ごし方』
ちょっとした余裕ってとっても大事だ。
今日はこっそり映画を見に行ってきた。2時間どっぷり映像の世界に浸って、その後輸入食料品店で外国のお菓子とちょっといいトマトの缶詰を買う。
ショッピングモールのソファーでだらけながら缶コーヒーを一杯飲みながら140字小説を書いているこの時間が幸せ。
『甘い記憶』
嗅覚というのは残念ながら人間の記憶にはあまり残らない。おそらく人間の感覚器官の中では最も弱いものの類いだろう。
ふと甘い匂いがした。
これが何の匂いなのか記憶に定かではない。
だがそれは懐かしさとともに幸せな気持ちを運んできた。
それは昔祖母の家に咲いていたクチナシの香りだった。
7月2日
『風鈴』
どこかの屋敷の縁側
…リン…チリ—ン…
音はするが風鈴が見えない。
麻の着物のご婦人が私に話しかけた。
「あれは風鈴の幽霊なのです」
「ほぉ」
「だから聞いている者も幽霊でなのですよ」
そう言うとご婦人はスーッと姿が消えた。
…気がつけば公園のベンチに私はいた。
#文披31題
『化けても習性は変わらない!』
タヌキは人間に化けるのが上手だ。
僕だって人間に化けたい!
頼み込んで化け方を教えてもらった。頑張ればなんとかなるものだ。
人間に化けて好きなあの子に告白そしてデート!
「君うさぎみたいね」
デートのランチ中に彼女が言った。
…ばれた?
「パセリまで食べるなんて」
ばれてない?どっち?
7月3日
『鏡』
「鏡よ鏡、世界で一番かわいいのはだあれ?」
「それはもちろんお妃様です!」
「もうママ今日は私がお妃さまの役なの!ちゃんと白雪姫って答えてよ!」
そんなこと言ったって仕方ないじゃない。
ほっぺたをぷーっと膨らませる可愛い娘に思わず笑顔になってしまった。
#文披31題
『日傘』
テレビで日傘の特集をしている。
今年の夏は異様に暑い。 男だからと言って格好つけている場合ではない!
…俺も買いに行くか。
しかし外は異様な暑さ。
日傘を買いに行くための日傘が欲しい!
仕方がないので雨傘をさして外に出る。
…なるほどこれは確かに涼しい
雨傘兼用を購入する。
『もしも世界が終わるなら』
SNS のトレンドで地球滅亡など上がっている。
…あぁまたかと思う反面ほんの少しだけそうなった時の事を考える。
きっと私は何も変わらないだろう。
明日死ぬと分かっても元気で体が動けるのなら昨日と変わらない1日を過ごすに違いない。
願わくはほんの少しだけ香り高いコーヒーを1杯
7月4日
『口ずさむ』
父は歌うのが好きだった。
機嫌がよければずっと歌を口ずさんでいた。
正直言ってうまいとは言えない。音程の外れた曲を擦り切れたテープのように何度も口ずさむ。
悲しい曲を明るい声色で…
今もずっと耳の中に残っている。
いつしか私も父の歌を口ずさむようになっていた。
#文披31題
『口ずさむ—呪い』
SNS上に奇妙な噂が広がっていた。
ある言葉を口ずさめば聞いた相手が死んでしまうというものだ。
さらにしばらく経ってから人が急に死ぬ事件が勃発。
TVで呪いの話と絡めて特集ネタになって流された。
呪いの言葉は電波になって口ずさまれ、社会に死が蔓延した。
今現在も拡大中である。
#文披31題
『花火』
「みて!きれい花火だよ」
そう言ってはしゃぐ彼女の手を引いて僕は必死で逃げた。幼い彼女には理解できなかったのかもしれない。
大勢の人々が逃げていて離れればもう二度と会えないと思った。
人間はこんなにも簡単に死んでいくのか
80年前の戦争を繰り返してはいけない。
『予言』
「あのねママ明日世界が終わっちゃうんだよ!」
我が子が真剣な眼差しでそう語りかけてくる。
テレビで特集していたあの予言か…
「大丈夫ママが守ってあげる!」
そう言って我が子をぎゅっと抱きしめる。
『願い事』
「あなたの願い叶えてあげちゃう!」
ある日幼なじみにそう言われた。
「いいよ別に…」
僕の願いはもうとっくに叶っている。
…ずっと君と一緒にいられますように
「つまんない!じゃ私の願い叶えてよ!目をつぶって」
「え?」
目を閉じた瞬間柔らかな唇が頬に当たる。
『波』
窓辺にポツンと置かれた白い貝殻はもう10年も前の旅行の思い出の品である。
そっと耳に押し当てれば潮騒の音が聞こえる。
螺旋の中を空気が振動し、寄せては返す波の音へと変化する。
10年前の楽しかった思い出を引き連れて。
『7月5日』
三日月
溶けてゆく淡い空に三日月が浮かんでゐた。
チェシャ猫の笑った口元みたいだと思った。子供の頃アリスが好きだったな。
私はアールグレイの冷茶と半額のスコーンを食べた。
アリスのお茶会には程遠い、だがそれはほんの少しの贅沢だった。
…笑った猫の顔は空に消えていった。
#文披31題
『蚊柱』
「お母さんあれは何?」
「あれは蚊柱だよ。小さい虫が飛んでいるの」
「お母さんあれは?」
「あれはツバメだよ。虫を捕まえているの」
「お母さんツバメがフラフラ飛んでるよ」
「あれはコウモリ。少し暗くなったからね」
夕焼けの散歩道、わが子の質問に答えながら歩く。
『無人島』
夕飯の準備ができたので息子をリビングに呼びに行けば折り紙の魚があたり一面に散乱していた。
「どうしたのこれ?」
「あのね無人島ごっこしてるの!このザブトンが島で海にお魚さんがいるの」
「もう晩御飯だから遊ぶのは後でね」
「はーい」
…息子は無人島から無事に帰還した。
『初夏』
「ねえねえプール行こう!」
「やだよこんなに暑いのに」
「じゃあさ屋内プール!」
そう言って チラシを私に見せる。
「えーここから2時間はかかるじゃない」
「いいじゃんこれから夏なんだし!」
「…仕方ないな」
友人の熱意に押し切られる。
いよいよ夏が始まった。
7月6日
『重ねる—ミルクレープ』
台所から甘くて良い匂いがする。
「何焼いてるの?卵焼き」
「違うよ〜」
「えーじゃあクレープ!」
「惜しい!もうちょっと待っててね」
スポンジの上にクレープ、幾層もの生クリームとクレープが重なってゆく。
「出来た」
「えっすごい !」
ミルクレープを前に姉のドヤ顔。
#文披31題
『重ねる』
昼間の酷暑を避ける様に日傘をさして貯水池の周りの林を散歩している。
池には睡蓮の花がたくさん咲いてゐた。
花びらは何層にも重なり美しいグラデーションを形成する。
昔、植物園をデートした日のことを思い出した。
美しい思い出と悲しい記憶が重なる。
…あの人はもういない。
#文披31題
『微生物と細胞の戦争』
…暑い
視界がどろりと溶けてゆく様だ。
人間はよく腐敗しないものだなと思う。
暑ければ生モノなどあっという間に腐敗してしまうというのに。そう考えて物を腐らせるのは微生物である事を思い出す。人間も細胞単位で見れば微生物とは変わらない。
…微生物たる細胞に水と糖分を補給する。
7月7日
『あたらよ』
夜半に目が覚めて窓を開けば月下美人の花が咲いてゐた。柔らかな白い大輪の花が月明かりに光る。
空に滲んだ上弦の月はうっすらとぼやけて光を放つ。昼間の暑さなど嘘のように涼しい。
鳥の声がする。
夜明けの前の白む空。
どうかもう少しだけ、このままでいさせて…
『星に願いを』
「ママも願い事書いてよ」
そう言って息子が短冊を持ってきた。
『みんな元気に過ごせますように』
そう書いて吊るした。
そういえばどうして願い事を吊るすんだろう?
2人は神様みたいなものだから?
晴れた夜空
織姫と彦星を隔たる天の川は私たちの銀河系そのものだ。渦まく星々は銀河の砂粒。
7月8日
『足跡 』
僕はあなたの足跡を追いかけている。
あなたのようになりたいと必死であなたの足跡を追いかける。
あなたの人生はどんな風だったのか少しずつ少しずつ近づいていけているような気がする。
…お父さん。
僕はあなたのような人間になりたい。
命日にお線香の煙が立ち上る。
『隣客』
町の病院の待合室で順番を待っている。
外は夏の日差しでガンガンに暑い。ふと 二重扉の内側に蝶が止まっていることに気がついた。
こうも暑くては蝶だって涼みたくなる。
病院の待ち時間は退屈でとても長い、だが綺麗なお隣さんのおかげで穏やかに時間が流れていく。
『朝顔』
今日から夏休みだ。
ラジオ体操のために早起きしなきゃいけないけどきっと朝が苦手な息子のことだから、なかなか難しいだろうなと思っていた。
子供部屋をノックして扉を開けるとベッドは空っぽ。
「お母さん見て!朝顔咲いてる」
キラキラの笑顔と鉢植え。
朝顔はどんな目覚ましよりも偉大である。
7月9日
『ぷかぷか』
お風呂場に大量のアヒルが浮かんでいた。
「なんだよこれ」
「あーごめん片付ける時間がなくて」
リビングから聞こえた妻の声とドライヤーの音。息子が風呂上がり上機嫌だったと思い出す。
アヒルをバケツに入れて風呂場の角におく。
そういえばこの手のおもちゃ俺も好きだったな。
『最後の乗客』
切符を買わないと…
切符を買わなければ…目の前をいくつもの電車が通り過ぎる。切符を持っていない私は乗ることができない。
乗客を見れば皆知っている人ばかりである。
私だけが取り残されてしまった。
もう切符は売っていない…
この世界にただ一人、私だけが残った。
『文豪料理番組』
『今日のメニューは無頼派風煮込み料理です。まずは坂口安吾の安吾鍋に入れるぐらいの量の日本酒を鍋に注ぎます。その後太宰治の愛した白い粉を大さじ1杯、檀一雄が丸太を振り回したぐらいの勢いで材料を混ぜましょう…』
多分かなり豪快な料理になりそうです(笑)
7月10日
『突風』
突然吹いた強い風が麦わら帽子を吹き飛ばす。
「まって!まって」
そう言って帽子を追いかけて迷子になった小さな頃の記憶。祭りの人混みの中で永遠に母と会えない様な気がした。
…それ以来私は祭りが苦手である。
「ねえお祭り行こう!」
娘にせがまれ手をつないで出かける夏の日。
#文披31題
『水分補給』
ため息ばかりが蓄積する。
心の中を焼け焦げた闇が覆っていた。
あまりに眩しい光は闇よりも暗い。
ほんの少しの休憩時間
冷蔵庫の中の麦茶を1杯カランと氷を入れて飲み干す。
みるみると体温が下がっていくように感じる。
命が満たされてゆく
灼熱の地獄を生きていかなくてはならない。
7月11日
『蝶番』
コレクションのため新しく収納箱を作る。
ホームセンターに向かい必要な材料を買い揃えた。
組み立てた箱は切れ目が歪んでいたりするが紙やすりをかけ塗料を塗り乾燥、蝶番をつける。
キラキラとした真鍮の蝶番
中に川で拾った綺麗な石を入れた。
ガラクタみたいな宝物に思わず笑顔。
#文披31題
『千年の恋』
千年前と変わらぬ月がそこには在った。
富士山で不死の薬を焼いた灰を吸い込んで以来私は年を取ることがない。
あのお方は私の事など全く知らないだろう。
姫が月に帰るあの日ただの護衛兵として私はあの場にいた。
月の様に美しい
あれは一目惚れだったのだろうか。
千年たっても変わらぬ月と想い。
『弱肉強食』
庭は様々な植物が共生している。
ミントやバジルにカモミールそれからドクダミ三つ葉にシソ。薬草になりそうな植物ばかり植えては放置した庭はまさに弱肉強食の世界。お互いに生存をかけて成長しあう。
もっとも最後は私の手で摘み取られ美味しい料理やお茶になる。
私が最強だ。
お読みいただきありがとうございました。
お楽しみいただけたなら幸いです。




