17.もうすぐ開催
セレスフィアとセリアがラシェルとノシェも交えて雑談していると、セレスフィアが「少々お待ち下さいませ。」と言って、それを止めた。
庭園に新たな招待客が入って来たからだ。
入って来たのはマクシミリアン。
オナー家は領地は持たないものの、初代ホルトノムル侯爵によって騎士叙勲され、連綿とその家門を保って来た、準貴族と呼ばれる階層の家である。
それでなくてもホルトノムル侯爵領においては尊ばれるべき家門なので、セレスフィアとセリアも、ご挨拶に伺う立場になる。
ホルトノムル侯爵領の上流階級の家庭は全て把握しているセレスフィアは、当然マクシミリアンのことも知っていて、セリア、ラシェル、ノシェに教えると、三人を促して挨拶に向かった。
向かった先は東屋。
マクシミリアンは先に来た三人と同様に、まずは東屋に侍女に案内されていたから。
四人で東屋に向かっていると、アルチュールもマクシミリアンに気が付いたらしく、別の道から東屋に向かって歩いていた。
挨拶の順番は殿方が先。
という訳で、四人は東屋への到着を抑えるためにゆっくりとした歩調に変え、東屋についてもまだアルチュールがマクシミリアンと言葉を交わしていたため、東屋に入らないで横で控えて待っていた。
四人に気が付いたマクシミリアンとアルチュールが会話を切り上げると、セレスフィアとセリアが東屋に入ってマクシミリアンに挨拶をした。
最年少で、まだ社交デビューしていないながらも礼儀正しく、騎士らしく二人を淑女として扱うマクシミリアンに、セレスフィアとセリアは好印象を抱いて、挨拶を終えた。
その後は、再び庭園奥のベンチで四人で雑談をしていた。
◇ ◇ ◇
四人が雑談をしていると、もうすぐ開始時間、というタイミングで再び近づいて来る男性がいた。
もちろん、セレスフィアはその人物が庭園に入って来た時から気付いていたけれど、まったく知らない顔だったので、正直なところ、内心、戸惑っていたところだ。
その男性はもちろん、チャーリーことセオドアである。
その男性が近づいて来ると、セレスフィアとセリアはベンチから立ち上がって出迎えた。
「お久しぶりです、セレスフィア嬢。
そして、初めまして、セリア嬢。
私はチャーリー・バーナード・ド・シオン。
シオン家の次男でございます。
本日はよろしくお願いします。」
セオドアがそれぞれを見ながら挨拶をした。
陰気なチャーリーを演じているので、視線は合わせず、暗い感じで相手にギリギリ聞こえる程度の声音で。
セオドアのその挨拶に、まずはセレスフィアが答えた。
「チャーリー様でしたのですね。
ごきげんよう。
本日はよろしくお願いいたします。」
そして、次はセリアの番。
チャーリーが自らセリアに挨拶をしてしまったので、セレスフィアからセリアに紹介は出来ない。
「初めまして、チャーリー様。
お会い出来まして光栄でございます。
本日はよろしくお願いいたします。」
と、そこまで言ってから、セリアは首を傾げて尋ねた。
「ところで、どうして私の顔をご存じでいらしたのですか?」
「簡単ですよ。
失礼と思いましたが、本日の参加者は事前に調べさせていただきました。
領都内で、参加資格を満たす人物は限られますからね。
女性でしたら、セレスフィア嬢とセリア嬢しかいらっしゃいません。
そして、セレスフィア嬢のことは存じておりましたので、必然的にセリア嬢のことも分かったという次第です。」
この、説明をする時だけは少し声も大きくなり、猫背気味の背中が少し伸びていたような感じがした。
顔もなんだか得意げに見える。
これは、自分の手柄に関してはちょっと得意げになるという小芝居の一つ。
「なるほど、そういうことでしたのですね。
参加者の情報を集めるのは、このような場では当たり前のことだと教えられています。
ですので、失礼にはあたりませんよ。
むしろ、感心いたしました。」
「ありがとうございます。」
納得顔でセリアが言うと、チャーリーはそれ以上は不要とばかりに簡潔にお礼を述べた。
それきり、チャーリーからは言葉が出てこない。
セリアも会話をどう続けたものかとセレスフィアをちらっと見た。
セレスフィアの方はと言うと、セリアが話している間に、このチャーリーを名乗る人物が何者かを考えていた。
少なくとも、シオン家が、この人物のためなら、この貴重な機会を見逃すことが許容できるということだ。
むしろ、この機会を利用して借りを作っておくことで、後でより大きな利益が見込めると考えたという見方も出来る。
それから、ここにいるということは、領主令嬢であるオティーリエが参加を断れなかったことも示している。
そうなると、対象は絞られてくる。
黒い髪の人物に心当たりはないものの、その美しい紺碧の瞳の持ち主には、一人、心当たりがあった。
髪がかつらだとすると、まさか、という思いはするものの、他に思い当たる人物はいない。
こうして、セレスフィアはこのチャーリーをセオドアだろうと判断した。
セレスフィアは視線を向けて来たセリアに微笑みを返すと、セオドアに話しかけた。
「チャーリー様、お会いするのは昨年の狩猟大会の時以来かと存じます。
ご健勝にされていらしたでしょうか。」
セオドアがホルトノムル侯爵領にやってくるのは狩猟大会の時。
セレスフィアもその情報は抑えている。
だから、確認するためと、そうであれば貴方の正体に気が付きましたよ、と伝える意味で、そうカマをかけてみた。
「おかげさまで、病気にだけはかからずにいます。」
そして、セオドアもセレスフィアの本意を理解した上で答えを返した。
セオドアはこのやり取りで、内心、セレスフィアはオティーリエの言う通り聡い人だと感心していた。
「それはよろしゅうございましたわ。
ところで、もうそろそろ開始のお時間ですし、東屋に向かいませんこと?」
「そうですね。」
簡単に答えると、セオドアは踵を返して先に東屋に向かって歩き出した。
そんなセオドアに、セリアはいったんは声をかけようとしたけれど、セレスフィアが声をかける様子がなかったので、止めておいた。
代わりに。
「それでは、私達も東屋に向かいましょう。」
セレスフィアにそう声をかけると。
「ええ。
そういたしましょう。」
セレスフィアも応じて、二人は東屋に向かって歩き始めた。
その後ろに、ラシェルとノシェが付いて行く。
セレスフィアは歩きながら、ちらりと後ろを振り返ってノシェを見た。
ノシェはその視線に、分かっていると言わんばかりに頷き返した。
この時、セレスフィアは、セオドアに気付いたなんてノシェも成長したなという感想を持ったのだけれど、実はノシェはあと一歩、理解が及んでいなかった。
ノシェの方はと言うと、チャーリーは偽者だけど何か事情があって、あの人物をチャーリーとして扱うようにという指示だという意味で受け取っていた。
おかげで、この後の対応の仕方自体は間違わなかったけれど、この解釈の違いは帰宅の際、車の中で判明した。
「ノシェ、よくチャーリー様がセオドア殿下だと気づきましたね。」
「え?
セオドア殿下?
・・・って、えええ?!
あの偽チャーリー、王子様だったの?!」
「え?」
というやりとりがあったのだけれど、これはまた、別のお話。
王子様だと気が付くセレスフィア。
さらに確認しつつ、気が付いたことを知らせるあたり、さすがの対応です。
王子様としても、王太子と気付かれるのは想定外でした。




