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11.初めての登城

セリアは家からお城までは近いので徒歩で行こうと思っていたのだけれど、家族に車で行きなさいとアドバイスを受けたので、車でやって来た。

そして、そのアドバイスをくれた家族にしみじみと感謝した。


なにせ、城門に入ってからが長いのだ。

お城の中は広いだろうとは思っていたけれど、これほど広いとは。


今度から、お城に行く時は徒歩は絶対にやめておこうと心に誓ったのだった。

そんなことを考えながら窓の外を眺めていたセリアの目の前に、広げた手の平がにゅっと伸びて来た。


「セリア、大丈夫?

 緊張してない?」


セリアに声をかけてきたのは隣に座っているラシェル。

そのラシェルは、オスター家の侍女の恰好をしている。

オティーリエが初めて姿を見せる場だということで、セリアにどうしても付いて行くと言い張って、付き人として付いて来たのだった。


姉に付き人をやらせるなんてセリアとしては少々いたたまれない状況なのだけれど、家族は誰も止めなかったし、セリアもラシェルの勢いに押し切られてしまった。

とはいえ、社交経験のある姉が付いて来てくれるのはセリアとしても有り難くはあったので、そう思うことで自分を納得させている。


ちなみにセリアは学校の制服。

招待状に入っていたオティーリエの恰好が制服のような雰囲気だったので、下手な服を着るよりこれがいいだろうと思って、この恰好で来た。


「うん、大丈夫。

 そりゃ、緊張はしてるけど、外の景色を楽しめるていどにはリラックスしてるよ。」

「それなら大丈夫か。

 どう?

 素敵でしょ?

 お城の中。」


自分も窓の外に視線を向けながらラシェルがセリアに言った。

ラシェルも心なしか楽しそうだ。


「うん!

 まるで夢の中に迷い込んだみたい。

 道は綺麗だし、道沿いに木や花が咲き誇ってるし。

 これ見ただけでも、来てよかった。」

「そう。

 セリア、よかったわね。

 でも、本番はこの後よ。」


ラシェルが視線をセリアに向けると、セリアもラシェルを見返した。

心配させまいと、セリアの顔には笑みが浮かんでいる。


「うん。

 オスター家の名に恥じないようにしっかり気を張って振る舞うわ。」

「ええ。

 でも、招待状にも書いてあったでしょう?

 ちょっとくらい失敗しても大丈夫なのだから、まずは楽しむようにしなさい。」


ラシェルが優しい笑みでセリアを見つめる。

セリアはそれに笑顔で頷いて返した。


「分かった。

 ありがとう、お姉様。」


 ◇ ◇ ◇


オスター家の車が駐車場に着くと、すすっとお城のお仕着せを着た侍従が車の傍にやってきた。

運転手に目線で確認した後、車の扉を開くと、扉の脇に控えた。


ラシェルが車を降りようとすると、その侍従がエスコートするように手を伸ばして来たので、ラシェルはその手に自分の手を乗せて、車を降りた。

それから、侍従の前に立つと招待状を見せる。


「ありがとうございます。

 こちら、招待状でございます。」

「ご丁寧にありがとうございます。

 セリア・オスター様でございますね。」


侍従が招待状をラシェルに返すと、ラシェルは招待状を手に持ったまま、侍従の向かい側に身を引いて礼の姿勢を取った。

セリアが車を出てくる。

ラシェルの時と同じように、侍従がエスコートするように手を伸ばして来たので、セリアもその手に自分の手を乗せて、車を降りた。


セリアが完全に車から降りると、侍従は慇懃に礼をした。


「セリア・オスター様。

 オティーリエ様のガーデンパーティーへようこそお越し下さいました。

 主より、丁寧にご案内するよう申しつかっております。

 会場までご案内いたしますので、どうぞ私の後を付いて来て下さい。」


そこまで言うと、侍従は頭を上げ、セリアに背中を向けて歩き出した。

しかし、そこに横から声がかかった。


「おや、セリア君じゃないか。

 こんにちは。

 君も招待されていたんだね。」


声をかけてきたのは、アルチュール・ユーゴ・デュフィ。

学校でセリアと同じクラスの男子だ。

明るい蜂蜜色の髪は真ん中で分けてナチュラルショートカットにしている。

瞳の色は綺麗な空色。

すらっとして背も高く容姿も整っていて、その涼し気な目元が印象的だ。


領都の不動産業を一手に担うデュフィ家という資産家の跡取り息子だが、それを鼻にかけるようなところもなく人当たりもいいので、学校内での女子の人気も高い。


「あら、アルチュール君、こんにちは。

 あなたも呼ばれてたのね。

 って、当然と言えば当然か。

 デュフィ家の跡取り息子だもんね。」


笑顔で近づいて来るアルチュールに、セリアも応えて挨拶を返す。

このアルチュール、学校でも何かとセリアを構ってくるので、セリアは内心、ちょっと苦手だったりする。

とはいえ、理由もなく無下にも出来ないので、最低限の相手はしているけれど。


「それにしても、制服で来るなんて思い切ったね。

 大丈夫?」


ちょっと心配そうにアルチュールが言う。

アルチュールはタキシード、とまでは言わないまでも、上下ともグレーのスーツでビシッと決めている。

よく見ると、髪の毛も整髪剤で固めているようだ。


「オティーリエ様の服に合わせた結果だから、大丈夫よ。

 それより、(わたし)に話しかけてなんかいないで、早く行った方がいいんじゃない?

 お城の侍従さんがお待ちよ。」


セリアがちょっとアルチュールが来た方に視線を移した。

その視線の先には、アルチュールを案内しようとしていただろう侍従と、付き人が立っている。


「ああ、そうだね。

 じゃあ、お先に失礼するよ。

 また後で。」


アルチュールはそう言って爽やかな笑みを浮かべると、踵を返して侍従と付き人の方へと歩いて行った。

合流すると、そのまま駐車場を出て行く。

それを見送ると、セリアも侍従とラシェルの方に振り返った。


「では、ご案内よろしくお願いします。」


ペコリと頭を下げる。

すると、ラシェルが慌てて近寄って来て、耳打ちした。


「セリア、頭を下げてはダメ。

 習わなかった?」

「あ。

 ごめん、そうだった。

 気を付けるね。」


ちょっと申し訳なさそうな顔をしたセリアに、ラシェルが仕方がないというように頷く。


「それでは、ご案内いたします。

 アルチュール様がつい先ほど行かれましたので、主がお出迎えのご挨拶をする時間を作りたいと思います。

 少々ゆったりとした歩調で歩きますので、申し訳ございませんが、ご了承下さい。」

「分かりました。

 お城の道をゆっくり散策出来るということですもの。

 歓迎いたしますわ。」

「有り難きお言葉にございます。

 それでは、参りましょう。」


侍従が歩き出すと、それについてセリアとラシェルも歩き出した。

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