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27.向き合う覚悟

オティーリエは4人を庭園の入り口から見て左側の端っこに案内した。

ヨハンも入れて6人で歩く道は、少し微妙な空気になっている。

緊張している、というほどではないけれど、誰も言葉を見つけられない。

そんな状況。


普段ならノシェあたりが何か言って空気を変えるのだけれど、今は付き人の立場にいるため発言出来ない。

こうして誰も口を開かないまま6人が道を歩いて行くと、いつの間に回り込んだのか、目的のベンチの手前で一人の従僕が待ち構えていた。

左手には飲み物の入ったグラスが7個乗ったトレーを持っている。

ルカだ。

6人が近づいて来ると、その微妙な空気を知ってか知らずか、澄ました顔で軽く一礼した後、声をかけてきた。


「お嬢様方、ル・ポンムはいかがでしょうか?

 甘くて口当たりもよろしいので、飲みやすいですよ。」


声をかけられたオティーリエは足を止めると、グラスを一つ取ってルカに感謝の笑みを向けた。

微妙な空気でいるところに、それを変えるために声をかけてくれたから。

ただ、こういう場合は主人と招待客はサービスを受けてもお礼は言わない。

なので、オティーリエは口には出さずに、表情と態度で精一杯の感謝を伝えた。

ルカも笑みを返してくれたので、オティーリエは道の横に避けて、後ろの5人にも勧めた。


「皆様もいかがですか?」

「いただきますわ。」

「私もいただきます。」


セレスフィアとセリアもグラスを手に取った。

ルカはそれから、さらに二人の後ろ、ラシェルとノシェにも視線を送る。

視線を向けられたノシェは困惑の表情で動きが止まってしまったけれど、ラシェルは首を傾げてルカに問いかけた。


「私共もですか?」

「はい。

 よろしければどうぞ。」


ラシェルがオティーリエに視線を送ると、オティーリエは首を振らずに見つめ返した。

つまり、どうぞ、という意味。


「付き人へもお心遣いいただきまして感謝いたします。」


ラシェルはオティーリエにお礼を言うと、グラスを手に取った。

付き人は本来、サービスを受ける立場ではないため、お礼を言う。

そして、お礼を言う相手はサービスをした当人ではなく、その人の主人。


「ありがとうございます、いただきます。」


ラシェルを見て、ノシェもグラスを手に取った。

トレーに乗っているグラスはあと2つ。

しかし、二人に続いてヨハンもルカに近づいて行くと、ルカはさっとトレーを隠すように身体ごと横を向いた。

それで、ヨハンは動きを止める。


「僕はお嬢様方、と申しました。

 つまり、そういうことです。」


ルカが横を向いたまま、そう澄ました顔で言うと、ヨハンは肩を竦めてオティーリエの背後へと移動した。

セレスフィア、セリア、ノシェ、ラシェルが一斉にオティーリエを見ると、オティーリエはちょっと楽しそうに微笑んで、ヨハンにグラスを渡した。

ありがとうございます、と言ってヨハンがそれを受け取る。

それから。


「つまり、こういうことですね。」


言うと、オティーリエは再びグラスを手に取った。

残った2つとも。

そして、片方をルカに手渡す。


「貴方もどうぞ。」


それをルカも笑みを浮かべて受け取った。

ルカは給仕担当の従僕に変装(?)中のため、自分からグラスを手にすることは出来ない。

なので、このような回りくどいやり方で、この輪に入る立ち位置を手に入れたのだった。

なぜこんなことをしたかと言うと、オティーリエの従者のヨハンはこの輪に入れるのに、騎士である自分が入れないのは納得がいかないから。

まあ、オティーリエとルカの関係を知らない者からすると、給仕係が何を、というところだけど、それはルカには関係ないことだ。

実際、オティーリエとヨハンとルカ以外には違和感のある光景だったのだけれど、オティーリエが気にしていないので、誰も口には出さなかった。


オティーリエはルカにグラスを渡してから全員が見える位置に少しだけ移動すると、みんなを見ながら持ったグラスを軽く掲げるように持ち上げた。


「それでは、みなさま。」


オティーリエが言うと、全員が同じようにグラスを持ち上げた。

そして、みんなで一斉にグラスの中の飲み物を飲み干す。

このル・ポンムという飲み物は名前の通り、リンゴで作られたノンアルコールスパークリングワイン。

ヴェルハルン侯爵領の名産品で、ノンアルコールの飲み物としては世界的に評価の高い逸品。


それから、グラスはいわゆるショットグラスの小さめの物で、少し丸みを帯びて美しいカットが施されていて、ウイスキーよりも甘い飲み物を入れるのが似合う可愛いデザインだ。

これは、このル・ポンムという飲み物を味わうためのチョイス。


「甘味と酸味が適度に交わって、リンゴの風味がとても爽やかですわね。」

「それに、とてもなめらかで喉を通る時の感じが心地いいです。

 このグラスでご提供された理由がよく分かりました。」


セレスフィアとセリアが感想を述べると、ラシェルとノシェも頷いた。

この2人は付き人なので、この場では不必要な発言は出来ない。

ちなみに、セレスフィアはセリアが感想を言う余地を残して感想を言っていて、セリアがいなければ、セリアが言った感想も自分で言っていた。


全員が飲み終わったところでルカがトレーを差し出すと、それぞれがトレーにグラスを戻した。

全員分のグラスを回収すると、ルカは最後に一礼して、その場を立ち去った。


ルカが立ち去ったのを見送ってから、オティーリエはベンチのすぐ手前まで歩を進めた。

そして、はしたなく見えないようにゆっくり回ってみんなの方を向く。


「それでは、これから少しお話をさせて下さいませ。」


そして、穏やかな笑みを浮かべて、みんなに声をかける。


「この場では、皆様はどうぞ、お城の中ということを意識せず、普段通りお話し下さいませ。

 ティリエの名を出していただいても大丈夫ですわ。

 それから、ラシェルとノシェも付き人ではなく、ご令姉様、ご朋友としてご接し下さい。

 ただ、男性方の目もございますので、見た目は取り繕っていただけますと幸いです。」


最後はむしろ楽しそうに。

オティーリエにそう言われて、ラシェルとセリアとノシェが戸惑ったように顔を見合わせた。


「ありがとう存じます。

 そのようにさせていただきますわ。」


セレスフィアは落ち着いた様子で、4人を代表してそう答えた。

せれで、ラシェルとセリアとノシェも了解したとばかりにオティーリエを見る。


「それでは、どうぞお掛け下さいませ。」


オティーリエは4人に笑みを向けてからそう言うと、ベンチの真ん中に座った。

その両脇にセレスフィアとセリアが座り、ラシェルとノシェはそれぞれの主人の斜め前、周囲から見ると主人の傍に控えていると言える場所に立った。

ヨハンは、セオドア、マクシミリアン、アルチュールがこちらを見た時に出来るだけオティーリエを隠すような位置で、5人に背中を向けて立った。

いよいよ、親友3人との対話。

このパーティーを開いた目的です。

が、その前にワンクッション。

騎士がいい仕事をしてくれました。

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