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【第3話 オーラ武器測定】

 黒と水色の渦を巻く半球状の装置が、カウンターの上に鎮座していた。

 まるで心の奥まで覗き込むように、鈍い光がゆらりと反射する。


 ダイトは一歩近づき、その球体を見据えた。

 不安でも期待でもない。ただ、敵を測るときと同じ――冷ややかな警戒。

 背後には、いつの間にか人垣ができていた。


 ざわついていたギルドが、すっと静まる。

 空気が重く固まり、誰もが息を潜めている。


 見知らぬ男が、“何者なのか”を見届けようと――。


「じゃあ、兄ちゃん。用意はいいか?」


 促す声に、ダイトは小さく頷いた。


「ああ……始めてくれ」


 ゆっくりと右手を伸ばし、半球の頂に置く。

 冷たさが皮膚を這い、かすかな振動が手のひらをくすぐった。


(問題は……あの師匠。いや、くそジジイが俺を飛ばしたこの世界ってことだ。ってことは――おそらく……)


 思考を途中で断ち切るように、それは起こった。


 ――ピカッ。


 半球が鈍くオレンジ色の光を放ち、空気が一瞬震える。


「おい! 光ったぞ! 坊主、やったな! オーラ武器持ちだ!」

「よっしゃ! 賭けは俺の勝ちだ!」

「やったね、ダイト! これで城壁の外にも行けるよ!」


 場の緊張が一気に弾け、歓声と笑い声が渦を巻く。

 熱気が肌にまとわりつき、酒とジュースの香りがふわりと漂う。


「じゃあ、みんな、いい? グラスは持った?」

「おー! リル、いいぞ!」「待ってました!」


 リルはジュースの入ったグラスを高々と掲げ――


「乾杯っ!!」


 響き渡る声と共に、全員が笑顔で杯を掲げた。

 その瞬間、コルト中央ギルドは祝宴の場と化した。


「ねー、トムじい。オレンジ色って何の武器だっけ?」


 リルはカウンターに身を乗り出し、トムじいがめくる書類を覗き込む。


「リルよ、ちょっと待て……わしがギルド長になってからは、初めて見る色じゃな」

「あれー? じゃあ、短剣でも長剣でもないよね? 弓とか? ハンマー?」

「いや、そうじゃねぇな……ん? こ、これか……?」


(――ここは、あのジジイが俺を送り込んだ世界だ。短剣や長剣のはずがない……)


 ダイトは小さく息を吐く。


「三百年ぶりだとよ……何の武器だ? ハ――」

「ハ?」

「ハリ、ハリだ!」

「ハリだってぇぇぇぇ!?」


 次の瞬間、ギルド全体が爆発したように笑いに包まれた。

 腹を抱える者、壁を叩いてうずくまる者、涙を流しながら肩を揺らす者までいる。


「ハリ? 武器って……お裁縫かよ!」

「戦場で刺繍でもする気か!?」

「もうっ! みんな、そんなこと言わないの!」


 リルが声を張って制止するが、笑いはしぶとく続く。


「ダ、ダイト。大丈夫だよ! ハリだって、オーラ武器さえあれば城壁の外に出られるし……そ、それにダイトの身のこなしなら――き、きっと……」


 必死にフォローを重ねるリルを横目に、ダイトは静かに鼻で笑った。


「ダ、ダイト……?」


 不安そうに見上げるリルの前で、ダイトは無言で鍼箱を開く。

 中から、光沢を放つ二寸鍼を一本――音もなく抜き取った。


「おいおい、その針でどうするってんだ?」

「やめとけ……見てらんねぇよ、可哀想だろ……」


 ヤジと同情が入り混じる中――

 ダイトの口角が、わずかに持ち上がった。

 次の瞬間、鍼に気が集まり、鋭い閃光が走る。


 そして――


 ――ドガァアアアン!!


 爆音がギルド中に轟き、壁の一角が粉々に吹き飛んだ。

 砂埃と煙が渦を巻き、天井の梁すら微かに揺れる。

 誰もが動きを止め、目を見開いた。


「えええええええーーーーーーっ!?!?」


 リルの叫びが、コルトの街の外れまで響き渡った。


(……あっ。やり過ぎた)


 爆散した壁を前に、ダイトは内心でつぶやく。

 これほどあっさり穴が空くとは思っていなかった――。


「す、すまない。この壁はいずれ弁償させてもらう」


 低く静かな声が響き、再び場が凍りつく。


「…………」


 数秒の沈黙――まるで空気が止まったかのようだった。

 そして。


「スゲー!! 何だよリル、スゲーのを連れてきたな!」

「えへへ……でしょ?」


 歓声が爆発する。

 驚きと興奮が入り混じった声が四方から飛び交い、ギルドは再びお祭り騒ぎに戻った。

 リルは頬を赤らめ、誇らしげに胸を張る。


「ダイトっ!! すごいよ! ハリであの破壊力!? どんなオーラしてるのさーっ! 僕でもビックリだよー!」


 瞳をキラキラさせるリルの横で、トムじいがアゴを摩りながら口を開く。


「フハハ! いい相棒を見つけたな、リル!」

「でしょ? これでダイトを冒険者登録してくれるよね?」

「ああ、資格は十分だ。今から城壁の外に行くんだろ? 帰ってくるまでに冒険者カードを作っておいてやる」

「トムじい、ありがとう!」


 リルはトムじいの手を両手でしっかり握り、お礼を言うと、勢いよくダイトの腕を掴む。


「ダイトのその力があったら、次の材料集めは簡単だよ!」

「……善処する」

「じゃあ、早速! 城壁の外に向かうよ!」

「え? もう行くのか?」

「そうだよ! “善は急げ”って言うでしょ? お姫様を救う薬だよ、急がない理由ある?」

「……ま、俺としては報酬がもらえるなら構わないが」

「よしっ! さ、こっちこっち! ついてきて!」


 リルはダイトの手を引き、軽やかな足取りでギルドを後にした。


 ***


 京都の山奥――。


 熱気と喧騒とは正反対の、静かな風景が広がっている。

 涼やかな風が木々の緑を揺らし、鳥のさえずりが遠くで響く。


 和室の一角。畳に軋む音を立てて腰を下ろした師匠は、ちゃぶ台の上に置かれた紙箱の蓋を開けた。


「ふぉふぉふぉ……ダイトがいなくなって、実に静かじゃのう。どれ、特製の豆大福でもいただくか」


 中には、ふっくらと丸みを帯びた豆大福が三つ、仲良く並んでいる。


「これじゃこれじゃ……残っている貰いもんの三つ、ぜんぶわしのもんじゃ。ふぉっふぉっふぉ」


 にやついた顔のまま、大福にかぶりつく師匠。

 白い皮が裂け、甘いあんこがとろりと顔を出した。

 もぐもぐと頬をふくらませながら、師匠はぼそりと呟く。


「さてさて……ダイトは、初日くらいは乗り切れるかのう? ふぉっふぉっふぉ」

後書き

【リルのささやき】


ねー! 見た? ハリで壁がバーン!だよ!?


ダイトくん、ただモノじゃないとは思ってたけど――ここまでとはビックリだよ!


コレなら素材集めも余裕かな?


次回、城壁の外!

僕も頑張っちゃうよー!


更新は【月・金】だよ!

見ないと……壁、バーン!かもよ〜?

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ハリで壁バーン(笑)
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