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風鈴のピアスのおまじない

「雪さーん」

 リビングの一角に作られた雪葉の作業スペースの椅子に座り、パソコンの画面を睨んでいると、不意に肩を叩かれた。

「雪さん、ご飯出来たよ。食べよ?」

「ありがとう。智くん」

 パソコンの画面に集中していた雪葉は振り返ると、智也の作ってくれた夕飯の匂いに思わずお腹がなった。

 恥ずかしいながら雪葉がちらっと智也のことを見上げると、智也はニコニコと笑っている。

「もー! 智くん食べよ!」

「はい!」

 食卓を見ると、配膳まで智也がしてくれたのか麦茶の入ったガラスのピッチャーまで置かれている。

「ごめん。何も手伝えなかった」

「大丈夫だよ。雪さんオレが帰ってきてからもずっとパソコン見てたから邪魔しちゃ悪いなって思ってたくらい」

「邪魔じゃないけど…。ありがとう」

「いえいえ。とりあえず食べよ」

「うん!」

 二人揃って食卓につくと手を合わせていただきますと言うと、二人の時間が始まった。「雪さん何か悩み事?」

 二人で夕飯を取っている間にも雪葉は考え事をしているのかどこか上の空だ。

「あ、ごめん」

「仕事のこと?」

「うん…。新しい仕事の依頼が来てるんだけど、今までもあまり受けてこなかったものだから受けたいんだけど、その後のスケジュールがパンパンになりそうで」

「そっか…。オレは今年はあんまり大きな行事のある学年じゃないし、付き添いの必要な旅行とかもないから家のことは任せてもらっても大丈夫だけど、雪葉さんの体調が心配かな」

 話をする二人の視線は雪葉の机に置かれている写真立てを見た。

 そこには一年前の今頃3ヶ月ほど雪葉が入院をした時の病室で撮った写真が飾られている。

 雪葉が入院をしていた間、家のことは智也が一人でしていた。

 智也は毎日仕事終わりに見舞いに来て、家に帰ると一人でご飯を食べて風呂に入り眠って仕事に行くという生活をしていた。

 あの時はお互い何も言わなかったが、雪葉の退院が決まった日、ポツリと智也がこぼした『寂しい』に二人して泣いた日。

 机に飾られている写真は泣いた後に撮った写真だ。

 そんな思い出の詰まった写真を見た後で、智也が口を開いた。

「オレは挑戦する雪葉さんのことも好きだけど、オレとしては、あの寂しい生活に戻るくらいなら無理はしないでほしいなって思う」

「うん。それは私もだから…」

 雪葉は箸を置くと、ちょっと待っててと言って机に向かうと、パソコンのキーボードを叩いてから、マウスでスクロールすると、「よし!」と言ってからマウスをクリックして食卓に戻ると、

「今回は断った!」とへにゃりと笑った。

「いいの?」

「やっぱり妥協で仕事はしたくないし、それは相手にも失礼だもん。だから、また万全の体調とスケジュールの時にチャレンジできる事を願って今回は見送ります!」

 と箸で生姜焼きを一枚切り分けると、口に運んで「美味しい」と笑った。

 そんな様子の雪葉に智也は笑ってから、「そういえば!」と言って今度は智也が席を立った。

「智くんどうしたの?」

 智也はリュックを開けると中から大切そうに小さな箱を取り出した。

「雪葉さんにプレゼントです!」

「プレゼント?」

 雪葉は箸を置くと、箱を受け取り開けると、

「これ、風鈴?」

「そう!雪葉さんが欲しがってた風鈴に似たデザインのピアス! 仕事帰りに取りに 

行ってきたの。この間お店で品切れになってた風鈴のピアス版」

「あ! あの風鈴の?」

 雪葉がこの間智也と二人で父の日のギフトを選びに行った時に一目惚れした風鈴。

 あの時は売り切れていたため、買えなかったし、買ったところで飾れないからと二重の意味で諦めたものだ。

「本当は雪葉さんに仕事が落ち着いたら渡そうと思ったんだけど、なんか今渡したら元気になってもらえるかなって」

 と頬をかく智也を見て、雪葉は箱からピアスを取り出すと、今は何もついていない耳の穴に金具をとして止める。

「似合う?」

「うん!とっても!」

 雪葉は壁にかかっている鏡で自分の耳についてるピアスを見ると、さっきまで落ち込んでいた気持ちが浮上していくのがわかった。

「それで…」

「うん?」

 鏡を見ていると、智也が視線を彷徨わせたあとで、

「今度の夏祭りのそれつけた雪葉さんとデートに行きたいなと…」

 なんて顔を赤くして言うので、雪葉は思わず、

「可愛い旦那さんですね」

 と今日一番の笑みで、

「予定決めようね」

 と食卓についた。




Xにて開催されている、文を綴り披く月という企画のお題「風鈴」から書きました。

#文披31題

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