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14.お出迎え4

オティーリエがセリアの次に出迎えたのは、今回の招待客の中では最年少の少年、マクシミリアン・ライリー・オブ・オナー、12歳。

名前で分かる通り、第一騎士団長ウィリアムの息子で、三男だ。

父親と同じ赤銅色の髪を持ち、父親を真似しているのかオールバックにしている。

瞳の色も父親と同じ鳶色。


服装は暗紅色のYシャツに黒のネクタイをつけ、金色のボタンをアクセントにした黒いベスト、ズボンもベルトのバックルを金色にしてアクセントとした黒いスラックス。

そして、その上に金の縁飾りで装飾された暗いグレーのロングコートを羽織っている。

オティーリエの服装を意識してか装飾はないものの、最上位の騎士が着るものとして、様式美と機能美を兼ね備えた服装だ。


オナー家はホルトノムル侯爵領を建領時から軍事面で支えてきた騎士の名門。

排出した人材も多く、ウィリアムの祖父は第一騎士団長を引退後、ホルトノムル退役軍人会会長に就任したフレデリック・アレクサンデル・オブ・オナーだ。

ウィリアムの父親も現近衛騎士団長を務めるライリー・リアム・オブ・オナーで、他にも一族の者は各騎士団内で要職に就いている。

また、オナー家の傍系の当主がホルトノムル騎士学校校長だったりと、ホルトノムルの軍事活動と言えば、まずオナー家が上がる。


その名門の子息らしく、厳しく鍛えられているのだろう、背は標準なみで体格も細身ながら軍人らしいキビキビとした歩調で、その動きから全身が強靭な筋肉で覆われていることが分かる。

また、躾も行き届いているようで、少し緊張気味ではあるようだけれど、凛とした佇まいをしている。


・・・オティーリエを見るその目に、よく分からない熱のようなものを帯びているような気はするけれど。

そのマクシミリアンはオティーリエの前まで来ると、まだ12歳とは思えない見事なボウ・アンド・スクレープで挨拶をした。


「初めてお目にかかります、オナー家が三男、マクシミリアン・ライリー・オブ・オナーと申します、我が姫君。

 どうぞ、お見知りおき下さい。

 本日はお招きに与り、身に余る光栄に心が震える想いにございます。」


その口上に、ヨハンがわずかに眉をひそめる。

初対面で、相手を我が姫君と言う者はなかなかいないだろう。

それに続く言葉もなかなかに仰々しい。


オティーリエは騎士の家系なので恥ずかしくない態度を取らないと、と気負っているのだろうと解釈して、内心微笑ましく想いながら、そのまま受け取った。


「ご丁寧なご挨拶をいただきまして、ありがとう存じます。

 どうぞお顔をお上げください。」


マクシミリアンは顔を上げると、オティーリエの顔をまじまじと見つめた。

こういうのは失礼にあたるのだけど、まだ幼いので仕方のないところだろう。

ただ、やはりその目には最初に感じた熱を帯びている気がする。

なんだろう?


「オティーリエ・セラスティア・ロートリンデです。

 マクシミリアン、本日はご出席いただきまして、心より感謝いたします。

 公式な場ではありませんので、どうぞお気を楽にして、ごゆっくりおくつろぎ下さい。」


オティーリエがそう声をかけると、マクシミリアンは右手を額にあて、敬礼をした。


「はっ!

 本日はよろしくお願いします!」


オティーリエが侍女に視線を走らせた後、侍女が一歩踏み出そうとしたところで、マクシミリアンが手を下ろして口を開いた。


「あの、オティーリエ様、少しよろしいでしょうか。」


普通、このタイミングでこんな風に声をかけてきたりしない。

オナー家の教育を受けているのなら、それくらいは分かっているだろうから、あえて声をかけて来たのだろう。

オティーリエは侍女を視線で止めてから、マクシミリアンに向き直った。


「はい、大丈夫ですよ。

 なんでしょうか?」

「その、オティーリエ様にお願いがございます!」


マクシミリアンが突然、大声で言った。

先ほどまでの落ち着きはどこへやら。

緊張した様子で、でも顔を照れくさそうに真っ赤にしている。

そして、視線を慌ただしくあちこちに飛ばして口を開けたり閉じたり。


とりあえず、オティーリエはどうしたのだろうと思いながら、続きの言葉を待った。

しばらくそうしていたマクシミリアンが、ようやく覚悟を決めたように決然とした表情になってオティーリエを真っ直ぐに見た。

顔はまだ赤いままだったけれど。


「お姉様とお呼びさせていただいてもよろしいでしょうか!」


一気に言い切って、緊張したままオティーリエの反応を窺う。

オティーリエの方は、何を言われたのか理解出来ず、笑顔のまま固まった。

しかし、そこは筋金入りの本物のお嬢様であるオティーリエ。

表面上は全く様子は変わっていない。

笑みを浮かべたまま、マクシミリアンを見つめている。

そんなオティーリエの後ろでは、ヨハンが何を言ってるんだこいつは、という顔をしている。


『主、気を確かに持て。』


オティーリエの頭の中にアーサーの声が響く。

それで再起動したオティーリエは、先ほどのマクシミリアンの言葉を頭の中で反芻して、ようやく理解した。


『ありがとう、アーサー。』


アーサーに一言、お礼を言ってからマクシミリアンとの話を進める。


「理由をお聞かせいただいてもよろしいでしょうか?」


あくまで冷静に。

オティーリエは笑みを浮かべたまま、肯定も否定もどちらも匂わせないように気を付けて尋ねた。

それでマクシミリアンも少し落ち着いたらしく、ハッとした表情を浮かべた後、照れ笑いを浮かべながら答えた。


「突然の申し出申し訳ございません。

 その、オティーリエ様のことは、祖父と父からよく聞かされているのです。

 僭越ながら、そのおかげでオティーリエ様のことをとても身近に感じています。

 そして、お話を聞く度に、オティーリエ様への憧れを強くしました。

 ですので、オティーリエ様にも私めを身近に感じていただければと思い、こうして申し出た次第でございます。」


オティーリエは最初に感じた目の中の熱はこのためか、と納得しながら答えた。

ついでに、後でライリーとウィリアムからどんな話を聞いているのか聞き出そうと決心した。


「その思慕の念は有り難く頂戴いたします。」


パッとマクシミリアンの顔が輝く。

でも。


「ですけれど、さすがにそのお申し出は受けることは出来ません。」


マクシミリアンががくっと肩を落とした。

その顔は失意の念でいっぱいだ。


「そうお呼びいただくのが嫌だというわけではないのですよ。

 そこは誤解なさらないで下さいね。

 ですけれど、その呼び方は、なにより貴方のためにならないと思うのです。」


オティーリエにそう言われてもショックの抜けきらないマクシミリアンだったけれど、それでも顔を上げてオティーリエに聞き返す。


(わたし)のためにならない、ですか?」

「はい。

 まず、その呼び方をした場合、貴方がロートリンデの血を受けているかもしれないと周囲に誤解を招き、政争に巻き込まれる可能性があります。

 事情が分かっていたとしても、その呼び方を許しているという時点で、他家からすれば恣意的に利用するのに十分な理由となるでしょう。

 また、今後、貴方が成長して騎士となられた時に、周囲から色眼鏡で見られてしまいます。

 どのような地位に就いたとしても、領主一族の寵愛の賜物だ、と。

 本当の貴方をご存じの方はそのようなことはないかもしれませんけれど、そのように見る方がいることも有り得る、ということです。」


オティーリエに言われて、マクシミリアンはハッと目が覚めたように目を丸くした。

それから、一瞬後、引き締まった表情でビシッと敬礼をする。


「ありがとうございます!

 オティーリエ様の仰られる通りでございます。

 私の考えの浅はかさが身に染みました。

 先ほどの申し出は取り消させていただきます。」


一生懸命に言うマクシミリアンに、オティーリエは少し態度を崩して、親し気な笑みを浮かべた。


「先ほども申しました通り、貴方にお慕いいただくのは、大変嬉しく存じます。

 ただ、そのような呼び方をされずとも、親交を温めることは出来ます。

 緊張などなさらず、お気軽にお声かけ下さい。

 言葉にはなさらなくても、心の中で姉のように思っていただければ幸いです。」


そのオティーリエの言葉に、マクシミリアンはいたく感動した様子で上気した顔になった。


「はっ!

 この身に余るお言葉、恐悦至極にございます。」

「そのお言葉遣いですよ、マクシミリアン。

 普段はそうではないでしょう?

 普段通りでいいのです。」


オティーリエの指摘に、マクシミリアンが敬礼をしたまま、小さく笑った。


「分かりました、オティーリエ様。

 不肖、マクシミリアン。

 これからも誠心誠意お仕えさせていただきます。」


オティーリエはそこで、内心、あれ?なんだか思ってた反応と違う?と思いながらも、顔には出さずに会話を続けた。


「マクシミリアン。

 これからの貴方に期待します。

 誰からも誇れる騎士になって下さい。」

「はい!」


なんだか騎士叙勲のような?とオティーリエが心の中で首を傾げていると、これでこの会話は一区切り、と空気を読んだ侍女がオティーリエの横に進み出て来た。

マクシミリアンに一礼する。


「それでは、会場へご案内いたします。」


そう言うと、庭園の中に向かう。


「よろしくお願いします。」


マクシミリアンも敬礼をやめて侍女にそう答えると、後をついて歩き出した。

もちろん、オティーリエの横を通る時に頭を下げて一礼するのを忘れずに。


そのマクシミリアンを見送ったオティーリエは、最後まで心の中で首を傾げていた。


そして、ふと視線を感じてその先を追うと、視線の主はヨハン。

オティーリエの付き人としてのお仕事中なので背筋をピッと伸ばし、お澄まし顔で立っているものの、その目は明らかに笑っている。

あれは絶対に後でからかうつもりだ。

うん、でも、からかわれても仕方のない会話だったとオティーリエ自身も思うのだった。

次に出迎えたのはマクシミリアン。

第一騎士団長の息子です。

なにやらオティーリエに夢を見ているようで、色々とすったもんだありました。

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