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21.はじめて(最後)の「ただいま」

オティーリエとヨハンは、明日ホルトノムルに帰るために、出来ることは今日中にやっていこうと深夜まで捜査に協力した。

その結果、なんとか無事に誘拐事件の後始末はこの日のうちに終えることが出来た。

当然、ヴェルハルン侯爵邸に戻って来たのも遅い時間だった。

それでもウスターシュとアドリーヌは2人の帰宅を待っていてくれたので、丁寧に挨拶をして、その日は就寝した。

翌朝は早い時間に起きたものの、この時もウスターシュとアドリーヌは2人に合わせてくれたので、少し早めの朝食を一緒に摂ってから、2人はヴェルハルン侯爵邸を後にした。


それから、王国縦断鉄道の机上鉄道に乗ってホルトノムルに帰って来たのはもう夕方。

帰りは事件に巻き込まれることもなく、また疲れが出たのか、オティーリエも客室をうろうろしたりしないで座席でヨハンにもたれかかって寝ていたので、平穏無事に帰って来たのだった。


 ◇ ◇ ◇


「じゃあ、お兄ちゃんとはここまでだね。

 お兄ちゃん、お疲れ様。」


オティーリエはホルトノムル駅から出た所で、ヨハンに話しかけた。

行く時と同様、オティーリエとヨハンは街中を一緒に歩かない方がいいので、ここから別々にお城に戻る。

だから、お兄ちゃんとティリエはここでおしまい。


「いや、俺が先に戻って、城門の手前で待ってるよ。

 お前は後から来てくれ。

 お疲れ様はそれからだ。」


ではなかったらしい。

オティーリエは、そのヨハンの言葉に、パァっと顔を輝かせた。


「うん、分かった。

 お兄ちゃん、気を付けて帰ってね。」

「お前もな。

 じゃ、先に行くよ。」


ヨハンはオティーリエに背中を向けると、片手を上げながら去って行った。

オティーリエはヨハンが人混みに紛れて見えなくなるまで見送って、行く時にはあまり見れなかった鉄道の乗車券の発券機などを眺めて少し時間を潰した後、城へと戻って行った。


 ◇ ◇ ◇


オティーリエがホルトノムル城の城門の近くまで着いたのは、もう日が暮れて、夕食の時間も過ぎた頃だった。

城門の少し手前で、ヨハンが立っているのが見える。


「お兄ちゃん!

 お待たせ。」


オティーリエは手を振りながら、ヨハンに駆け寄った。

その声に、空を見上げていたヨハンがオティーリエの方を向く。

そして、駆け寄って来たオティーリエをじっと見つめたかと思うと、その頭に手を乗せて、わしっとした。

その視線はいつになく、ひどく優しい。


「ティリエ、お疲れ様。」


かけた声にも、優しさが籠っている。

これが、ティリエとしていられる最後だから。

だから、ヨハンはこの言葉を言うためにここで待っていた。

そのヨハンの意図を受け取ったオティーリエは、にっこりと笑って応えた。


「ありがとう。

 ヨハンもお疲れ様。

 じゃあ、お城に帰ろ。」


オティーリエは頭の上に乗ったヨハンの手をそっと取って両手で握ると、その手を離した。

それから、先に歩き始めてお城の中に向かう。

ヨハンは、すぐにオティーリエを追いかけて横に並んだ。

そのまま、二人で並んで城門を潜る。

城門を潜った所で、オティーリエは歩みを止めた。

ヨハンもオティーリエに合わせて止まる。

それから、オティーリエは前を向いたまま、口を開いた。

すでに、オティーリエに町娘のティリエの面影はない。


「ヨハン、帰ったばかりで疲れていると思いますが、夕食後、部屋に来て下さい。」

「承知いたしました。」


ヨハンも従者としての態度で、オティーリエの方を向いて深々と礼をした。

そして、ヨハンの答えを聞いて、オティーリエは歩き出した。

ヨハンはオティーリエが歩き出しても少しの間、礼をしたままだったが、オティーリエの影が下を向いた視線から外れる頃には頭を上げ、オティーリエの斜め後ろを付いて行った。


 ◇ ◇ ◇


その日の夜、夕食後。

オティーリエはヨハンに見守られながら、3通の手紙を書いた。

令嬢と従者とリスはお城に帰ってきました。

でも、この旅の本当の意味はここから。

令嬢は、ある覚悟を胸に、夜を迎えます。

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