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18.ガーデンパーティー1

開始時間1分前。

参加者はオティーリエを除いて全員が席に着いていた。

席の順番は、庭園の入り口の側から見て左側に男性が、右側に女性が座っている。

そして庭園の入り口側から、男性はチャーリー、アルチュール、マクシミリアンの順に。

女性はセリア、セレスフィア、それから今はいないけれどオティーリエの順だ。

男性と女性に分かれて向かい合わせに座るので、まるでお見合いパーティーのよう。

もちろん、お見合いパーティーなどではないので、そのような雰囲気は全く漂っていないけれど。


しかし、今は主催者であるホルトノムル侯爵令嬢を迎える緊張感で、空気は張り詰めていた。


そんな中に、オティーリエは庭園の入り口からではなく、反対側のお城の方から東屋に歩いて来た。

セレスフィアとセリアは気付かなかったけれど、お城側にも入口があったようだ。


こういう時に敏感なのはセレスフィア。

セレスフィアは最初にオティーリエに気が付くと、周囲に促すようにしながら立ち上がって、オティーリエがやって来る方に身体を向けた。

他の4人も立ち上がって、同じようにオティーリエを迎える。

とりあえず建前上は公式な場ではないし、すでにそれぞれに挨拶は終えているので、礼などはしない。

いや、セリアはしようとしたけれど、周囲を見て慌てて止めた。


オティーリエの背後にはヨハン。

それからさらにその後ろにワゴンを押した侍従や侍女達が続く。


この侍従の中にはルカも混じっているのだけれど、そのルカ。

もともと軍人で姿勢は綺麗だし、容姿も決して悪くないので、侍従姿もなかなかに様になっていた。


オティーリエは円卓の自分の席までやってくると、にこやかな笑みを浮かべて、そこにいる5人を見回した。

ガーデンパーティーの主催は初めてだけれど、オティーリエは意外と緊張していなかった。

領主の仕事をする時や会議の時などは、領主の娘という立場上、話し合いをリードしなければいけなかったし、お城の中ではお城に勤める人達から注目されることも多かったので、そういうことにはもう慣れてしまっていたから。

なので、最初の一言も落ち着いて、すんなり出て来た。


「改めまして、ご挨拶申し上げます。

 本日はお忙しい中、大切な休日にご参集いただきまして、心より感謝申し上げます。

 ホルトノムル城のガーデンパーティーにようこそお越し下さいました。

 主催させていただきますオティーリエ・セラスティア・ロートリンデです。

 精一杯務めさせていただきたく存じますので、どうぞ、よろしくお願いいたします。」


オティーリエは挨拶の言葉を述べると、改めて参加者一人一人と順番に目を合わせていった。

それから。


「どうぞ、ご着席下さいませ。」


オティーリエが両腕を軽く広げながら着席を促すと、5人は着席した。

オティーリエはまだ座らない。

参加者達が着席すると、侍従と侍女達がそれぞれの前にティーセットを置いて、お茶を注いでいった。

もちろん、それぞれのお茶の好みは調査済みで、それぞれに合わせたお茶を用意している。


それから、参加者の後ろ側に円卓を囲むような形で四方にテーブルを設置して、さらに暖かい料理や冷たいデザート、自由に取れるようにした飲み物などが追加で並べられて行く。

ソーセージやローストビーフ、その外にも鶏、豚、牛を使った肉料理に魚料理、豆などを使った穀物の料理など、ガーデンパーティーではあまり出てこない、ちょっと重めの料理も並べられていた。


通常、こういう席ではあるていど統一感を持たせたお菓子が並ぶものだけれど、今回はメニューだけを見れば、ハッキリいって雑多。

少々、ガーデンパーティーという場にはそぐわない。


だけれど、円卓の上には通常のティータイムのようなセッティング。

周りに置かれたテーブルに、その他の料理が並べられている。


食器のデザインは当然ながら統一されていて高級感のある上品な物が使われているし、それぞれの料理も美しく盛られ、色や大きさ、形などまで計算されて見栄えよく並べられているので、見た目的にはメニューから受けるほどの雑多な印象はない。


どちらかと言えば、ガーデンパーティーではなくて、ディナーの簡易版といった雰囲気。

なので、このメニュー構成は手当たり次第に用意したという感じはなく、むしろ男性と女性が同じ席に座り、時間や参加者の年齢層も考慮した、主催者側の配慮だろうと受け取れるほどに、整えられたものだった。


「本日は、ランチタイムの直後という開催時間のためにランチを十分に召し上がられなかった方もいらっしゃるかと思いまして、ランチとしてお摂りいただける料理もご用意いたしましたの。

 ご覧いただいております通り、統一感も何もない取り合わせですので、順番など気にせず、どうぞご自由にお料理とお菓子をお楽しみ下さいませ。」


オティーリエはそう言うと、ヨハンに椅子を引いてもらって着席した。

ヨハンは主人がきちんと着席したことを確認すると、円卓と周囲に置かれたテーブルに用意された料理とお菓子を取りはじめた。


オティーリエと事前に打ち合わせておいた通り、周囲のテーブルからソーセージを一本、トリュイットのオーブン焼きを切り分けて小盛にしたものから一切れと野菜を少々。

それから、それとは別の皿に、円卓の上のティースタンドと皿から、小さめのキュウリのサンドイッチを1つに、クッキーを3枚と小さめのケーキを1つ取り、オティーリエの前に並べた。


順番も気にしないし、なんでも取っていいですよ、という意思表示のためのチョイス。

この量を食べるために、オティーリエは昼食を抜いてきていたりする。


オティーリエを見て、参加者がそれぞれの付き人に指示して料理やお菓子を取り分けていった。

普段は形通りに取っていくところを、今日は自由に取っていいということで、何を取るかを見るだけでも個性が出ていて、なかなか楽しい。


マクシミリアンはランチを食べそこなったのか、少年らしく食欲旺盛なのか、肉料理を中心に食事メニューを皿いっぱいに盛ってもらっている。

そして、お菓子は全く盛られていない。


アルチュールはチュイルという屋根タイルの形の焼き菓子と、フォンダン・オ・ショコラを。

チュイルはお茶請けというところなのだろうけれど、フォンダン・オ・ショコラは興味からだろう。

このお菓子は最近、隣国のエラント王国で発明されたばかり。

ホルトノムル侯爵領はエラント王国と国境を接しているおかげで、オリベール王国でも一番に輸入されたものだ。

王都でも作れる人は少なく、非常に珍しいお菓子である。

このお菓子をチョイスするあたり、アルチュールの社交へのアンテナは高いのだろう。


セオドアは数種類のチーズを少しづつ取ってもらっていた。

お茶よりワインの方が合いそうだけれど、さすがにこの場でワインは提供されない。

セオドアは無類のチーズ好きなので、チーズも複数用意しておいてよかったとオティーリエは安堵していた。

チーズを用意したのは、セレスフィアがチーズ好きだから。

なので、これもセレスフィアのおかげだとオティーリエは内心、セレスフィアに感謝しきりである。

ちなみに、このチーズの中にはシェーブルチーズというヤギのチーズも混ざっていて、このチーズはホルトノムル侯爵領の隠れた特産品だったりする。


セレスフィアとセリアはそれぞれ、小さなケーキを1、2個づつと、当然のようにフォンダン・オ・ショコラを。

セレスフィアは家を早くに出て来たおかげで昼食をとっていなかったのだけれど、こういう場で食事をとるのは淑女らしくないと考えて食事メニューは止めておいた。

オティーリエが食事メニューも取っているけれど、あれは主催者として参加者にこのパーティーの主旨を見せる意図があるためなので、参考にすべきではない。

また、チーズについても、セオドアがチーズばかり選んでいるのを見て、チーズは避けることにしたのだった。

いよいよガーデンパーティーが始まりました。

令嬢が2カ月かけて準備した渾身のパーティーです。

おもてなしを受ける5人が満足出来るものであればいいのですが。

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