31.君は魔法使い
オティーリエが初めて主催したガーデンパーティーも無事に終えて、その日の夕食。
夕食は自分の部屋ではなく迎賓館の食堂で、しかも食堂にいたのはオティーリエ一人ではなかった。
と言うのも、セオドアが一度はチャーリーとしてお城を辞した後、夕食前にお城に戻って来て、泊って行くことにしたからだ。
もっとも、この程度のことはお城側も予想済。
オティーリエの指示の元、夕食にはセオドアの好きな物を用意し、迎賓館も準備万端でセオドアを迎えた。
そして、談笑しながらの夕食を終え、今は食後のお茶の時間。
応接室に移動してお茶をしていると、セオドアがふと、真面目な表情でオティーリエを見た。
「オティーリエ、人払いを頼めるかい。」
「承知いたしました。」
オティーリエが軽く左手を上げると、ヨハンと侍従達は一礼して、部屋を出て行った。
これで、部屋の中は二人きり。
「突然お人払いなど、どうかなさいましたでしょうか?」
オティーリエがにこやかな笑みを浮かべて聞くと、セオドアは軽く組んだ両手を口に当てながら尋ねた。
「オティーリエ、君は魔法を使えるのかい?」
「どうして、そのようにお考えになられたのでしょうか?」
セオドアの質問に、オティーリエは表情一つ変えずにそう応じた。
もっとも、明確に肯定していないだけで、魔法を使えると言っているに等しい答えではあるけれど。
「先ほどのガーデンパーティーだよ。
わずかな時間だったが、君が友人と話をしている時、背後の花がズレた。
あれは、なんらかの幻影の魔法を使っていたのではないかな?」
その質問に、オティーリエはなんと答えようか色々と考えてみた。
でも、どう答えても、最後には魔法が使える、と肯定させられそうだ。
そもそも、オリベール王国の王族は魔法に詳しい。
それと言うのも、公にはされていないものの王宮にある塔の一つに魔法使いを集めて魔法の研究をさせていて、魔法による暗殺に備えるために、その研究成果を熟知することを幼い頃から叩き込まれるためだ。
今の王家に魔法を使える人物はいないものの、その知識量は推して知るべし、というところ。
ちなみに、どうしてオティーリエがそのような王家の内情を知っているかと言うと、エリオットとマージナリィの諜報活動の賜物だったりする。
と、言うことで、少し考えた後、まあ、もともと、最初の質問で肯定しているようなものでもあるし、無駄な抵抗は諦めて、オティーリエは観念することにした。
「お従兄様には敵いませんわね。
はい、その通りですわ。
魔法を使えます。」
オティーリエの答えに、セオドアは組んでいた手を解いて、満足げに頷いた。
「素直でよろしい。
それで、どの程度、魔法を使えるんだい?」
いっそ楽し気な口調のセオドアに、オティーリエはちょっと苦笑しながら答えた。
「存じませんわ。」
「・・・とは、どういうことだい?」
オティーリエの答えに、セオドアがちょっと訝し気な表情で尋ねる。
「ですから、存じませんの。
魔法はもう廃れてしまっておりますでしょう?
他の魔法使いの方とお会いしたことがございませんので、一般的な魔法使いがどのていど魔法を使えるものなのか、存じておりませんの。」
オティーリエが困りましたわ、という風に右手を頬にあてて首を傾げて答える。
ルカは魔法が使いえるけれど、どちらかと言うと魔法が使える騎士と言った方が正しいので、魔法使いと言うには少し語弊がある。
それから、そのルカに現代の魔法がどのようなものかは教えてもらっているし、ネルガーシュテルト帝国における魔導士がどういう存在なのかも報告書で読んでいるけれど、それはあくまで軍事国家であるネルガーシュテルト帝国のお話なので、オリベール王国とは事情が違うだろう。
ちなみにオティーリエが母親から教わった魔法語を用いた魔法は現代には伝わっていなくて、現在はシンボル化された魔法を呪文として暗記して、呪文を唱えながら魔力を放出してその効果を発揮させるというものとのことだった。
その呪文も、地水火風天冥の6つの属性に分かれていて、魔導士によって得手不得手があるものらしい。
「なるほど。
確かに比較対象や基準がないと答えられない質問だったね。
なら、使える呪文を書き出してもらえるかな?」
その質問に、オティーリエは真剣な表情でまっすぐにセオドアを見た。
「お従兄様は、それを知って、どうなさるおつもりですの?」
王族の質問に答えないのは不敬にあたるものだけど、オティーリエはあえて答えずに質問で返した。
これには、これ以上は答えられません、という意図が籠められている。
セオドアはその意図をすぐに察して、少し重くなった雰囲気を軽くするように明るい口調で答えた。
「分かった。
確かに女性の秘密を暴こうとするのは、無粋以外の何物でもないね。」
セオドアはこれでこの話は終わりとばかりに、お茶を口にした。
それから、ティーカップを戻すと、付け加えるように言葉を続けた。
「いちおう、理由を言っておくと、ただの興味だよ。
我が従妹殿が実は魔法使いだったと知って、ちょっと興味が湧いたんだ。」
もちろん、それも理由の一つだけど、本当のところはそれだけではない。
魔法が廃れた現代において、魔法使いというものは、それだけで大変貴重な人材。
秘密裏に魔法の研究をさせている王家としては、本当は取り込みたい人材だ。
それに、妃選びにも関わる。
このことは、もちろんオティーリエも察したし、セオドアもオティーリエが察するだろうことは最初から想定のうちで。
それから、同様に、オティーリエが魔法使いの力量を隠したことで、セオドアは何か秘密があるのだろうと見当を付けたし、セオドアがそう見当をつけるだろうこともオティーリエの想定のうちだった。
「確かに知り合いがいきなり魔法使いだったなどと申しましたら、興味を持つのは当然のことでございますわね。」
と、セオドアに同意の返事をしてから、オティーリエは顔の前で両手を合わせた。
少し顎を引いて上目遣いになって、お願いしますのポーズ。
「ですけれど、出来ればこのことは、お従兄様の胸のうちだけにお留め置きいただくことは叶いませんでしょうか?
このことをご存じでいらっしゃるのは、父と従者、それから城でも一部の者だけと、本当にごくわずかなのですの。」
話の流れに乗せて、オティーリエが魔法を使えることを知っている人物の情報を渡しつつ、本当に極一部なのだと主張もしておく。
そのオティーリエのお願いに、セオドアはふむ、と腕を組んで右拳を顎に当てた。
「分かった。
その代わり、くれぐれもジェームスには知られないよう気を付けるように。」
ジェームス・アレクサンデル・アルバート・ロートリンデ・オリベール。
オリベール王国の第二王子。
セオドアの弟で、オティーリエと同い年。
狩猟大会の際は、このジェームスもホルトノムル侯爵領にやってくる。
狩猟大会期間中は、よくセオドアとジェームスとオティーリエの三人で一緒に遊んでいた。
セオドアがオティーリエを猫可愛がりし、一歩離れて見ているジェームスをオティーリエが巻き込むのは毎年の風物詩だ。
「承知いたしました。
十分に気を付けるように致します。
ありがとう存じます。」
オティーリエが軽く頭を下げてお礼を言うと、セオドアも頷いた。
王族が相手なので、頭を下げてお礼を言うのは適切な対応。
「それでは、今日はもういい時間だし、お開きにしよう。
オティーリエも初めてのガーデンパーティーの主催で気を張って疲れただろう。
ゆっくり休むといい。」
「お心遣い感謝致します。
お従兄様も遠路をはるばるお越し下さったのですから、お疲れかと思いますわ。
どうぞ、ごゆっくりなさって下さいね。」
「この程度はどうってことないけどね。
でも、分かった、ゆっくりさせてもらうことにするよ。」
セオドアの答えにオティーリエは笑みを浮かべると、それを見てセオドアは席を立った。
立場上、まずセオドアが動かないとオティーリエが動けないから。
「それじゃあ、お休み。
よい夢を。」
「はい、お休みなさいませ。
安からな夜をお過ごし下さい。」
お互いに挨拶をすると、セオドアは手を振りながら、部屋を出て行った。
◇ ◇ ◇
この日の夜、オティーリエはエリオットに手紙を書いてからお風呂に入って就寝。
こうして、様々なことが起こった一日を終え、オティーリエは眠りについたのだった。
王子様に秘密の一つがバレました。
とはいえ、落ち着いた対応をしてもらえて一安心です。
これで、ガーデンパーティーでのお話は終わりです。




