4.深夜の緊急事態
ある日の深夜。
オティーリエは脳内に響き渡るアーサーの大声に叩き起こされた。
『主!
中央広場で魔力探知を行っている者がいる。』
中央広場、正確にはアーサーのメンテナンスルームの上にある魔力は、全てアーサーが感知出来る。
「!」
寝ているところに突然だったので、オティーリエは両手で頭を押さえ、声にならない悲鳴を上げながら跳ね起きた。
「お嬢様、どうかされましたか?」
オティーリエの様子に気付いた不寝番の侍女が、ベッドにかけられた天幕の外からオティーリエに声をかける。
オティーリエには毎晩、不寝番の侍女がベッドの横で待機している。
侍女に声をかけられて意識が現実に戻って来たオティーリエは、アーサーの報告を思い出してぶんぶんと頭を振ると、侍女がいる側のベッドの端に寄って座ると、天幕を開けた。
「アルテ。
アーサーから緊急事態の報告がありました。
すぐにヨハンとマージナリィに中央広場に向かうように連絡を入れて下さい。」
言われて、アルテは座っていた椅子からさっと立ち上がって、読んでいた本をその椅子に置いた。
アルテはオティーリエの部屋付きとして鍛えられた侍女。
どんな時でも、主の前で立ち居振る舞いを崩したりはしない。
アーサーについては部屋付きの侍女達には説明してあるので、オティーリエのこの言葉だけで緊急事態が発生したことは伝わる。
「分かりました。
お嬢様はどうされるのですか?」
「先行します。」
オティーリエは答えながらベッドを降りると、まずはアーサーの寝床に向かった。
走ったりせず、でも可能な限りの速さで。
それを見たアルテもオティーリエの部屋を出て行く。
オティーリエは寝間着の袖をまくり上げながらアーサーの所に来ると、アーサーに向かって両手を伸ばした。
『アーサー、ベディヴィア』
オティーリエが声をかけると、アーサーとベディヴィアはオティーリエの手首の辺りを覆うようにリストバンドになって巻き付く。
それからオティーリエはクローゼットに入った。
オティーリエが寝間着を脱いだ頃には、寝間着姿の侍女が2人、部屋に入って来た。
オティーリエの部屋付きの侍女達はオティーリエの部屋のすぐ横に部屋を与えられている。
アルテが起こして行ってくれたのだろう。
2人の侍女に手伝ってもらって、オティーリエはさっと着替えた。
もちろん、着るのはドレスなどではなく、街行きの服。
リーエの時に着るお城の家女中のお仕着せではなくて、いざという時に街に出ても目立たないように用意している、ごく普通の既製服だ。
着替えている間にも魔法を使って、髪と瞳の色を変える。
【私を、見る、人々に、私の髪と、瞳の、色を、赤く、見せなさい。】
黒だとリーエの色になるので、今はそれとも違う赤に。
侍女達はオティーリエが着替えながら髪と瞳の色が変わる光景にも動じず、てきぱきとオティーリエの着替えを手伝う。
「ありがとう。」
服を着替え終えたオティーリエは、さらに魔法を使った。
【私の、姿を、見つめる視線、機械、から、隠しなさい。】
姿隠しの魔法。
城から抜け出すのに幼い頃に使っていた魔法。
最初はもっと長かったのだけれど、練習して徐々に短くしていって、今はこの長さに。
機械という言葉は本来、魔法の言葉にはないけれど、オティーリエが編み出した。
【私は、誰も、感知出来ない。】
こちらは気配消し。
視界に映らなくても、勘のいい人は気配を感じて察知するので、気配そのものも消してしまう。
魔法は、対象ややりたいことなどを明確に言葉に出来ないと効果が表れない。
そういった厳密さと同時に、言葉自体の曖昧さもまた適用されるので、こういった曖昧な指定でも魔法として成り立ってしまう。
2人の侍女が姿の見えなくなった主に向かって、それでも頭を下げて待機しているのを見て、オティーリエは一言、声をかけた。
「行ってきます。」
領都の地図は完璧にオティーリエの頭の中に入っている。
自分の部屋から中央広場までの座標も問題なく計算できる。
だから。
転移の魔法で、中央広場の中心まで一瞬で移動した。
ついに白騎士の調査を行おうとする者が現れました。
相手を捕まえるため、令嬢は大急ぎで現場に向かいます。




