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8.衣装を探して

セレスフィアはこの日、ノシェを伴って自家用車で領都の南地区に向かっていた。

領主様のご令嬢がなかなかの難題をふっかけてきたためだ。

正直なところ、今まで参加したパーティの中でも最上級の難題だろう。


普通、パーティにはドレスで参加する。

相手に合わせたり、立場を考えたりと色々と考えることはあるものの、基本的にはドレス一択だ。


でも、今回は違う。


何と言っても、主催者がドレスではない。

庶民的なブラウスにスカート、上にブレザーを羽織るだけなのだから。

そのブレザーにしても家紋など入れず、飾り気のないスタンダードな物のようだ。

もちろん、実態は一点物の高級品だろうけれど。


おかげで、セレスフィアの今回の服選びは難航していた。

街に出るような恰好で、なおかつホルトノムル侯爵領で頂点に立つ実業家であるオストライア家に相応しい服でなければならない。


これがティリエからのお誘いでなければ、匙を投げて欠席の返事をしたことだろう。

そんなことを考えていたセレスフィアは、思わず、ちら、とお向かいの右側に座っているノシェを見た。


「ん?

 どしたん?」


その視線に気づいたノシェが、セレスフィアに尋ねる。


「いえ、貴女はその恰好でいいのだから、楽で羨ましいと思わず考えてしまったのよ。」

「ははは。

 まあ、良い所に生まれたその生まれを呪うんだね。」


ノシェがセレスフィアの答えに、からからと笑って返す。

このように嫌味と取られてもおかしくない発言も、この友人はこうして笑い飛ばしてくれる。

得難い友人を得たものだと、セレスフィアはいつも思っていた。

ノシェは今回、セレスフィアの付き人として、領主様のご令嬢のガーデンパーティーに参加する。

付き人という立場なので、当然、参加する時は今着ているオストライア家のお仕着せだ。


「貴女はどういう服がいいと思う?」


とりあえず参考にしようとセレスフィアがノシェに尋ねてみる。

いちおう、ノシェもこう見えて、セレスフィアの付き人として上流階級のマナーはしっかり学んでいる。


「もうある程度、決めてるんでしょ?

 なら、後は実際に着てみて、似合うか見るだけじゃないの?」

「その通りなのだけれど。

 でも、本当にそれでいいか、まだ確信が持てなくて。」


普段、セリアやティリエの前でさえもある程度までしかお嬢様言葉を崩さないセレスフィアも、ノシェと二人きりの時はそこそこ崩した言葉で話す。

そんな言葉遣いをしても上品さが失われないのはさすがだな、とノシェは常々思っていた。


「取り越し苦労だよ。

 フィアなら、どんなの着てもオストライア家ご自慢のご令嬢に見えるって。」

「本当にそうだといいのだけど。」

「っと、着いたよ。

 まあ、ゆっくり見てみなよ。」


目的地に着いて、店の前に車が止まる。

2人がやってきたのは、ロザリーというお店。

この領都でも最高級の仕立て屋だ。


停車すると、まず運転手が降りて車室の扉を開ける。

ノシェが先に車室を出て、外で礼をしながら待機する。

セレスフィアが続けて車を降りて、ノシェの前をセレスフィアが通過した時点でノシェは頭を上げてセレスフィアに先行して、お店の扉を開けた。


「セレスフィア様、ようこそいらっしゃいました。

 どうぞ、こちらへ。」


丁寧な物腰の店員がセレスフィアを迎え入れて、商談席、いや、個室へ案内する。

このお店は上流階級の旦那、奥方、ご令息、ご令嬢を相手にするお店で、既製品も一部扱っているが、基本的にはオーダーメイドのみ。

客も店内を見てディスプレイされた服を見るのではなくて、来客用のソファにテーブルで、店員が1人、時には複数人付き、その店員が提示するカタログを見て商品を選ぶ。


そんなお店でも、セレスフィアはロビーにある商談席ではなくて、個室に通された。

そして、セレスフィアの応対のために部屋で待っていたのは、当然ながら店主のロザリー。

オストライア家を相手に、店員に応対などさせられない。


「セレスフィア様、ようこそ、我がロザリーへ。

 どうぞ、お掛け下さい。」

「ありがとう存じます、マダム。」


セレスフィアが示されたソファに腰を下ろす。

ノシェは当然、その後ろに控えるように立った。


「本日はどのようなご用向きでしょうか?」


ロザリーがセレスフィアの向かいに腰掛けながら問いかける。


「マダムならご存じでしょう?

 ホルトノムル侯爵令嬢が開催されるガーデンパーティーに参加するための服装について、アドバイスをいただこうと参りました。」


もちろん、ロザリーは分かった上で質問している。

これはお決まりの口上のようなもの。

だからセレスフィアの言葉に、ロザリーはにこやかな笑みで答えた。


「今までに行われたことのない様式、そしてドレスコードですもの。

 場を、そしてなにより参加される紳士淑女を彩るファッションの専門家として、腕が鳴りますわ。」


言うと、ロザリーは後ろに控えていた店員から大き目のスケッチブックと鉛筆を受け取った。

さらさらとデザイン画を描いて、それをテーブルに置いてセレスフィアに見せる。


「セレスフィア様を目の前にして、ピンと来ました。

 セレスフィア様の新たな魅力を発掘し、そしてまたその場に馴染むファッションだと思います。

 これは、我がロザリーがご提案する自信作です。」


提示されたデザインに、セレスフィアは軽く目を見張った。

それは、セレスフィアには全く馴染みのない服装だった。


まず目を引くのはそのトップス。

男物の白い長袖シャツ。

袖にワンポイントがあって、普通に袖ボタンを留めるのではなく、内側同士を合わせて襟のように立てて留める。

それから、前のボタンも上の3つくらいを外して少し胸元を開けていた。


ボトムは飾り気のないストレートな黒いロングスカート。

シャツの裾はスカートに入れずに外に出す。


そして、その上に、飾り気のない黒いジャケットを羽織る。

セレスフィアはそのスケッチブックを手に取りながら、困惑した表情でノシェを見た。

すると、なんだかノシェが食い入るようにそのスケッチ画を見ている。


「いちおうお聞きしますが、ノシェ、どう思いますか?」

「素晴らしいと思います!

 この黒い上下にお嬢様の銀の髪とブルーグレーの瞳は素晴らしく映えることでしょう。

 そして、男性物をさらりと取り入れた中性的な装いが、逆にお嬢様の美しさをさらに引き立てることと思います!」

「ノシェ、落ち着きなさい。」

「あ、は、はい。

 失礼いたしました。」


大興奮のノシェに、セレスフィアが落ち着くように促す。

しかし、ノシェの興奮した様子にロザリーは得意満面になった。


「そうでしょう。

 お付きの方もいいセンスをお持ちですね。

 セレスフィア様、いかがでしょうか?」


セレスフィアはちらっとノシェを見て、それからロザリーに向き直った。


「いえ、このように冒険した服装はいささか身に余ると思います。

 もう少し落ち着いた、一般的な物をご提案いただけないでしょうか。」

「自信作だったのですが。

 セレスフィア様にお気に召されなかったのは残念です。

 それでは、もう少しスタンダードなラインをご提案させていただきます。」


結局、侯爵令嬢が、どこか学校の制服を意識したような服装なので、セレスフィアもそれに合わせて上級生のイメージにすることに決めた。


上は襟付きの白いブラウス。

そこに、ロザリーとノシェの意見を取り入れて、飾りのない黒のジャケットを羽織り、下は黒い膝下の長さのスカートにした。


装飾品も最低限で、ブレスレットのみに留める予定。

華やかさはないものの、黒の中に白がアクセントとして効いていて、さらにセレスフィアの銀色の髪も映える。

また、奇をてらわない落ち着いた雰囲気で、大人っぽさも演出されている。

このデザインに決まるまでの所要時間、実に3時間。

結局、セレスフィアとノシェは午後いっぱい、ロザリーで過ごしたのだった。

普通じゃないパーティーというのは、参加する側は困惑するものです。

令嬢の気を遣わずにご参加下さい、という気遣いが逆に仇に。

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