21.ガーデンパーティー4
最後に、オティーリエの番。
セレスフィアが拍手を受けながら着席すると、それに入れ替わるようにオティーリエが立ち上がった。
「オティーリエ・セラスティア・ロートリンデです。
ホルトノムル侯爵エリオット・ロートリンデの娘として、現在は領政に携わらせていただきながら、教育を受けているところですわ。
車、飛行機、鉄道をはじめ、様々な機械全般が大好きです。
幼い頃はお城の工房で機械の組み立てのお手伝いなどもさせていただいておりました。
今は、淑女にあるまじき、と注意をされてしまいますので、出来なくなったのですけれど。
ですので、この工業の発達したホルトノムル侯爵領に生を受けたのは、まさに水を得た魚のようだと思っておりますの。
将来につきましては、発言してしまうと影響が大きすぎますので、今日の所はご容赦下さいませ。
自己紹介は以上ですわ。
皆様とは長いお付き合いになるかと思います。
どうぞ、今後ともよしなにお願いいたします。」
オティーリエがそう言って自己紹介を締めると、ぱちぱちと拍手の音が上がった。
機械の下りは、オティーリエとしては意外さを演出してみたつもりだったのだけれど、場の反応はそうでもなく、ちょっと期待ハズレ。
意外そうな顔をしたのは、アルチュールとセリアの学生コンビだけだった。
拍手の音も止み、場も落ち着いた所で、オティーリエが腰を下ろす前にセレスフィアが手を上げた。
「オティーリエ様、少々、ご質問させていただいてもよろしいでしょうか?」
こうして率先して発言するのは、普段はまず周りの様子を見るセレスフィアにしては珍しいことだけれど、もちろん、意図がある。
今日、この場において、オティーリエへの質問がたくさん出ることは想像に難くない。
その質問タイムとしてまとまった時間を取るなら、オティーリエの自己紹介の後である今がベストタイミングだろう。
そして、その口火を切るのは、オティーリエと同性で家格の高いセレスフィアが適任。
もちろん、オティーリエもそう考えているだろうと思っての発言。
「どうぞ。」
「ありがとう存じます。」
オティーリエが発言を促すようにセレスフィアの方に手を向けると、セレスフィアがお礼を言ってから立ち上がった。
「オティーリエ様は車や飛行機などがお好きとのことでしたけれど、ご自身でもご運転なさるのですか?」
この質問もセレスフィアの計算づく。
いたって個人的なことを最初に質問することで、『オティーリエ様への質問』の垣根を下げる。
そして、オティーリエもセレスフィアの意図を了解して、明るい口調で答える。
オティーリエが自己紹介を終えてからの、この2人の様々な思惑を詰め込みながらも一致した意図での会話の流れは、まさに阿吽の呼吸といったところ。
「はい、車も飛行機も運転いたしますわ。
月に一度は領都上空を飛ばせていただいているのですよ。
残念なことに、機関車は運転したことはございませんけれど。」
と、ここでちょっと笑いを取りに行く。
みんなが流れに乗って小さく笑ってくれる中で、マクシミリアンが我が事のように嬉しそうに横から口を挟んだ。
「飛行機操縦においては、第一騎士団のエース達の戦闘機動を全てご習得されたそうですよ。
なんでも、オティーリエ様はお教えするとすぐにコツを掴んでしまわれるので、お教えするのがとても楽しいのだとか。」
その発言を聞いて、この子は危険だ、とオティーリエは思った。
どんな場面だろうと、機会を捕らえてはオティーリエを持ち上げて来る。
これはなかなかに居たたまれない気持ちになる。
そして何より、ウィリアムは自分の息子に何を吹き込んでいるのか、と八つ当たり気味にオティーリエが思っていると、その背後から、普段の行いのせいだと言わんばかりに冷めた視線でヨハンがオティーリエを見つめていた。
その視線を感じて、少し冷や汗をかいているような気分で、オティーリエはそれに答えた。
「第一騎士団の皆様がよくして下さるおかげですよ。
いつも優しく丁寧に接して下さいますので、こちらとしても楽しませていただいておりますわ。」
もちろん、表面的にはにこやかに。
「オティーリエ様の意外な一面が判明いたしましたところで、他にご質問される方はございますか?
個人的には、まだオティーリエ様にお聞きしてみたいことがあるのですけれど。」
セレスフィアが、オティーリエの状況を察して、話題を逸らした。
マクシミリアンも言いたいことは言ったので、特に気分を害した様子はない。
「それでは、私からよろしいでしょうか?」
「ええ、どうぞ。」
手を上げたのはアルチュール。
オティーリエに促されると、セレスフィアは着席して、アルチュールは立ち上がった。
「まずは飛行機の操縦を嗜まれていらっしゃるということに、素直に驚きました。
直にお姿をお見かけしたことはございませんでしたが、実は見上げた空の上にいらっしゃったのですね。」
などと、気障な台詞で前置きしつつ。
セリアなどは何言ってんのこいつ、という表情を隠そうともしていない。
自己紹介がオティーリエの番になりました。
狙ってもなかなか上手く乗ってもらえませんでしたが、意外性は出せたようです。




