1.白騎士への挑戦状
いつもの新聞チェックの時間。
オティーリエはその新聞記事、いや、新聞広告を見た瞬間、目が点になった。
『白騎士への挑戦状!
白騎士よ!
勇士たらんとするならば、我が挑戦を受けよ!
対決の場に現れぬ場合は逃亡したと見なし、以後、卑怯者の誹りを受けることになるだろう。
日時は7月3日10時ちょうど。
対決の場所は東の街道入口横の広場とする。』
人間型と言うには上半身が極端に大きな、と言うより、むしろゴリラのような外見のロボットの写真(右上に小さく白騎士の写真入り)をバックに、そのような文章が新聞の一面を使ってデカデカと書かれていた。
新聞広告なのは、新聞社が取材を行った記事ではなくて、広告費を払って広告として掲載されているからだろう。
ちなみにオティーリエが見た新聞はメジャー紙であるホルトノムル・クロニクル。
他にも、いわゆるゴシップ紙と呼ばれる新聞も含めて、ホルトノムル侯爵領に本社を置く新聞社が発行する新聞全てに掲載されていたりする。
そうして、固まってしまったオティーリエに、ヨハンが声をかけた。
「どうした、お嬢。」
そのヨハンの声で、ハッと再起動を果たしたオティーリエは、その新聞広告をテーブルに広げてヨハンに見せた。
「これを見て驚いてしまいました。
この反応は予想外でした。」
ヨハンは見せられた新聞広告に軽く目を見張った後、面白そうな笑みを浮かべて。
それから、オティーリエの肩にいるアーサーに視線を向けた。
今、アーサーは普段、お城で過ごしているキタリスの姿で、定位置のオティーリエの左肩の上にいる。
この新聞広告もオティーリエが見た時に一緒に見ていた。
「で、お前自身はどう思ってるんだ?」
『騎士として、いつでも挑戦を受ける覚悟はあるが、このように礼を欠いた挑戦については受ける価値はない。』
「このような非礼な挑戦は受けるつもりはないそうです。」
オティーリエからアーサーの答えを聞いたヨハンは、一つ頷いた。
「なるほどな。
まあ、確かにこれは挑発が過ぎるからなぁ。
アーサーに受ける気がないなら放っておけばいいか。」
「ただ、これをきっかけに白騎士関係の話題が再燃するのではありませんか?
お城への取材もありそうですし。」
「すでにあったらしいぞ。
知らなかったが、これが原因だったんだな。
旦那様の許可も出てるし、白騎士が出現してから日が経ってるから、王家に報告した内容で答えたらしいぞ。」
白騎士出現の後、ホルトノムル城内をくまなく捜索した結果、不動産関係の部署の倉庫の奥底でホルトノムルの城塞都市建築時の資料が見つかった。
あまりにも古い文献で、ところどころ虫食いだったり紙が脆くなっていたのをなんとか再生したところ、中央広場の地下、約3280フィートに巨大な円柱が埋まっていたことが記載されていた。
この円柱には出入口はなく、破城槌、巨大投石器などの物理的な攻撃のみならず、当時の大魔法使いによる凄まじい威力の魔法などをぶつけてみても傷一つ付けられなかったらしい。
結局、当時の人々はそのまま埋めてしまい、しかし、その上に建物を建てるのは怖かったのか、中央広場が作られて現在に至っている。
王家には、その巨大な円柱の中に白騎士がいて、おそらく魔獣に反応して出現したのだろうと報告していた。
そして、そのような地下にあるものを今更掘り起こすことも出来ないので、これ以上の調査は不可能である、とも。
ところで、この報告、議会ではなく王家に行っているのは、決して議会を軽んじているわけではなく。
議会は国政を議論する場であって、各領地で処理するべき内容までは議題に挙げないため。
その議会とは違い、王家は国の所有者として各領地で発生した事案を把握する必要があるため、こちらには報告の必要がある。
「それで沈静化するとよろしいのですけれど。」
と、言ってから、オティーリエは何かに気づいたようで、ポンと拳で手の平を叩いた。
「中央広場の地下のことを発表したのでしたら、それで何か動きがあるかもしれませんね。」
オティーリエが思いついたことを口にすると、ヨハンが頷いた。
「ああ。
すでにライリー爺さんが中央広場の警備に騎士を派遣することにしたらしいぞ。」
「さすがライリーですね。
それでは、そちらはライリーにお任せしましょう。」
「ライリー爺さんにはお嬢が気にしてるとは言ってないから、何かあったらすぐにこっちにも連絡するように言っとくよ。」
「はい、お願いします。
ところで話は変わりますけれど、この対決の場所なのですけれど、使用申請は出されていますか?」
空き地とはいえ、特定の目的のために大きな場所を使用するには、お城もしくは管轄の騎士団に使用申請の必要がある。
「いや、俺も今知ったからな。
明日にでも確認してみるよ。」
新聞社に広告主を尋ねても守秘義務で教えてくれない可能性が高い。
しかし、使用申請が出ていれば、そこから足が追える。
「この挑戦状にネルガーシュテルト帝国が関係していないかも含めまして、調査をお願いしますね。」
「ああ、もちろん。」
放っておくと言ったのは新聞広告の話であって、白騎士関係の案件なので背後関係はきっちり調査を行う。
「あと、王家への報告と言いますと、少し悪いお知らせがあります。
王家はおそらくアーサーの操縦者を把握していると思われます。
お従兄様が昨日いらしたのは、その確認のためなのではないかと思いました。」
オティーリエは1日明けた今日、改めて昨日のことを思い返してみた。
昨日、セオドアは6人で話している光景で背後の花がズレたからオティーリエが魔法使いだと判断したと言ったけれど、本当にそうだろうか?と疑問に思ったのだった。
背後の花がズレたと言っても、背の低い花ばかりなので、そんなに大きくズレたとは思えない。
そうすると、そのていどのことは、普通ならちょっとした違和感を感じただけだと見過ごしてしまうのが普通だろう。
つまり、セオドアはオティーリエが魔法を使えると意識して観察していたのではないかと考えられるということ。
そして、オティーリエが魔法が使えることはお城の中の本当に一部の者しか知らないので、セオドアがそう判断した根拠はオティーリエが白騎士の操縦者だと知ったからだと考えられる。
もともと、このことはネルガーシュテルト帝国をはじめ、国内でも少なくともカラディン領が把握しているくらいなので、より諜報活動に長けた王家の情報機関なら、白騎士の操縦者が誰か把握していてもおかしくない。
「まあ、そうだろうな。
明日にでも旦那様からの返事が届くだろうから、それで分かるんじゃないか?」
「そうですね。
お父様のお返事をお待ちしましょう。」
第6話のスタートです。
いきなり話題のアーサー君(本体)。
しかし、本人にその話題に乗る気はないようです。
そして、背後関係が気になる令嬢と従者は、調査を開始します。
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