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26.受け取った者3

セリアがセレスフィアの家にやってきたのは、午後の半ば。

アフタヌーンティーには、少し早い時間。

だけど、セレスフィアはティータイムの準備をさせて、準備を終えると、ノシェを除いた侍女たちには部屋を出てもらった。

セリアの侍女もお客様の付き人用の控室で待機。

侍女達がいなくなると、挨拶もそこそこに、セリアがティリエの手紙をセレスフィアとノシェに見せつけるように突き出しながら、口を開いた。


「これ!

 2人にも届いたでしょう?!」

「あ、う、うん。」


セリアの目が座っている。

そのあまりの剣幕に、ノシェはちょっと気圧された。


「もちろん、届いてるわ。」


セレスフィアはさらりと受け流しながら答えた。

落ち着いた様子でお茶に口を付ける。

セレスフィアもノシェも、セリアを待っている間に最初に受けた衝撃からは回復していた。


「じゃあ、話は簡単ね。

 ティリエを探しに行こう!

 きちんと顔を合わせて話をしないと。」


勢い込むセリアに、セレスフィアは目を伏せて首を振った。

ノシェは最初に気圧されたものの、すぐに立ち直って、今は2人の会話を聞く態勢になっている。


「ダメよ。

 ティリエが一生懸命考えて、それで出した結論よ。

 尊重してあげないと。」

「でも、こんな一方的にお別れ言われて、納得できる?!」


問い詰めるような調子で聞いてくるセリアを、セレスフィアは静かに見返した。


「納得、していると思う?」

「・・・してない、ね。」


その答えと態度で、セリアにもハッキリと分かった。

この場で、この状況に一番怒りを抱いているのはセレスフィアだ。

それもそうだろう。

見守るだけでそんな仕草は見せていなかったものの、セレスフィアは実の妹のようにティリエを溺愛していたのだから。

ティリエは気付いていなかったようだけれど、セリアとノシェはそれに気づいていた。

そして、大切にしているからこそ、ティリエの意向を尊重しようとするのだろう。

そのことを理解したセリアの勢いが弱まった。

セリアが助けを求めるようにノシェを見ると、視線で同じことを尋ねた。

それに、ノシェも頷く。


「もちろん納得なんて出来るわけないじゃん。」

「じゃあ・・・!」


セレスフィアの気持ちは分かった。

理解も出来る。

でも、それでも納得は出来ないセリアは、2人ともこの状況に納得していないのだという事実に縋って、なおも言い募ろうとする。

だけど。


「セリア。

 貴女も本当は分かっているのでしょう?」


セレスフィアが静かに諭すように語り掛けた。

その語り掛けに、セリアは完全に勢いをなくしてしまった。

まだ、何か言いたげにフィアを見つめてはいるけれど。


「ティリエは頭のいい子よ。

 そのティリエが、直接会わずに、みんなの知らない人を使いにして、手紙を送ってきたのよ。

 その手紙すらも焼却するように言伝けて。

 それだけでも、状況が切迫していて、ティリエ自身にもどうすることも出来ないのだろうということが分かるでしょう?」


セレスフィアはそこで一度区切ると、セリアとノシェの様子を見た。

セリアは、それでもまだ諦めきれない様子で、必死に打開策を考えていた。

ノシェも諦めきれてはいないけれど、それでも自分を納得させるために、静かにセレスフィアの言葉を聞いていた。


「それに、ティリエの気持ちも分かるのよ。

 もしも、自分のせいでみんなが危険な目に遭うなんて、考えたくもないわ。」


セリアとノシェの心に、この言葉が浸透するのを待つように、一拍置いて。


「きっと、ティリエもなんとか出来ないか、必死に考えたのだと思うわ。

 ティリエも、みんなのことを大切に思っていたもの。

 それでも、この結論になってしまったのよ。」


本当のところは、セリアもそれは分かっていた。

それでも、こんなに急に、親友と別れないといけないなんて嫌だった。

だから、納得しようとする自分から必死に目を背けて、抵抗した。

セリアは俯いて、膝の上でぎゅっと両手を握った。

その手に手紙を持ったまま。

受け入れ難い現実ごと握りつぶすかのように。

でも、それは、つまり、現実を受け入れたということ。

セリアの目から、大粒の涙が零れ落ちた。


「じゃあ。

 じゃあ、もうこれっきりなの?

 これで・・・終わりなの?」

「ちょっと、セリア、泣かないでよ。

 あたしまで我慢できなくなっちゃうじゃん。」


セリアが泣き始めたのを見て、ノシェまで涙を流し始めた。

セレスフィアは隣に座っているノシェの肩をそっと抱き寄せた。

ノシェが、セレスフィアに縋りつくように泣き始める。


「セリア。」


セレスフィアは、セリアにも優しく声をかけた。

その労わるような呼びかけに、セリアも顔を上げてセレスフィアを見た。

セレスフィアが空いている方の手でセリアを手招きする。

一瞬、逡巡したセリアだったけれど、すぐに立ち上がって、セレスフィアの横に来た。

セレスフィアがセリアの肩も抱き寄せると、セリアも、セレスフィアに縋りついて泣き始めた。

号泣する2人をギュッと抱きしめながら、セレスフィアも2人に縋り付くようにして、その目からはらはらと涙が零れ落ちた。



 ◇ ◇ ◇


セレスフィア、セリア、ノシェの3人は泣き止んだ後、ティリエとの思い出を共有しようとするように思い出話に花を咲かせた。

少し、その目は潤んでいたけれど、それを指摘する人は誰もいない。


ティリエからの手紙は、3人で相談して燃やさないことにした。

ただ、燃やして欲しいと言って来たということは、ティリエは持っているだけでも危険があると考えているのだろう。

だから、絶対に誰の目にも触れない所に隠すということを3人で誓い合った。


そうしてセリアも帰宅しないといけない時間になった。

帰宅しようと車に乗ったセリアが挨拶しようと窓を開けると、セレスフィアが近づいて来て声をかけた。

ノシェもセレスフィアのすぐ横に近づいて来る。


「セリア、聞いて。

 この1、2ヵ月ほどの間に、お城から招待状が届くと思うの。

 気後れなんてしないで、その招待は受けるようにね。」

「え?

 あ、うん、分かった。

 でも、どういうこと?」


セリアがセレスフィアの忠告に、首を傾げながらも頷いた。


「今は理由は言えないの。

 その時になれば分かるわ。」


セレスフィアは微笑を浮かべてセリアの疑問にそう答えると、車から少し離れた。

ノシェも首を傾げながら、セレスフィアと同じように車から離れた。


「じゃあね、セリア。

 また明後日。」


ノシェが、手を振りながら挨拶をする。


「うん、また明後日に。

 フィアも。」

「ええ。

 またね。」


セリアも窓から顔を出して挨拶を返すと、車が走り出した。

セリアは上半身を窓から乗り出すようにしながら、見えなくなるまで2人に向かって大きく手を振った。

セレスフィアとノシェも、車が見えなくなるまで見送る。

車が見えなくなると、2人は屋敷の方へと歩き出した。

ゆっくり時間をかけて歩きながら、セレスフィアが隣を歩くノシェに声をかける。

屋敷に入るまでは、友達としての時間。


「ノシェ。

 貴女には付き人としてお城へ上がれるように、教育を受けていただきますね。

 1か月で教育を終えるように頑張って。

 ですので、これからしばらくは月水金だけでなく、火木土もいらしてちょうだい。」

「い、1か月?!

 うえ、どうしても?」

「どうしても。」


嫌そうな顔をするノシェに、セレスフィアはにこやかに答える。

どうしてもやらせる気だな、と悟ってノシェは抵抗するのを諦めた。

それに、これはきっと、ティリエも絡んでいるだろうから。


「分かった。

 どこまで出来るか自信ないけど頑張るよ。」

「ノシェなら大丈夫よ。

 今でも上流階級のお茶会に出られるところまで身に着いているから、あと一息ですもの。」

「フィアにそう言ってもらえると心強いよ。」


ノシェは苦虫を噛み潰したような顔で頷いた後、ふっと真面目な表情になった。

セレスフィアを見ながら、質問する。


「・・・お城とティリエ。

 何か関係があるんだね?

 それについては教えてもらえないの?」


セレスフィアもノシェを見た。

少し申し訳なさそうな顔をしている。


「ごめんなさいね。

 ティリエが秘密にしていたことだから、ティリエ以外の人が口にしてはいけないことだと思うの。

 それに、ティリエから直接、聞いたわけでもないから。

 当てずっぽうよ。」

「でも、確信はしてるって感じだね。

 うん、無理に聞き出そうなんて思わないから大丈夫だよ。

 ありがとう、フィア。」


ノシェはそう言うと、セレスフィアから視線を外し、軽く顔を上げて頭の後ろで両手を組んだ。

セレスフィアはそんなノシェを見ながら少し気を抜くように小さく息を吐くと、前を向いた。


「ティリエ、1人で泣いていないかしら。」

「どうだろうね。

 今まで、あの子が泣いているところ、見たことないけど。」


セレスフィアとノシェは歩きながら、ティリエを思い浮かべて想いを馳せた。

3人でなんとか手紙の主の意思を受け入れます。

でも、そのうちの一人には思う所があるらしく???

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