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13.到着!

転移の魔法陣がある場所は、騎士の眠る森の真ん中近く。

つまり、森の一番深い所。

その場所は木々に囲まれて鬱蒼と繁み、地面もじめじめと湿気を帯びていて、地上に出てきた木の根があちこちに見えた。


ただ、ある一ヵ所だけ、木の根を避けるようにして、かなりの深さの地面が掘り返されていた。

おそらく、事前調査を行った調査隊が掘り返したのだろう。

そこだけ土がなくなり、木の根が丸見えになっている。


木の根はびっしりと生えていて複雑に絡み合っているので、掘り起こしきれなかったであろう場所もあって、そういう所には土が残っている。

とはいえ、魔法陣全体が分かるていどには掘り起こしてあって、調査隊の苦労が偲ばれた。


木の根の隙間から見える魔法陣は、円の中に様々な紋様がぎっしりと描かれていて、その大きさは直径30フィート以上ありそうだ。

そして、周囲を木の根に囲われているものの、その木の根は魔法陣を避けるように伸びていて、魔法陣自体は損なわれていないように見える。


「間違いなさそうだな。」

「うん。

 中央広場の魔法陣は地下にあって見えないから、こんなにきちんと魔法陣を見たの初めて。」


二人は木の根を伝って、魔法陣の中心と思わしき位置の真上にやってきた。

ちょうどそこには木は生えていない。

もしここに木があれば、それだけでこの転移の魔法陣は使えなくなっていたところだった。


「確かに、ホルトノムル城にも魔法陣はないもんな。」

「うん。

 でも、これだけの大きさがあると圧巻だね。」

「ああ。

 さて、じゃあ、遅くなったし、早速、動くかどうか試してみてくれ。」

「うん、分かった。」


オティーリエはアーサーを足元に下ろして、そこにしゃがみこむと、両手の手の平を魔法陣の中心の方に向けて伸ばした。

手の平から、ごくわずかな魔力を魔法陣に向かって流してみる。

すると、魔法陣がぼう、と光り、オティーリエにも魔法陣が動作する手応えが返って来た。

オティーリエがしゃがんだまま、顔を上げてヨハンを見る。


「お兄ちゃん、この魔法陣、生きてる!」

「ああ、横で見ていてもそうだと分かったよ。

 ここまで来た甲斐があったな。」


オティーリエの報告に、応えるヨハンの声も明るい。


「うん!

 さっそく、跳んでみるね。」

「いや、待て待て、焦るな。

 安全確認が先だ。」


声を弾ませ、勢いに任せて転移しようとしたオティーリエを、ヨハンが慌てて止める。


「あ、そっか、そうだね。

 ありがとう、お兄ちゃん。」


オティーリエもヨハンの言うことを素直に聞いて、魔力を流そうとしていたのを止めた。

ついでに深呼吸して、気持ちを落ち着ける。


「アーサーにも確認してみる。

 お兄ちゃん、ちょっと待ってね。」

「ああ。」


オティーリエはヨハンに一言言うと、アーサーと会話を始めた。


『アーサー、この魔法陣から操縦席に跳べますか?

 あと、操縦席からこちらに戻ってこれますか?』

『どちらも問題ない。』

『アーサーの太鼓判があれば大丈夫ですね。

 ありがとう、アーサー。』


「お兄ちゃん、アーサーも大丈夫だって。」

「そうか。

 お前とアーサーがどっちも大丈夫って言うなら、大丈夫なんだろうな。」

「うん。

 じゃあ、ちょっと行ってくるね。」


オティーリエはアーサーを抱え込むと、早速、魔力を魔法陣に向かって流した。

オティーリエの魔力によって満たされた魔法陣はその力を発揮し、オティーリエとアーサー、それからアーサーの首に巻かれたベディヴィアをアーサーの操縦室へと導いた。


 ◇ ◇ ◇


オティーリエとアーサー、ベディヴィアは無事にアーサーの操縦室へと転移した。

前回と同様、オティーリエは操縦席に座っている。


『無事に転移出来ましたね。

 なんだかここも久しぶりですね。』

『ここが我が王の操縦席なのですね。

 初めて訪れました。』


オティーリエはどこか懐かし気に。

ベディヴィアは恐れ多いといった感じで感想を漏らした。


『アーサー、せっかくですので騎体チェックを行いましょう。

 操縦珠になって下さい。』

『その前に私の確保をお願いします。』

『あ、そうですね。』


オティーリエはベディヴィアに言われて、アーサーの首からネックレスを外した。


『それではアーサー、お願いします。』

『了解した。』


オティーリエの両手に乗っていたリスが、丸い球体になる。

ちなみに先ほど、オティーリエは操縦珠に戻って下さい、ではなくて、なって下さい、と言った。

そして、それにアーサーも了解した、と答えた。

それはつまりどういうことかと言うと。


『それにしても、アーサーにとっても、リスの姿が普通になっているのですね。』


オティーリエがくすりと笑って言った。

実はオティーリエは意識してわざとそう言ってみたのだった。


『・・・。

 謀ったな、我が主。』


どこか憮然とした様子で答えるアーサー。

ヴェディヴィアは何も言わないけれど、きっと笑ってる。


『いえ、そのようなことは。

 ちょっと気になっただけです。』


オティーリエは答えながら、操縦珠を元あった場所に戻した。

それから数瞬の後。


『チェック完了だ、我が主。

 我が騎体は正常。

 何も問題ない。』

『それはよかったです。』

『それでは、あの森に戻ろう。』


どこか誤魔化すように言うアーサー。

それにオティーリエは楽しそうに笑みを深めると、操縦珠を取り外した。

両手に持つと、操縦珠がリスに戻る。

そのアーサーに、再びネックレスを取り付けた。

ちょっと揶揄ってしまったけれど、なんだかんだで素直にリスに戻ってくれるアーサーにオティーリエは感謝の気持ちを伝えた。


あの日からそれなりの時間が経って、こんな風に気の置けないやり取りが出来るようになったことが嬉しい。

それが、アーサーも同じ気持ちだとさらに嬉しいけれど。


べディヴィアとはこれから。

だけど、なんだかすでに馴染んでいる気がしないでもない。

うん。


『ありがとう。

 やはり、アーサーと言えばこの姿ですね。

 では、行きます。』


オティーリエは再び、操縦席の転移の魔法陣を起動させた。


 ◇ ◇ ◇


ヨハンの目の前から姿を消したオティーリエは、今回はすぐに戻って来た。

木の根から少し浮いた所に、座っていたような姿勢で戻って来たオティーリエは、現れたかと思うと、そこからぺちゃっと落ちて尻もちをつく。

ベディヴィアの操縦席から戻る時は気を付けて立った状態で転移をしたけれど、アーサーの操縦席は座面に転移の魔法陣が刻まれているので、つい立ち上がっておくのを忘れていた。


「いたたたた。

 お兄ちゃん、ただいま。」


お尻をさするオティーリエの前に、ヨハンの手が伸びてきた。


「おかえり。

 この魔法陣が問題なく使えてよかったよ。」


オティーリエがヨハンの手を握ると、ヨハンがよっとオティーリエを引っ張って立たせた。


「ありがと、お兄ちゃん。」

「いや。

 さて、じゃあ、目的も果たしたことだし、そろそろ戻るか。

 今日は遅くなったからニースで一泊して、明日、ゆっくりとヴェルハルンに戻ろう。

 それからヴェルハルンでもう一泊して、ホルトノムルに戻るのは明後日だな。」

「わ、じゃあ、明日はのんびりヴェルハルン観光出来る?

 あ、その前にニース観光?」

「そうだな。

 明日の予定は、今晩、ゆっくり相談しよう。」

「うん!」


ヨハンの提案に、オティーリエはとびきりの笑顔で頷いた。

これで、今回の旅の目的は果たせました。

いざという時はここに来れるので、朗報です。


そしてなにより、明日の予定に令嬢は大喜びです。


もしよろしければ、評価やご感想などいただけますと、今後の励みになりますので、よろしくお願いします。

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