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おまけ.侯爵令嬢の騎士ルカ先生による魔法講座

「姫さん、久しぶり。

 本当に姫さんの騎士なのか疑いかかってたところだよ。」


オティーリエがルカを騎士にしてから2週間後。

この日、オティーリエはルカを訪ねて第一騎士団寮の応接間に来ていた。

当然ながら、ウィリアムもヨハンもいる。


「それは間違いありませんわ。

 ルカの雇用費と教育費は侯爵の娘の予算から第一騎士団にお支払いしていますもの。」

「そうだ。

 第一騎士団は予算かつかつで金食い虫の万年金欠病だからな。

 おかげで助かってるんだ。

 だから、お前はいつまでも第一騎士団(ここ)で修行しているといいぞ。」


ルカの少し咎めるような軽口にオティーリエが何と言うこともないというように平然と答えると、続けてウィリアムがルカを揶揄うように付け加えた。

そのウィリアムの言葉に、ルカがげんなりした表情でウィリアムを見た。


「願い下げだよ。

 僕は姫さんの騎士なんだ。

 すぐにノルマをクリアして第一騎士団(ここ)をオサラバするつもりさ。」

「今のノルマをクリアすると、次の段階のノルマが課せられますわ。

 しばらくは第一騎士団にいらっしゃることになりますよ。」


ウィリアムに言い返したルカを、オティーリエが奈落に叩き落す。

そのオティーリエの言葉を聞いて、ルカががっくりと肩を落とした。


「いや、だから、僕は姫さんの騎士だろう?」

「はい。

 ですので、時々、こうしてお伺いさせていただいて、様子をお聞きしたいと考えています。

 それより、ルカ。

 なんだか呼び方が変わっていませんか?

 話し方も砕けたものになってますし。」


肩を落とした姿勢のまま、視線だけをオティーリエに向けるルカ。

その目がどこか恨みがましいのは気のせいではない。


「気分だよ。

 姫さんの方が呼びやすいし、この方が話しやすいから。

 よくよく思い返してみると、お姫様ってのもなんか違う気がしてきたし。

 これでいいって姫さんも言ってたよね。」

「そうなのですね。

 分かりました。」


オティーリエはルカの答えを特段、気にした様子もなく受け取って、本題に入った。


「本日はルカにいくつかお聞きしたいことがあってお伺いさせていただきました。

 まずはルカ、ホルトノムルには慣れましたか?」


オティーリエの質問に、ルカは恨みがましい目のまま、とりあえず姿勢は正して答えた。


「訓練訓練で慣れる暇もないよ。」


と、答えながら何か思いついたようで、皮肉気な顔になって話を続けた。


「まあ、指南役と一緒にいても気にならなくなってきたから、そういう意味では慣れたのかもね。」

「よほど腹に据えかねているご様子ですね。

 気分転換にお城の外に出たりはしていないのですか?

 日曜日はさすがにお休みかと思うのですけれど。」

「あ、訓練についてはコメントしてくれないのね。」

「はい、ウィリアム卿に全てお任せしておりますので。」


再び恨めしそうな目をオティーリエに向けるルカ。


「日曜日は疲れて一日寝てるよ。」

「それだけ訓練に精一杯励んで下さっているということですね。

 ルカの主君として誇りに思います。

 ただ、それですと第一騎士団関連の施設しか把握出来ませんね。」


そう言うと、オティーリエはウィリアムを見た。


「ウィリアム卿、訓練のスケジュールを変えてしまいますけれど、週に一度はルカを街に出すようにしていただけませんか?

 今後、護衛をしていただく上で、街の地理を覚えておいていただきたいのです。」


そのオティーリエの提案に、ルカがパッと顔を上げてウィリアムを見た。

嬉しそうなのを無理に押し隠している様子なのが透けて見える。


「確かに必要な情報ですな。

 では、誰か案内の者を付けて出すことにしましょう。」

「いえ、街の詳細を知るには、自分で歩き回るのが一番です。

 ルカ、案内なしで街を歩いてみて下さい。

 迷った時は、中央広場に戻って神殿の脇道をまっすぐ歩けばお城に辿り着けますので。」

「いや、姫さん、団長さんは監視役を付けるって言ってるんだよ。」


オティーリエが何気なく言ったことに、ルカの方が逆に気を使って注意をする。

なんだか立場が逆じゃないの?と思いつつ。


「存じておりますけれど、ルカなら監視などなくても大丈夫です。」

「お嬢様がそう仰られるのでしたら、私に異存はございません。」


ウィリアムはオティーリエの言葉に頷いた後、ニヤッと笑ってルカを見た。

この展開を予想した上での、ウィリアムの発言。


「分かったよ。

 その信頼、出来るだけ裏切らないようにするよ。

 出来るだけね。」


さすが食えないおっさんだと思いながら、それでもルカは嬉しそうに頷いた。

出来るだけ、というおまけが付いてるのは照れ隠し。


「はい、それでお願いします。

 それから、もう1つ、ルカにお聞きしたいことがあります。

 ネルガーシュテルト帝国における魔法について、詳しく教えていただけますか?

 報告は受けていますけれど、直接、ルカからお聞きしたいと思いまして。」


いちおう、マージナリィがすでに聞き出していて、オティーリエもその報告は聞いているけれど、それでも、直接聞きたいと思って、今日、訪問したのだった。


「具体的にどんなことを知りたいの?」

「そうですね、まずは魔導士の定義を教えて下さい。

 魔導士というのは魔法を使う人、という定義でよろしいですか?」

「魔法、と言うより魔術だね。

 帝国では魔術が使える人のことを魔導士と呼んでる。

 魔法なんて、世界中探しても、使えるやついないんじゃないかな。」


早速、慣れない単語が出て来て、オティーリエは直接聞きに来てよかったと思った。

報告書は読み手に伝わりやすくするためだろう、魔術という単語は出てこず、全て魔法で統一されていた。


「魔法と魔術は違うものなのですか?」

「・・・帝国とこの辺じゃあ、その辺りの定義から違うんだ。」

「そのようですね。

 こちらでは、魔術、という単語自体に馴染みがありません。」

「あー、そうなんだ。

 えっと、そうだね、魔法は魔力を使って自分の思い通りになんでも出来るもので、魔術は呪文を唱えて何かをするものって感じの区別かな。」


オティーリエの質問に、ルカがちょっと斜め上を見つつ、少し考えながら答えた。


「つまり、魔術とは、定まった文言を唱えて、定まった効果を発揮する力という理解で合っているでしょうか?」


オティーリエは、魔術とはシンボル化された魔法のことを指しているのではないかと想定しての確認。


「うん、それで合ってる。」

「分かりました。

 それでは、ルカに合わせて、ここからは魔法と魔術を区別してお話しますね。」


オティーリエが習った魔法は、ネルガーシュテルト帝国で言うところの魔法に該当して、すでに失われた知識のようなので、今の時点ではまだルカには秘密にしておきたい。

なので、話題がそちらに流れて行かないように、魔法についてはあえて触れずに話を進めることにする。


「それでは、次はネルガーシュテルト帝国における魔術の基礎知識から教えていただけますか?」

「基礎知識?

 それはさすがにこっちと大差ない気がするけど。

 まあいいや。

 まず、魔術は魔力に乗せて呪文を唱えることで、その力を発揮する。

 魔術は地・水・火・風・天・冥の6属性に分類されていて、魔導士によって、それぞれに得意不得意な属性がある。

 ・・・んだけど、姫さん、ひょっとして、そこから知らない?」


真剣な表情でルカの説明に聞き入るオティーリエに、ん?と微妙な表情をしてルカが尋ねた。


「知識として知ってはいましたけれど、実感したことはございませんでした。」

「姫さん、どんな風に魔術習ったの。」


今度は怪訝な表情でルカが尋ねる。


「ただ言われるがままに覚えて、使っていました。」


呪文を、とは言わない。

習ったのは魔法語だから。


属性については、オティーリエも冒険者の手記や物語で知ってはいたけれど、母親からは習っていなかったので、物語を盛り上げるための設定だったり、読み手が分かりやすくするためだったりと考えていた。

それに、アーサーから得た魔法の知識でも属性というものはなかったので、その時点でもオティーリエの認識は改められなかった。


ただ、同じ魔法であっても人によって魔法がかかりやすかったりかかりにくかったり、魔力消費が増えたりすることはアーサーから得た知識で知っていたけれど。

この、使いやすい使いにくいというのは、魔法の対象次第。


つまり、人によって土や砂に魔法をかけるのが得意だったり水に魔法をかけるのが得意だったりということなので、6属性の言葉のイメージから、オティーリエもだいたいイメージが掴めた。


「つまり、系統立てて習わなかったってことか。

 魔術、誰に習ったの?」

「母です。

 ご先祖様より、代々、口伝で伝えられたものを教わりました。」

「なるほどね。

 伝えられたものをそのまま覚えたってことか。」


ルカがオティーリエの答えに納得顔で頷いた。


「じゃあ、各属性の特徴についても知らない?」

「なんとなく言葉からイメージ出来ましたけれど、誤解がないか、念のため教えていただけますか?」


オティーリエが素直に教えを請うと、ルカが生徒に講義をする教師の顔で説明を始めた。


「じゃあ、まずは地属性について。」

「その前に、どうして属性があるのか教えて下さい。」


最初から割り込みが入って、がくっと脱力するルカ。

しかし、気を取り直してその質問に答える。


「魔術の性質が、その6つに分類されるからだよ。

 魔術師の得意不得意もだいたいこれに分類されるし。

 それじゃあ、改めて各属性について説明するね。」

「分かりました。

 お願いします。」

「それじゃあ、まずは地属性から。」


ルカの各属性に関する説明は簡単明瞭だった。

属性は6つ、地水火風天冥。

各属性は名前から受けるイメージ通りの性質を持っているとのこと。


地水火風の属性はその言葉の通りにそれぞれ大地、水と冷気、火、大気を操る魔術。


天は生命に関わる属性と言われているけれど、呪文が全く知られていないため、属性を持っている人物はいても、この魔術の使い手はネルガーシュテルト帝国にもいない。

冥は魔力に関わる属性で、魔力探知の魔術などが分類されている。


「ご解説ありがとう存じます。

 おかげさまで、よく理解出来ました。

 そうしますと、ルカの属性は冥属性なのですね?」

「うん、そうだよ。

 それから、地属性も持ってる。」

「二つの属性を持っているのですか?」


そう言えば、そこの説明していなかったな、とルカはそこで気が付いた。


「属性は一人につき一つじゃないよ。

 と言っても、いっぱい持ってる人も少ないんだけどさ。

 そうだね、一つが一般的で、二つで優秀、三つで最優秀ってところ。

 皇族は全属性持ってるらしいけどね。

 あ、でも、属性持ってないからと言って、その属性の魔術を使えないわけじゃないよ。

 ただ、消費する魔力が桁違いに多くなって、魔術も失敗しやすくなるって話で。」

「そうなのですね。

 分かりました。」


アルビオン皇国が滅んでから20世紀が経つ。

この長い時間の中で、本来、魔法語による魔法が基礎だけれど、文章を作る必要があるために使い勝手が悪いこの魔法は失われてしまい、より使いやすく分かりやすいシンボル化された魔法が残り、そのシンボル化された魔法を投射対象毎に分類して体系化したのが現代の魔法なのだろう。


オティーリエは今までの話で、自分の使う魔法と現代の魔法の違いについて、そう理解した。

この理解が正しいのかは誰も答えることは出来ないので、オティーリエがその考えを抱えるしかないけれど、現代の魔法の知識とオティーリエの魔法の知識は、意味合いは変わってしまっているけれど、基本的な部分で齟齬はないことは分かった。


「だいたい、こんなところかな?

 細かく言えば、呪文は属性ごとに共通点があるとか、複数属性持ちにしか使えない呪文があるとかあるけど。」

「その辺りはなんとなく分かります。

 例えば、髪を乾かしたりする魔術は火と風の複合ですよね。」


ぱっと出て来た例に、ルカがちょっと驚いた顔をする。


「そんな魔術あるんだ。

 姫さん、珍しい魔術知ってるね。

 そう言えば、僕を捕まえた時も気配消しに姿隠し、魔術阻害に拘束の魔術使ってたけど、姫さん、どんな魔術使えるの?

 属性は知らないんだよね?」

「はい、属性は存じておりません。

 どのように知るのですか?」

「属性と魔力を測る魔術道具があって、それで調べるんだよ。

 でも、肝心の調査の呪文は見つかってないし、魔術道具を作る技術ももうないから、この魔術道具がなくなると、調べる方法なくなっちゃうけどね。」


魔術道具というのは、魔法具のことですね、とオティーリエは内心で頷いた。


「オリベール王国とその周辺国でそのような道具の存在は知られておりません。

 こちらでは、その調査は行えなさそうですね。」

「そうなんだ、残念。

 姫さん、ひょっとすると全属性で、しかも魔力の量も質も皇族以上なんじゃないかと思ったんだけど。」


魔力には量と質がある。

量は個人で蓄えられる魔力の最大量のこと。

質は高ければ高いほど、同じ魔法でも魔力の消費量が少なくてすむ。


「自分の仕える人物が優秀であって欲しいと思う気持ちは理解できますけれど、あまり夢は見ないで下さいね。

 それに、魔術の力などではなく、人として貴方の主君に相応しい存在になりたいと考えておりますので。」

「分かったよ。」


そのオティーリエの言葉に、ルカは、ああこういう人なんだなと思いながら頷いた。


「それで、改めて聞くけど、姫さんの使える魔術って、どんなのがあるの?」

「家伝ですので秘密です。」


このままこの質問をなかったことにするつもりだったオティーリエだったけれど、ルカは誤魔化されてくれなかった。


「姫さんの実力を知っておいた方が、護る側としては護りやすいと思うんだけど?」


すげなく断られたけれど、とりあえず食い下がってみるルカ。


「そこはルカのご活躍に期待します。

 それより、むしろ主君として貴方の実力を把握しておかなければなりません。

 本日はこれで終わりとさせていただいて、次は貴方の使える魔法をお見せ下さいね。

 全て。」


答えが返ってこなかった上にいきなりの無茶振りにルカはげんなりした表情を見せた。

とはいえ、まだ忠誠を誓って2週間の自分に実力を隠すのは理解出来るし、主君が騎士の手腕を把握したいと思う気持ちも理解出来る。

自分は教えてもらえないので、幾分、納得はしかねるけど。

ということで、ルカは仕方なく答えた。


「りょーかい、姫さん。

 僕の実力を見て、騎士にしてよかったと思わせてやるよ。」

「それは楽しみですね。

 期待しています。」

騎士による魔法講座、でした。

本当は途中、令嬢とリスの間で騎士の言葉の検証を行っているのですが、読みやすくするために全カットしました。

これで第5話は終わりです。

次は再び事件をメインにしたお話に戻ります。


よろしければ、今後の励みになりますので、評価、感想等、よろしくお願いします。

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