23.ガーデンパーティー6
「失礼ながら、もう一度話題を変えさせていただきます。
私は自己紹介でも申しました通り、不動産以外の業種へも手を伸ばしたいと考えています。
オティーリエ様は、これから、どのような業種が伸びるとお考えでしょうか?」
これは、オティーリエがすでに領主の仕事を手伝っていることを前提とした質問。
領内はもちろん、社会全体の経済活動について把握していないと答えられないものだから。
このような質問をしれっと投げてくる辺り、アルチュールは学生ながらも領内事情に詳しいということだし、そのことをオティーリエに示そうとしているのだろう。
セオドアとセレスフィアも興味を引かれたらしく、表情には出ていないものの、ほんのわずかに雰囲気が変わった。
「そのご質問には、アルチュールがこれから事業を立ち上げるおつもりなのだと想定しまして、新規参入が難しい分野は除外してお答えいたしますね。
伸びる、ではありませんけれど、これからは一般的なご家庭をターゲットにしたサービス業が出て来ると考えております。
いえ、すでにその動きは出て来ておりますね。
古くは、それまで作る物だった物を買う物へと変化させた安価な既製服がそうですし、さらに服で言いますと、スーツやコートなどの、処理の難しい衣服の洗濯の代行を行うクリーニングなどがそうでしょう。
また、従来の家政婦とは異なり、掃除や料理といった作業内容を限定した家事代行サービスや、遠くへ荷物を配送する宅配業、それからその宅配業を利用したカタログ販売などもそうですね。
他にもありますけれど、こういった、日々の暮らしを豊かにするためのサービスですわ。
新たな商機を掴むのでしたら、物品の販売だけでなく、労働力や情報を提供するといった、そんなサービスがよろしいかと存じます。
普段の生活の中にこそ、そのヒントがあると思いますよ。
と、一方的に考えを述べるのはここまでにさせていただきますね。
このご質問は、アルチュールご自身にも思うところがあってのものと存じます。
アルチュールはどのようにお考えですか?」
アルチュールは、今度こそ、本当に感嘆の溜息をついた。
このオティーリエという人物、領主の娘という立場にありながら、貴族という枠組みに囚われず、市井を、そして社会全体を、よく見ている。
まだ、13歳という年齢でありながら。
「ご慧眼、感服いたしました。
詳細は述べられませんが、私も市民向けのサービスを考えていたところです。
オティーリエ様の見込みとも一致するとのことで自信を得ました。
いただきましたアドバイスを常に心に留め、日頃の研鑽に努めようと思います。」
今度は芝居がかった様子はなく、真摯に右手を胸に添えて一礼した。
しかし、これで一段落と思いきや、ここで終わらないのがオティーリエという少女。
「これでまとめようというおつもりのようですけれど、決して逃しはいたしませんよ。」
オティーリエが楽しそうにアルチュールに言う。
「こちらの意見は述べさせていただきましたけれど、アルチュールのご意見を頂戴しておりませんわ。
アルチュールは今後、ホルトノムル侯爵領はどのような経済活動を行えば、さらに発展するとお考えでしょうか?」
反撃するついでに課題を盛ってみた。
問われたアルチュールは、軽く苦笑いを浮かべながら顔を上げた。
「課題をすり替えられた気はしますけれど、こちらの質問にお答え下さったことを考えれば、きちんとお答えしなければいけませんね。」
こほんと一つ、咳払い。
「今のホルトノムル侯爵領の経済は工業、物流の中継地、それから観光の三本柱で成り立っています。」
そう、観光もホルトノムル侯爵領の重要な産業の一つである。
オリベール王国建国よりも以前から存在する城塞都市として、その存在、歴史そのものを産業の柱としている。
騎士団の名を残しているのもこのためだし、衛兵交代式のような今では不要となった習慣もあえて残しているのもこのためだ。
お城も一部を一般開放して見学ツアーなど組まれていたりする。
街の景観についても細かくホルトノムル侯爵領の自治法に定められていて、特に中央広場周辺の建物などは、建て替え禁止の上に持ち主はホルトノムル侯爵となっていて、その住人はあくまで借用という扱いになっている。
ちなみにこうして三大産業、という言い方をする時は、鉄鋼業は工業に含まれる。
「いずれも領内ではなく領外へ向けた産業になります。
内需を拡大するのも一つの手段ですが、現代は領地という単位ではなく、国という垣根すら取り払い、世界を相手に商売を行う時代です。
ですので、内需拡大を目指すより、領外への積極的な情報発信に力を入れるべきだと考えます。
いっそのこと、新たに情報を取り扱う会社を作ってしまうのもよろしいかと思います。
その際は、我がデュフィ家の持つ不動産業ネットワークも一枚噛ませていただきますよ。」
しっかり宣伝も忘れずに。
「貴重なご意見ありがとう存じます。
つまり、現在の情報発信はまだ不十分だということでしょうか?」
「いえ、そうではありません。
観光業が柱になっていることからも分かります通り、情報発信は十分に行われていると思います。
私が提案しているのは、さらに新しい情報発信の形を提供しましょうということです。」
ここでアルチュールは言葉を切って、セレスフィアを見た。
「例えばオストライア家で新製品を発表する際、領内だけでなく王都などでも発表会をしたり、世界各国の業者にカタログを送付したり、といった具合です。
セレスフィア嬢、このような案はどうでしょう?」
「ご提案ありがとう存じます。
カタログに関しましては、すでに行っておりますわ。
ですけれど、もう一つのご提案につきましては、今のように招待状を送って領都で発表会をするだけでなく、王都などの人の集まる場所で発表会を行うことで、まだ社の方で把握出来ていない、潜在的な顧客の発掘に繋がるかもしれませんわね。
話題性を高めるために、同業他社が一同に会して発表会を行うというのもよろしいかもしれませんわね。
家に持ち帰りまして、検討させていただきたく存じます。」
突然巻き込まれたセレスフィアだったけれど、焦った様子もなく、落ち着いて答えた。
さらりと自分の意見を付け加えてくるあたり、さすがといったところ。
アルチュールも自分の提案が受け入れられて、満足げに頷いた。
「アルチュールのご意見はよく分かりました。
素晴らしいお考えだと存じます。
事業のご提案までいただきましたので、お城の機関でも検討させていただきますね。」
オティーリエも納得の顔で答えた。
口には出さなかったけれど、おかげで新たな事業も思いついたし。
「お二方にお認めいただけて、恐悦至極にございます。
さて、思いがけず議論になってしまい、お時間をいただいてしまいましたので、私からのオティーリエ様への質問は、ここでいったん終了させていただきます。」
アルチュールは全員に向かってさっと一礼すると、着席した。
オティーリエ個人の情報はちょっと物足りなかったけれど、オティーリエの領主令嬢としての能力は期待以上だったし、その領主令嬢と領内でも有数の実業家一族であるセレスフィアにも自分の価値も示せたしで、アルチュールにとっては満足の出来だった。
そして、アルチュールは着席すると、次はお前の番とばかりに、ちらりとセオドアの方を見た。
セオドアの方はと言うと、そのアルチュールの視線に無視を決めこみ、視線を自分のティーカップに固定して受け流した。
陰気で話し下手な男性のフリをしているわけだが、それを知っているオティーリエとセレスフィアが見ても、本当にそうなのだろうと思えるほどに見事な擬態だった。
と、そんな風に視線で戦っている男性陣をよそに、女性陣は少し様子がおかしかった。
アルチュール君からの質問とプレゼンでした。
せっかくの機会なので、アルチュール君は自分を領主令嬢に売り込んでおこうという算段です。




