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10.お出迎え1

オティーリエがこの時間にここにやって来たのは、もちろん、参加者を迎えるため。

参加者は駐車場もしくはお城の入り口から、侍従がここまで案内してくることになっている。

1時間も前に来たのはどちらかというと念のためだったのだけれど、早めに来ておいて正解だった。


13時10分には最初の招待者がやってきたから。


最初にやってきたのは、セレスフィアとノシェ。

2人は家が遠いので渋滞に巻き込まれた時の用心のためと、なにより領内一の実業家であるオストライア家の令嬢として、領民の前に初めて姿を見せるオティーリエに一番最初に挨拶するために早めに家を出て来たのだ。


駐車場から庭園までは、お城の侍従が案内してくる。

庭園の入り口に立って、駐車場から庭園まで続く道をじっと見ていたオティーリエは、侍従に先導されて歩いてくるセレスフィアとノシェが見えた瞬間、その、以前と変わりない姿に安心し、同時に久しぶりに見る親友の姿に胸が躍った。

もちろん、表面上は態度も表情も崩さず、来客を迎えるための落ち着きのある笑顔を浮かべていたけれど。


セレスフィアも、庭園の入り口と思わしき場所に立っている人に気が付いた。

ティリエ、いや、オティーリエだ。

セレスフィアはティリエがオティーリエだとほぼ確信していたので、そのことについては驚きはなく、やはり、という思いだった。


だけど。


この、オティーリエという人は。

その溢れんばかりの気品と存在感。

間違いなく、貴族、それも現代ではほとんどいなくなってしまった本物の上級貴族だ。


その姿に、思わず感嘆の溜息が出そうになる。

この人が、あの、無邪気で愛らしいティリエと同一人物だとは、実際に見ても信じられない。


セレスフィアは、これから侯爵令嬢としてのオティーリエと対面するのだ、と、気を引き締めた。


だけど、それはそれとして。

近づくにつれて、オティーリエの全身が見えて来る。

ティリエが子供っぽかったこともあるけれど、それを差し引いても、3か月前と比べて急に成長したように思う。

背がかなり伸びて、胸も少し膨らんできているようだ。


だから。

セレスフィアはこの3か月、本当の妹のように愛していたティリエの成長をその目に出来なかったことは、まさに断腸の思いだった。

このように、セレスフィアも内心は色々な想いが交錯しながらも、表面的には穏やかな笑みを浮かべて、侍従の後を付いて歩いていた。


ノシェも、遠くに庭園の入り口が見え、誰かがそこに立っているのが見えた時、一目で分かった。

セレスフィアからそれとなく匂わせる発言を聞いたりもしていたけれど、それがなくても分かっただろう。

なんだか大っきくなってるし、雰囲気も高貴なお嬢様だし、全体的にティリエらしさはない。


でも、見間違えたりしない。

あれはティリエだ。

あの艶やかな翡翠色の髪に、光の当たり方によっては黄金色に見える瞳。

なにより、その、他に類を見ない整った容貌。

あの顔を見間違えるはずがない。


「ねぇ、フィア。

 あの子って。」


庭園の前に立っている人物を見た瞬間、ノシェはセレスフィアとの距離を詰め、その耳元に口を寄せて小声で話しかけた。

セレスフィアは一瞬だけ、ちらりと視線をノシェに向けて、また前を向いた。


「ええ。

 貴女が思っていることは正しいわ。

 でも、今はあの方はオティーリエ様よ。

 対応を間違えないようにね。」

「分かった、気を付けるよ。」


それでノシェも元のセレスフィアの一歩斜め後ろの位置に戻った。

そのまま、2人は侍従について庭園へと歩いて行く。


オティーリエとセレスフィアとノシェは、距離が近くなると、視線を交わし合った。

表情は変わらないものの、お互いの瞳の中に理解の色を見つける。

頷いたり、声をかけあったりはしないけれど、秘密を共有していることは3人の共通認識になった。

それから、セレスフィアとノシェは、オティーリエの背後にいるヨハンにも視線を送った。

ヨハンもその視線を受けて、ほんのわずかに頷く。


セレスフィアはオティーリエの前にやってくると、スカートを軽く摘まんで持ち上げ、背筋を伸ばしたまま右足を斜め後ろの内側に引いて、左足を軽く曲げて挨拶をした。

優雅で、お手本のようなカーテシー。


セレスフィアもホルトノムル侯爵領一の実業家の娘として、貴族同然の暮らしをして、その教育を受けて来た。

だから、その所作において、侯爵令嬢を前にしても一歩も引かない。

ノシェの方は、セレスフィアの一歩後ろで、両腕をお腹の前で交差させて、深く頭を下げた。

こちらも、背筋はピンと伸びたまま姿勢はまったく崩れておらず、オストライア家の教育の質の高さが窺える。


「お初にお目にかかります。

 オストライア家の長女、セレスフィア・ノレット・オストライアと申します。

 本日はお招きいただきまして、また、わざわざこうしてお出迎えいただきまして、誠にありがとう存じます。

 こちらは付き人のノシェと申します。」


普通は付き人の紹介はしないけれど、今回はあえて紹介した。


「ご丁寧なご挨拶をいただきまして、ありがとう存じます。

 どうぞお顔をお上げください。」


オティーリエが言うと、2人は顔を上げた。

その2人にまっすぐ視線を向けて、オティーリエが挨拶の言葉を続ける。


「オティーリエ・セラスティア・ロートリンデです。

 セレスフィアとノシェ、本日はご出席いただきまして、心より感謝いたします。

 公式な場ではありませんので、どうぞお気を楽にして、ごゆっくりおくつろぎ下さい。」

「お心遣いありがとう存じます。

 本日は存分に楽しませていただこうと思います。」


そこまで話した所で、オティーリエは庭園の入り口の脇に控えている侍女に視線を送った。

その侍女がオティーリエの横に出て来て、2人に一礼した。


「それでは、会場へご案内いたします。」


そう言うと、庭園の中に向かう。

セレスフィアとノシェは、もう一度、オティーリエと視線を交わした後、その侍女の後に続いて、庭園に入って行った。

フィアとノシェが初めて侯爵令嬢として振る舞うオティーリエと会いました。

その胸には、様々な想いが去来します。

少々、不純なものも交じっている様子ですが。

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