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27.子供時代の終わり

ヨハンは旅行から戻った翌日の朝から、領都中を歩き回っていた。

まったくもって、人使いの荒いご主人様である。


最初は、セリア・オスターから。

何を置いても、手紙を届けることが最優先だし、そこから始めるべきだと思ったから。

だから、セリア・オスターの次は、セレスフィア・ノレット・オストライアとノシェ。

この2人は、今日は一緒にいるはずなので、一緒に届けることにする。


ただ、いかんせん、オストライア家は領都の城壁の外、西の工業地帯からさらに外れた所にあるので、移動するだけで大変だ。

しかも、町娘のティリエの使いとして手紙を届けるので、工業地帯からオストライア家までは徒歩で行かなくてはいけない。


と、言うわけで、初日は手紙を届けるのに大半の時間を使ってしまった。

ここから後は、領都中を訪ねて回ってティリエの伝言を伝えていく。


 ◇ ◇ ◇


他の人はともかく、マーガレットだけは土曜日中にティリエが会えなくなることを伝えなければならなかったので、ヨハンは土曜日の午後一にマーガレットを訪ねた。


本当はカインもそうだったが、カインは別の理由があって訪ねる必要がなくなったので、今回の訪問先からは外している。


幸い、マーガレットは家にいて、ティリエの使いだと名乗ると、マーガレットの部屋に通してもらえた。


「ティリエちゃんに何かあったんですか?」


マーガレットの机の椅子を借りて座ったヨハンに、ベッドに腰掛けたマーガレットが尋ねる。

ヨハンは、名前は名乗れない、と最初に断りを入れている。

それでも、ティリエの使いだという人物を、マーガレットは、いや、マーガレットの家族は無条件に信用してくれた。

それは、つまり、ティリエへの信頼ということ。


「はい。

 ティリエはある事件に巻き込まれた際に、ある組織に目を付けられました。

 その組織は質の悪い組織で、手段は選ばず、人殺しも厭わない組織です。

 ですので、ティリエは身を守るためにも、誰かを巻き込まないためにも、街に出ない決心をしました。」

「ティリエちゃん、そんな大変なことになってたんですか。

 ティリエちゃんは大丈夫なんですか?」


ヨハンの説明に、マーガレットが心配そうに尋ねる。

それに、ヨハンは安心させるように頷いた。


「はい。

 詳しくは言えませんが、安全な場所にいます。

 ご心配には及びません。」

「いえ、安全もそうですけど、ティリエちゃん、一人ぼっちになっていませんか?

 誰か一緒にいてくれてますか?」

「はい、それも大丈夫です。

 心を許せる話し相手が傍にいます。」


ヨハンの答えに、マーガレットはほっと胸を撫で下ろした。


「そうなのですね。

 よかった。

 あの、あたしが言うのもなんですけど、ティリエちゃんのこと、よろしくお願いします。」


マーガレットが頭を下げながら言った。

ヨハンはそれに頷きながら答えた。


「はい。

 マーガレットさんが心配しなくてもいいように、十分、注意を払います。

 それから、ティリエからマーガレットさんに伝言があります。」


ヨハンが言うと、マーガレットが一つ頷いた。


「お話を聞く約束だったのに、果たせなくなってごめんなさいとのことでした。

 それから、これからも姉としてお慕いしています、とも。

 私がメッセンジャーとしてお伺いしたのは、この二言をティリエの代わりに、直接、言葉でお伝えするためです。」


ヨハンの言葉に、マーガレットが思わず両手で口元を覆った。

目元が赤くなり、目も潤んで来たが、涙は我慢出来た。


「確かに、受け取りました。

 ティリエちゃんには気にしないで、元気に過ごしてくれるようにお伝え下さい。」

「はい、必ず、お伝えします。」


これで話は終わりとばかりに、ヨハンは立ちあがって一礼した。


「それでは、私はこれで失礼します。

 ティリエと姉妹同然と言える友誼を結んでいただいて、ありがとうございます。」

「どういたしまして。

 貴方にとっても、ティリエちゃんは大切な人なのですね。

 わざわざメッセージを届けて下さって、ありがとうございました。」


マーガレットも立ち上がって頭を下げる。

こうして、ヨハンはマーガレットの家を後にした。


 ◇ ◇ ◇


ヨハンは日曜日を挟んで5日間をかけて、ティリエが紙に書いた全ての人を訪ね歩いた。

ヨハンが辿ったその道は、オティーリエがティリエとして過ごした時間を辿る道だった。


様々な出会いと別れを繰り返して、誰かとの縁を繋いで歩んできたその足跡。


ヨハンの知らない人もいた。

知らない場所もあった。

そして、知らない出来事もあった。

もちろん知っていることも。

ヨハンとティリエの2人で関わったこともある。

それらを、一つ一つ、訪ねて歩く。


ヨハンは、オティーリエの代わりに。

その道行に、別れを告げて歩いたのだった。

従者の辿る道行。

それは、主がティリエとして生きた時間そのもの。


主がその言葉を託したのは、最も近くで主を見てきた従者でした。


これで第4話の終わりです。

もしよろしければ、今後の励みになりますので、評価やご感想など、よろしくお願いします。

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