22.ガーデンパーティー5
「車や飛行機などがお好きとのことですが、よろしければ他にお好きな物などお教えいただけますか?
例えば、お好きな料理とか、お好みの花などございますか?」
「食事に関しましては、恵まれているという自覚がございますので、好き嫌いなくなんでも食すようにしておりますわ。
お花は、道端に咲くお花も、この庭園を彩るお花も、それぞれに異なった魅力がございますので、これというものを選べませんわね。」
と、ここでいったん言葉を切ったものの、思い直して言葉を続けた。
「これでは十分なお答えになっておりませんね。
そうですね、色・・・は特に気にしたことはございませんでしたわ。
お天気も季節も、それぞれに赴きがあってどれも好きですわ。
こうして改めて考えてみますと、好きなものばかりで、これ、と一つを選べませんわね。」
オティーリエは少し困ったように頬に手を当てて答えた。
アルチュールの笑顔が少し引き攣って見えるのは気のせいではないだろう。
「なるほど、オティーリエ様はとても感受性の豊かな方なのですね。
それでは、質問の向きを変えましょう。」
それでも、アルチュールはめげずに会話を続ける。
と、ここでセリアがちょっと笑いをこぼした。
それというのも、アルチュールは初対面の女性に対して、こういった小さな好みの話を繋げて相手の警戒心を解き、最後に好きな異性のタイプは?と聞くのが定番の会話の流れなのに、それが通じなかったから。
どうしてセリアがこんなことを知っているかと言えば、自分もやられたし、何度かそのようなやり取りをしている場面に居合わせたりもしたから。
「休日はいかがお過ごしなのでしょうか?
あまり街中に観劇や音楽鑑賞にいらしたというお話をお聞きしたことがありませんでしたので、以前から知りたいと思っていたのですが。」
アルチュールはセリアが笑っていることは察しつつ、そちらは気にしないでオティーリエへの質問を続けた。
「第二日曜日は第一騎士団の方々と飛行訓練を行っておりまして、これはあまり普通ではありませんわね。
あと、普通ではない過ごし方ですと、第一騎士団の練兵場で車を走らせたり、お城のお抱えの発明家による発明品を試用したり、使うための訓練をしたりなどしておりますわ。
ですけれど、それ以外は、皆様とさほど変わりないと思いますよ。
月の最後の日曜日は日曜礼拝に参加しておりますし、ただ本を読んで過ごすこともございますし、庭園を散策したりする日もございますもの。」
最後の部分は数カ月に一度というペースではあるけれど、という一言は飲み込んで。
ヨハンは澄ました顔をして立っているが、内心、誤魔化すていどには普通ではない自覚はあったんだなと思っていることだろう。
実際、その通りだったりする。
「オティーリエ様は休日の過ごし方も普通ではないのですね。
市井の者と同じ物差しでは測れない御方なのだと痛感いたしました。」
その答えを聞いたアルチュールは、普通に会話を進めることを諦めた。
よくある質問では、あまりない回答ばかりが返ってきそうだ。
そして、アルチュールは芝居がかった調子で感極まりました、という感じにそう言ったかと思うと、ふっと笑って、次の瞬間には顔を引き締めてオティーリエを見た。
ここまでは、オティーリエ・セラスティア・ロートリンデという女の子を知るための質問。
そして、次は侯爵令嬢という立場に立つ人物への質問。
むしろ、こちらの方が本命だ。
アルチュールの質問タイム。
と言いますか、ナンパタイムと言いますか。
ただ、令嬢には通じなかったようです。




