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1.お城からの招待状

春ももうすぐ終わりを迎える5月の末頃。

この2ヶ月でオティーリエの身長は一気に5cmも伸びた。

身体つきも徐々に女性らしい丸みを帯びてきて。

まだ大人とは言えないけれど、もう子供とは言えない、そんな、曖昧な年頃。

それに合わせて、というわけでもないのだろうけれど、なかなか来なかった初潮も迎えた。


まるで、それまでは大きくなることを妨げられていたかのような急激な身体の変化に、一番驚いていたのは、おそらく、ほかならぬオティーリエ本人だっただろう。

おかげで成長痛に生理痛と散々だったものの、しかし、3~4歳ほど小さく見られることを気にしていたので、平均並みの体格になれたことをひどく喜んでいたりした。

まあ、童顔のおかげで、それでもまだ少し幼く見られてはいるのだけれど。


オティーリエは生活のリズムも一部変わった。

これまでは最低限しかやってこなかった女主人としての仕事を、本格的に始めることにした。

街に出るために使っていた火木土の午後のうち、火木の午後を、それに割り当てた。

そこでしっかりと家政婦長に女主人としての仕事を習う。


それに加えて、領主の令嬢として、領内の貴族や上流階級の婦女子とのサロンも企画することにした。

しかし、家政婦長を始め、エリオットとも相談の結果、サロンの開催はお披露目が済んでからの方がいいということになったので、サロンの開催はお預け。


ただ、サロンを早く開催出来るように、領内へのオティーリエのお披露目の予定が急遽、組まれることになった。

元々は16歳の誕生日に成人式と一緒に行う予定だったけれど、それを前倒して15歳の誕生日に一緒に行うことに。


オティーリエの誕生日は9月。

本格的なサロンを開催するのはそれ以降になる。


だけど、オティーリエとしては、近いうちにサロンを開催したいと考えていた。

それはもちろん、セレスフィア、ノシェ、セリアをお城に招くため。


なので、まずはサロンではなくて、練習として年齢の近い子達を集めた簡易的なガーデンパーティを開催することをエリオットと家政婦長に相談した。

もちろん、3人を呼びたいからという本当の理由は言わずに。

ヨハンには見抜かれたけれど、そこはヨハンなので大丈夫。


幸い、この相談は2人に受け入れられたので、オティーリエは早速、その準備に取り掛かった。

初めてなので、準備期間は十分に取って2ヶ月。


最初の1か月で招待する人を選んで招待状を送るところから始まり、次に当日の段取りや料理の種類、配置など、色々なことを決めていく。

おかげで、この2ヶ月間、オティーリエは慣れないことも多く、目が回るほどの忙しさだった。

だけれども、それもこれも3人をお城に呼ぶためと頑張ってやりきったのだった。


 ◇ ◇ ◇


4月の初め。

セリアは夕食の後、両親に話があると言われて食堂に残った。

何かあったのか?とばかりに兄のフェルナンと姉のラシェルもまだ食堂にいて、様子を伺っている。


「セリア宛にこれが届いた。

 封は切っていないから、セリア自身が内容を確認してみてくれ。」


食器が全て片付けられると、父親であるトゥーサンがセリアに一通の封筒を差し出した。


優美なデザインが施された封筒で、一目でお貴族様、それも有力なお貴族様からのものだと分かる。

封筒を見たセリアは目を輝かせながらも、このようなご大層な物を受け取るのは初めてなので、ちょっと緊張しながら、一つ頷いて封筒を受け取った。


フェルナンとラシェルが席を立ってセリアの両脇に来ると、セリアの手元を覗き込む。


セリアは、最初、そのセリア・オスター様と宛名が書かれた封筒のデザインに目を奪われて、じっと見つめていた。

しかし、横からラシェルに催促するように二の腕の辺りをつつかれて、ハッとして封筒を裏返した。

すると、押された封蝋印に驚いた。

その封蝋印の印章は、ホルトノムル侯爵家のものだ。


つまり、お城からの招待状。

フェルナンとラシェルもセリアの横で息を飲んだ。

お城からの招待状が、オスター家宛ではなく、セリア個人宛に来たのだから、驚くしかない。


「ホ、ホントに来た・・・。」


セリアはその封蝋印を見つめながら、思わず呟いた。

お城から自分宛に招待状が来たことも驚きだけど、それ以上に、それを言い当てたセレスフィアの方に驚いた。

その呟きを耳にしたラシェルが不思議そうにセリアを見た。


「ホントに来たって、どういうこと?」

「あ、うん、フィアがお城から招待状が来るだろうって言ってたから。

 その通りになったなって。」

「セレスフィアさんは何かご存じだったのね。

 さすがはオストライア家のお嬢様といったところかしら。

 それより、セリア、早く中を見ましょうよ。」

「あ、うん、そうだね。」


ラシェルに急かされて、セリアはちらっと両親の方を見た。

2人共、小さく頷く。


それを見たセリアは、緊張で手が震えるのを自覚しながら、封を開けた。

最初に目に入ったのは、封筒に合わせた綺麗な飾り紙。

開いた瞬間に、封筒との見事な調和に目が奪われる。


そして、封筒の中には2枚の紙が入っていた。

当然、この紙にも封筒と飾り紙に合わせたデザインが施されている。


1枚目は招待状。

そこには、ホルトノムル侯爵令嬢オティーリエ・セラスティア・ロートリンデの名前で、おそらく手書きだろう優美な字が綴られていた。


内容は端的に言えば、6月最初の日曜日にホルトノムル城でガーデンパーティを開催するので、参加して欲しいというものだった。

実際の文章は時候の挨拶に続いてガーデンパーティの開催の連絡と概要と参加の依頼、それから開催日時、場所、ドレスコードなどが書かれている。


どうやら、ホルトノムル侯爵令嬢はまだお披露目前なので、サロンではなく、あくまで非公式なガーデンパーティを開催することにしたらしい。

参加者も、当人の年齢に近い12歳から16歳の令息、令嬢に限り、大人は参加出来ないとなっている。

付き人は年齢制限はないものの、1人だけだそうだ。

ドレスコードもドレスではなくて、普段着。


ホルトノムル侯爵令嬢自身が当日、どんな服を着るかが2枚目の紙に描かれていて、その絵を見る限り、公式な場で着るようなドレスではなく、上品ではあるけれど街を歩いていてもおかしくないような服を着るようだ。


それから、年齢層が低いことから、マナーについても厳しく言わないので、同年代との交友関係を広げる意味で、お気軽にご参加下さい、と書かれていた。

すべて読み終わったセリアは顔をパッと上げると、再び両親を見た。


「何が書かれていたの?」


母親のアネットが楽し気にセリアに尋ねる。

それに答えたのは、セリアではなくてラシェルだった。

ラシェルはかなり興奮した様子で答えた。


「お城でオティーリエ様主催で12歳から16歳限定のガーデンパーティを開くのですって!

 あと1年早ければ、(わたし)も参加できたのに!」

「あら、お披露目もまだなのに?」

「うん、そうみたいだ。

 だから、正式なものではなくて、参加者の年齢も絞って、あくまで交流のためのガーデンパーティにしたんだそうだよ。

 お気軽にご参加下さい、だって。」


悔しがっているラシェルの横で、フェルナンがドライにアネットの質問に答えた。


「そうなのね。

 だから、我が家にはセリアに招待状が届いたわけね。」

「それで、セリアはどうしたい?」


頷いているアネットの横で、トゥーサンがセリアに尋ねた。

お気軽に、と言われても、お城に行くのだから、実際のところは、そうお気軽に行けるものではない。

でも、その質問にセリアは胸元で両手を握りしめて、間を置かずに答えた。


「もちろん行きたい!

 もともと秋の舞踏会からお城に行ける予定だったし、予行練習と思って行ってもいいでしょう?」


フィアからも招待を受けるようにと言われたし。

とは、心の中で思って口には出さなかった。

セリアの返事に、夫婦で相談は済んでいたようで、トゥーサンとアネットは軽く目配せしあった後、セリアを見た。


「準備はしっかりとな。

 お気軽に、と言ってもお城に上がることには変わらないんだから。」

「ありがとう、お父様、お母様!」


セリアが嬉しそうに言うと、家族みんなが笑顔で頷いた。

お城からの招待状がセリアに届きました。

セリアにとっては、憧れの場所に、予定よりも一足早く行けることになりました。

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