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25.受け取った者2

セレスフィアは午前中は家庭教師による授業を受けていた。


オリベール王国は教育機関が整備されていて、6歳から12歳まではどんな家庭の子供でも無料で教育を受けられる。

もっとも、整備されていることと浸透していることはまた話が違っていて、なんらかの事情があったりして学校に行けない、もしくは行かない子供も一定数いる。

この、6歳から12歳までの間に通う学校のことはジュニアスクールと呼ばれていて、国語、算数、社会、道徳などを教えている。

ただし、まだまだ子供のお手伝いも家庭での大切な労働力のため、授業は月曜日~金曜日の午前中のみ。

13歳から16歳の間は、ミドルスクールと呼ばれる学校に進む。

ここからは有料での教育となる。

ミドルスクールでは、ジュニアスクールで学んだ内容について、より深い内容理解と、将来を見据えた専門的な教育を学ぶ。

16歳で成人なので、ミドルスクールを卒業した後は家業を手伝ったり就職したりするのが一般的だ。

だけど、さらに上。

より専門的で深い知識が必要な職業に就くための学校として、17歳から20歳までの間に通う学校として、ハイスクールがある。

ハイスクールまで通う人は本当にほんの一握りだけど、ハイスクールを卒業した人は、その専門分野におけるエキスパートとして、社会に迎えられる。

もちろん、例外もあって。

例えば、貴族や一部の裕福な家庭の場合、学校には通わずに家庭教師を付ける場合もある。

そして、セレスフィアはその例外。

ジュニアスクールには通ったけれど、ジュニアスクールを卒業してからは家庭教師を迎えて、貴族なみの教育を受けている。


授業が終わると、昼食の時間。

今日は両親と弟と一緒に昼食を摂る。

セレスフィアには、友人ながらも付き人として雇っているノシェが給仕を行う。

ここではセレスフィアもノシェも、友人だからと甘えを見せたりせず、雇用者と被雇用者としての態度で接する。


「失礼いたします。」


家族が昼食を終えたところで、タイミングを見計らっていたかのようにモーリーが一礼しながら食堂に入って来た。

モーリーは部屋に入って来ると、まっすぐにセレスフィアの傍に歩いて来た。


「お嬢様、少々、お時間をいただけないでしょうか。」

「ええ、大丈夫よ。」


セレスフィアは答えると、ノシェに椅子を引いてもらいながら立ち上がった。


「では、お父様、お母様、エリク、お先に失礼しますね。」


エリク、というのはセレスフィアの弟の名前。

セレスフィアは家族に声をかけてから、モーリーと一緒に部屋を出た。

部屋を出ると、歩きながらモーリーがセレスフィアに用件を話し始めた。


「お嬢様、歩きながら失礼いたします。

 今、ティリエ様の使いと称されているお客様がお見えになられています。

 お名前を名乗られないので、普段なら門前払いするところなのですが、ティリエ様のお名前を出されたので、お嬢様にお伺いに来ました。」

「そう。

 いいわ、お会いします。

 その方はどちらにいらっしゃるの?」


名前を名乗らないあたり怪しいところだけれど、セレスフィアはさほど悩むことなく会うことに決めた。

ティリエ自身が色々と秘密も多く、その関係者も同様だろうから。


「応接室に案内しようとしたのですが、どうしてもと固辞されて、門でお待ちです。」

「分かったわ。

 ノシェを呼んで来て。」

「かしこまりました。

 急いで呼んで参ります。」


答えると、モーリーは一礼して、はしたなくないギリギリの速足で食堂の方へと戻って行った。

セレスフィアは、ノシェが追いついてこれるように、ゆっくり歩きながら玄関へと向かう。


 ◇ ◇ ◇


セレスフィアが玄関についた時、ちょうどノシェが足早に追いついて来た。

気を利かせたようで、モーリーは付いてこず、ノシェ一人だ。


「ノシェ、モーリーから用件は聞いているかしら?」

「ううん、何も聞いてない。」


セレスフィアの表情と口調から、今は友達として接しているのだと察したノシェは、普段の口調で返事をした。

態度も、侍女としてではなく、友達とのそれになる。


「なら、簡単に説明するわ。

 ティリエの使いだという方が門の所に来ているそうです。

 ティリエの関係だから、ノシェを呼んだの。」

「ティリエの使い?

 ・・・なんか怪しくない?」


眉を顰めるノシェに、セレスフィアも思案顔で首を傾げながら右手を頬にあてた。


「そうなのだけれど、ティリエの使い、という言葉の意味をご存じの方は、関係者以外にいないと思うのよ。

 だから、お会いしてみようと思うの。」

「分かった。

 いざという時はあたしがフィアを守るよ。」


セレスフィアの説明に、ノシェも納得したように頷いた。


「いいえ。

 二人で協力するのですよ、ノシェ。」

「あ、うん、分かった。」


そうして、2人は視線を交わすと、外に出た。


 ◇ ◇ ◇


門の所でセレスフィアとノシェを待っていたのは、二人とも知らない男性だった。

その男性は二人が玄関が出て来ると、深々と頭を下げ、近づいて来た頃を見払って頭を上げた。

不思議な色合いの瞳を持つその男性は、端正な顔立ちですらりと背が高く、きちんと背筋を伸ばしたその姿は、一般的な服を着ているのに上品な雰囲気を纏っていた。


「はじめまして。

 お二人に、ティリエからこれをお預かりしています。」


そう言って、その男性は2人に手紙を差し出した。

それぞれ、セレスフィア・ノレット・オストライア様へ、ノシェ様へ、と書かれている。


「ありがとう存じます。」

「ありがとう。」


セレスフィアとノシェはお互いに顔を見合わせると、それぞれの宛名の書かれた手紙を受け取った。

裏返すと、ティリエより、と書かれている。

2人が確認している間にも、その男性は説明を続けた。


「この手紙は、必ずお一人でいる時にお読み下さい。

 内容は同じですので、お二方でしたら、ご一緒に読まれても大丈夫です。

 他に誰もいない時にお読みいただきますよう、お願い申し上げます。

 また、読み終わった後は、必ず火にくべて燃やして下さい。」


最後の言葉に、ノシェが、え?と言わんばかりに顔を上げて男性の方を見た。

男性は2人の視線が自分に向いたところで、もう一度、頭を下げて。


「それでは、これで失礼いたします。」


と言うと、踵を返した。


「お待ち下さい。

 失礼ですが、一つ教えて下さい。」


セレスフィアが声をかけると、男性は足を止め、後ろを向いたまま、視線だけをセレスフィアの方に向けた。


「2週間ほど前でしょうか。

 スペシャル・マシナリー・ギア社のオルセンという技師の誘拐事件がありました。

 ティリエと共に技師を救出して下さったのは貴方ですね?」


あえて断定口調で。

そうでないと、この男性は首を横に振って去ってしまうだろう。

セレスフィアの質問に、ノシェが驚いたようにセレスフィアを見て、それから男性の方を窺うように見た。

男性は、少し値踏みするようにセレスフィアを見た後、小さく頷いた。


「その件につきましても、我が社の大切な人材を助けていただいて、ありがとう存じます。

 せめて、お礼だけでも言いたいと思っておりました。」

「あたしからも礼を言わせてくれ。

 ありがとう、あの時は助かったよ。」


セレスフィアがお礼を言うのに続けて、ノシェも慌ててお礼を言った。

2人のお礼の言葉に、男性は再び小さく頷くと、今度こそ、その場を後に去って行った。


セレスフィアとノシェは男性を見送った後、屋敷の方へと戻って行った。


「早速、部屋で中身を確認してみましょう。」


セレスフィアがノシェにティリエからの手紙を見せながら言った。

それに、ノシェも頷く。


「うん。

 わざわざこうして、あたし達の知らない人を使って届けて来るんだから、悪い予感がするよ。」

「同感よ。」


いつもお嬢様然とした態度を崩さないセレスフィアにしては珍しく、幾分、急ぎ足で部屋へと向かった。


 ◇ ◇ ◇


人払いのされたセレスフィアの部屋。

ティリエからの手紙を読み終えたセレスフィアとノシェの2人は、険しくなった顔を見合わせた。

2人とも、その内容に大きな衝撃を受けて。

それから2人はお互いに視線を外すと、ノシェの方は、もう、どさっと椅子の背に体重を預けて、右腕を目の辺りに乗せながら、天井を仰ぎ見た。

セレスフィアは、それでも背筋を伸ばしたまま姿勢を崩さずにいたけれど、表情まではさすがに取り繕えていない。


「いや、これはない。

 これはないよ、ティリエ・・・。」


ノシェが呆然と呟く。

セレスフィアは、ぎゅっと目を閉じて、口も開こうとしない。

そのまま時が停まったように、二人とも身じろぎ一つせず、しばらく時が流れる。


その沈黙を破ったのは、セレスフィア。

閉じていた目を開けると、手紙に目を落とす。


「ティリエも、きっと、一生懸命、考えたのでしょうね。」


ノシェがのろのろと顔から腕をのけ、気のない様子でセレスフィアを見た。


「ノシェと同じように、セリアにも思うところがあるでしょう。

 ひ」

「フィアは?

 フィアには思うところはないの?」


ノシェは急に体を起こすと、身を乗り出すようにしながら、セレスフィアが言葉を続けようとしたのを遮って、声を荒げた。

そのノシェを、セレスフィアがひたと見据える。


「もちろん、思うところはあります。

 おそらく、貴女が思っている以上に。」


セレスフィアに見つめ返されて、ノシェは再び力を抜いてどさっと椅子に座りこんだ。


「そうだね。

 ごめん。

 八つ当たりした。

 3人の中で、フィアが一番、ティリエのこと可愛がってたもんね。」

「誰が一番、ということではないわ。

 3人ともが、それぞれにティリエを愛していたのですから。」


ノシェがセレスフィアをじっと見つめて、それから、大きく頷いた。


「ああ。

 うん。

 そうだね。

 フィアの言う通りだ。」

「きっと、セリアはすぐにこちらに来ると思うわ。

 あの使いの方、午後にこちらに来たということは、きっと、午前中のうちにセリアにティリエからの手紙を渡しているはずですもの。

 ですから、少し待ちましょう。」

「分かった。」


それきり、部屋の中は重苦しい沈黙に包まれた。

別れを受け取った側のお話その2でした。

二人で受けたとしても、その衝撃は一人で受けたのと同じ。

手紙の主の意思を受け入れようと努力をしていますが、受け止めきれないというのが本当のところ。

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