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13.お出迎え3

侍従について歩くセリアの目に、庭園の入り口らしき場所が見えて来た。

そして、その入口に立つ人物も。


艶やかな翡翠色の髪をしたその人物。

あのような見事な髪を持つ人物は、領都広しと言えど、一人しかいないはず。


セラスフィアが言外に匂わせていた通り、ティリエはお城の関係者だったのだろう。

久しぶりにティリエを見て嬉しくなったセリアは、つい、思わず駆け出そうと一歩踏み出した。


しかし、その時。

前を歩いていた侍従が、さっと振り向いてセリアの前に立つと、深々と礼をした。

前を塞がれて、セリアの足も止まる。

侍従は礼をしたまま、口を開いた。


「セリア・オスター様。

 ご事情は存じ上げております。

 ですが、あそこにいらっしゃいます御方は、我らの主にございます。

 そのおつもりで、ご対応下さい。」


そう言うと、侍従は再びセリアに背を向けて、先導するように歩き出した。


「え、それって。」


侍従の言っていることが頭の中に上手く入ってこない。

思わず足を止め、混乱して言葉を失ったセリアに、ラシェルが後ろから近づいて来て、そっと耳打ちした。


「セリア。

 あそこにいらっしゃるのがオティーリエ様ということよ。

 どうすればいいかは分かっているわね?」


セリアの足が止まったので、侍従はいったん足を止めてセリアの様子を伺いながら動き出すのを待つ。


「え、だって、あれ、ティリエだよ?」

「そう。

 にわかには信じられないけど、そうだとすると、ティリエちゃんこそ、オティーリエ様だったということね。

 ほら、深呼吸。

 少し落ち着きなさい。」


言われて、セリアは深呼吸をした。

スー、ハー、スー、ハー。


そして、視線を庭園の入り口に立つ人物に向ける。

まだ遠くて髪の色くらいしか分からないけれど、あれは間違いなくティリエだ。


でも、オティーリエ様。


こんな状況、想像もしていなかったし、上手く頭に入ってこない。

だけど、ここでずっと立ち止まっているわけにはいかない。


セリアは無理矢理それを飲み込むと、もう一度大きく深呼吸して、パンと両手で頬を張った。

力を入れすぎてしまって、ちょっとひりひりする。

その様子を見ていたラシェルが、仕方ないという溜息をついて、赤くなってしまったセリアの頬を冷やそうと、ふーふーと息を吹きかけた。


「ありがとう、お姉様。」


そうして気を入れ直したセリア。

ラシェルもそんなセリアを見て、小さく笑みを浮かべて頷く。

セリアもそれに応えて一つ頷くと、前を向いて歩き出した。


侍従が、再び歩き出す。

そうして、セリアは徐々に近づいて来るティリエをじっと見つめながら歩いた。


どんな時でも明るく、無邪気な笑顔を浮かべていたティリエ。

一緒に泣いたり笑ったり。

考えてみれば、励ましてもらってばかりだった気がする。


でも、近づいて来ると分かる。

庭園の入り口に立っている人は、明らかにティリエとは雰囲気が違う。


すっと伸びた背筋。

昂然と張った胸。

笑みを浮かべているのに、凛としたその眼差し。

そして、なによりもその気品と存在感。


全身で、このホルトノムル侯爵領において最も高貴な一族に属していることを主張している。


ティリエのはずなのに、ティリエじゃない。

近づいて来るにつれて、セリアは徐々にその人を直視できなくなってしまった。

そして、その人の前に立つ頃には視界は霞んでしまっていて。

ただ、ぼう、と目の前の人の持つ雰囲気に気圧されて、頭を下げていた。


「セリア、ご挨拶。」


後ろで頭を下げているラシェルが、小さな声でセリアに言った。

セリアは、それまでティリエのことで頭の中がいっぱいだったけれど、その一言でハッと思い出した。


今、自分はこの領地で最も位の高い女性の前に立っていることを。

慌てて頭を下げたまま、スカートを摘まんで持ち上げて、カーテシーをする。

少しぎこちないカーテシー。

でも、まだ落ち着きを取り戻していないセリアに、今出来る精一杯。


「お初にお目にかかります。

 オスター家の次女、セリア・オスターと申します。

 本じちゅ・・・本日は、お招きに与り、きっ・・・恐悦至極にございます。

 どうぞ、よろしくお願いいたします。」


噛んだ。

けれど、言い直して一気に挨拶の言葉を言ってしまう。

噛んだとはいえ、とりあえず挨拶の言葉を言い終えたことに一安心したセリアは、それで少し気持ちも落ち着いた。


「ご丁寧なご挨拶をいただきまして、ありがとう存じます。

 どうぞお顔をお上げください。」


そこに、ティリエの声が降って来た。

そのことに反応してパッと顔を上げたセリアは、今度こそ、オティーリエの顔を真っ直ぐに見た。

それで、ようやく目の前の人の本当の顔に気が付いた。


その、凛とした眼差しの奥にある優しさ。

見ている人を安心させ、温かい気持ちにするその笑み。

この人は、間違いなくティリエだ。

雰囲気も、態度も、表情も、なにもかも違うけれど、でも、ティリエだ。


「オティーリエ・セラスティア・ロートリンデです。

 セリア、本日はご出席いただきまして、心より感謝いたします。

 公式な場ではありませんので、どうぞお気を楽にして、ごゆっくりおくつろぎ下さい。

 よろしければ、お気軽にお話しかけいただけますと幸いです。」


オティーリエの表情はお客様を出迎えるためのご挨拶用の笑顔だけれど、その瞳には、セリアに大丈夫だよ、と語りかけるような親し気な色が浮かんでいる。

そう気づいてからは、セリアの気持ちはすうっと糸を引くように落ち着いた。

オティーリエから感じていた、どこか威圧的な雰囲気も気にならなくなる。


「過分なお言葉を頂戴いたしまして、光栄の極みに存じます。

 ぜひとも、ご歓談させて下さい。」


セリアもお城に上がるために懸命に礼儀作法を学んできたのだ。

落ち着いていれば、このくらいの対応は出来る。

その言葉遣いに満足したのか、後ろでラシェルが満足そうな笑みを浮かべた。


オティーリエの視線を感じて、慌てて表情を取り繕っていたけれど。

オティーリエはラシェルを見た後、脇に控えている侍女に視線を送った。

その侍女がオティーリエの横に出て来て、セリアに一礼した。


「それでは、会場へご案内いたします。」


そう言うと、庭園の中に向かう。

セリアは、もう一度、オティーリエと視線を交わした後、その侍女の後に続いて、庭園に入って行った。

初めて侯爵令嬢しているオティーリエと対面するセリアでした。

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