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18.攫われた先で

オティーリエは睡眠の魔法にかかったフリをしていた。

眠ったフリをするだけなので簡単だ。


もともと、人に限らず生き物の精神に働きかける魔法は効きが悪い。

対象の精神がそのまま魔法への抵抗力となるから。

そして、それは相手が魔法使いとなると尚更で、体内の魔力もそのまま、かけられた魔法への抵抗力となる。


もちろん、魔法をかける側がより多くの魔力を籠めれば魔法がかかる成功率は上がるし、今回、エロイーズもそれなりの魔力を籠めていた。

けれど、それでもオティーリエの抵抗力を上回るほどではなかった。


つまり、エロイーズの見込みよりもオティーリエの魔力が高かったとも受け取れるので、ここは誤魔化すためにもオティーリエは眠ったフリをしたのだった。


ただ、全身から力を抜いて崩れ落ちる様子を見せるために支えなく床に滑り落ちたので、床に落ちた時に全身を打ち付けたし、頭も打った。


おかげで、ちょっと、いや、かなり痛かったけれど。


それはさておき、オティーリエは寝たフリをしながら状況を窺った。

目を瞑っているので周囲を見たりは出来ないけれど、車の走っている状況は感じることが出来る。

身体に伝わって来る振動から、車は急ぐでもなく、普通のスピードで走っているようだ。


魔法で周囲を探ることも出来なくはないけれど、エロイーズが魔法使いであることを考えると、安易に魔法は使わない方がいいだろう。

オティーリエは今まで母親以外の魔法使いに会ったことがないので、他の魔法使いがどれくらい魔法を使えるのか知らない。


ただ、エロイーズは心言という技術を使った。

心言、というのは、言葉を口に出さず、頭の中で紡いだ言葉を強く意識して魔力に乗せることで魔法を使う技術。

オティーリエはこの技術を母親から習ったことがなく、アーサーから流し込まれた知識で知ったことから、エロイーズの魔法使いとしての技量は高いと考えた方がよさそうだと考えた。


オティーリエが寝たフリをしだしてから少しして、エロイーズは運転席に通じている伝声管に「止まりなさい」と声をかけた。

その声に応えるように車が停まると、車室の扉が開く。

エロイーズはオティーリエを最後に一瞥すると、車を降りて行った。

そして、エロイーズが降りると扉が閉じて、またすぐに車が走り出した。


エロイーズが降りた後も少しの間、オティーリエは寝たフリを続けていたが、それ以上は何も起こらないようなので目を開けて身を起こした。


「わ!」


その瞬間に車がさほどスピードを落とさずに右折したので、その勢いでオティーリエは体勢を崩してしまった。

頭を両腕で抱えて、また頭を打つのだけはなんとか防ぐ。

頭を抱えたそのままで少し我慢していると、車はまたまっすぐに走り始めたので、オティーリエは改めて身を起こした。

車内にはオティーリエの他に誰もいない。


キョロキョロと見回してみると、運転席が車室の外にあるタイプの車で、運転手からはこちらが見えない構造になっている。


とりあえずオティーリエは座席に座った。

目の前で殺人を見たショックからはすでに立ち直っている。

エロイーズもいなくなったので、プレッシャーもない。

ヨハン、アーサー、ベディヴィアが救出に来てくれるだろうから、この後のことも全く心配していない。


と、いうわけで、オティーリエは特に緊張することもなく、気持ちは落ち着いていて、むしろ余裕すらあったりする。


オティーリエはとりあえず座席の右側に寄って、窓の外の街並みを眺めた。

ホルトノムルとは全く異なる街並みに人々の装い。

その違いを眺めているだけでも楽しくなってくる。


オティーリエは流れていく景色を眺めながら、今回の誘拐事件について考えてみた。


エロイーズは、もうこれ以上、姿を現すことはないだろう。

もともと人を動かす立場の人物だし、皇女が他国の貴族令嬢の誘拐に関わっているなど、あってはならないことだから。

計画を立てて実行は実行犯に任せるのが本来のやり方で、オティーリエの前に姿を見せたことは例外的なことと考えて間違いないはず。


どうしてオティーリエに姿を見せたのかは分からないけれど。


オティーリエがそんな風に考え事をしていると、車はもう一度右折した。

今度もスピードを落とさずに曲がったけれど、椅子に座っていたおかげでなんとか体勢を崩さずに耐えられた。


これで右に2回。

と、すると、非常線にかかる前に折り返して、陸路でなく海から逃げる気なのかもしれない。


この誘拐事件、オティーリエには非常に気になっていることがある。


今回の魔法陣調査が決まったのは先週の木曜日。

そして、城内でもほんの一部にしかそのことを言っていないし、そもそも城内の人間は全員信用出来る。

と、すると、オティーリエがホルトノムルを出ることを察知出来たのは、ホルトノムルを出た後としか考えられない。


カラディン領の誘拐犯の計画が杜撰だったのはそのせいだろうし、エロイーズもそんなに準備に時間をかけられなかったはず。


準備期間がないという意味ではエロイーズがなぜここにいたのかということも気になるところで、今回の魔法陣の調査とは関係なくオリベール王国にやってきていたのだろう。

それも非公式で。


そうすると、エロイーズは最初からオティーリエ目的でやってきた可能性がある。

最後の言葉も思わせぶりだったし。


なので。

オティーリエがホルトノムルを出発してから、今日の午後まで。

最長でも2.5日という短い時間でエロイーズがどれだけのことが出来るのか、どんな手段を取るのか。

今後の対応のためにも、今回の件は、それを知るのにちょうどいい機会だったと捉えることにした。

攫われた先での令嬢の様子でした。

皇女は令嬢に何をするでもなく、去っていきます。

令嬢としては助かったと喜ぶべきなのかどうなのか。

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