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6.改めて、列車で出発

列車がオリベスクを出発すると、ヨハンとオティーリエは食堂車で昼食を摂り、その後、ヨハンが誘って車両の最後尾にやって来ていた。

オティーリエが目を輝かせて柵から身を乗り出そうとするのをヨハンが首根っこを掴んで食い止める。


「だから、危ないって言ってるだろ。」

「あ、うん、ごめん、つい。」


今回はオティーリエも大人しく身を引いた。

とりあえず柵から身を乗り出さないようにしたオティーリエは、ここなら大丈夫だろうとナップザックを背中から身体の前にかけなおして、アーサーが外を見えるように袋の口を開けた。


『アーサー、顔を出しても構いませんよ。』


中から、ひょこっとアーサーが顔を出すと、外の風景を眺め出した。

かと思うと、キョロキョロと周囲を見回しだす。


『魔力も使わずにこれだけの質量の物をこれだけの速度で移動できるとは。

 素晴らしい技術だな。』


アーサーは景色よりも列車の方に興味があるらしい。


『そうですね。

 このような発明をされる方々は偉大な方々だと思います。』


アーサーの反応に、オティーリエは列車内を探検する時はずっと見えている光景をアーサーに送ろうと決意する。

と、この主従が会話している間に、ヨハンは姿勢を正して、執事としての礼をしてオティーリエに声をかけた。


「お嬢様。

 旦那様より言伝がございます。」


オティーリエがヨハンの方に振り向いた時には、すでにオティーリエの雰囲気は変わっていた。

凛とした貴族としての佇まいになっている。

その抱えたナップザックからリスが顔を出しているのは、ちぐはぐな雰囲気ながら、どこか可愛らしい。


「どのような内容ですか?」


オティーリエが応えると、ヨハンは顔を上げて直立した。


「ヴェルハルン侯爵領にて、ヴェルハルン侯爵と晩餐を共にせよ、とのことでした。」


ヴェルハルン侯爵領というのはオリベール王国の北の玄関口。

北側を海に面していて、王国において、海峡を挟んだ向こう側にある島国との貿易を一手に担っている領地だ。

貿易の他にも、王国で唯一、海を持つ領地ということで海産物や観光など他の領地にはない特色を持ち、また領主の手腕も優れているおかげで、非常に富んでいる。

また、その富を背景に、非常に強力な海軍を始めとする軍隊も持っていて、国王ですら侮ることが出来ないほどの力を持っている。

当然ながら、ホルトノムル侯爵領と同じく自治を認められた領地。

そして、王国縦断鉄道の北の終着駅だ。


その領地を治めるヴェルハルン侯爵はホルトノムル侯爵と古くから友好的な関係を築いていて、現侯爵も歳の差がありながら、非常に仲がいい。


「承知いたしました。

 ヴェルハルン侯爵のご招待をお受けします。」

「それでは、そのように旦那様にご報告させていただきます。」


ヨハンが再び礼をした。

しかし、そこで話は終わらなかった。


「ところでヨハン、ヴェルハルン侯爵閣下はどうしてヴェルハルン侯爵領を訪問することをご存知なのでしょうか?」


街に泊まれないのは残念だっただろうに、それで気落ちして終わりではなく、きちんと問題点を指摘してくる。

ヨハンは下を向いたまま口元だけフッと笑みを浮かべた後、顔を引き締めて顔を上げた。


「ヴェルハルン侯爵閣下は、旦那様と懇意にされている方です。

 おそらく、旦那様がお嬢様自慢のために、わざと口を滑らせたのでしょう。」

「ヨハン、あなたにこれを渡しておきます。」


オティーリエはヨハンの回答に何の答えも返さず、ナップザックから取り出した手の平に乗るていどの小さな袋をヨハンに差し出した。

ヨハンは内心、怪訝な気持ちを抑えて、平静な態度でその袋を受け取る。


「中を確認させていただいても?」

「はい。」


ヨハンが袋の中を見ると、小石が入っていた。

その小石を手の平に乗せてみると、小石から針のような光が差していて、その光はオティーリエの方に向いている。


「これは・・・魔法具でしょうか?」

「魔法具ではありません。

 ただ魔法をかけただけの小石です。

 その小石の光は、どんなに離れていても、常に(わたくし)を指し示しますので、いざという時のために渡しておきます。

 効果が続くのはあと4日です。

 4日を過ぎれば、ただの小石に戻ります。」

「分かりました。

 お預かりいたします。」


このタイミングでこんな物を渡してくるということは、つまり、そういうことなのだろう。

小石を袋に戻し、袋をポケットに入れながら、仕方がない、と心の中だけで溜息をつく。


「出来ればお知らせせず、旅を楽しんでいただきたかったのですが。

 ご推察の通り、ヴェルハルン侯爵閣下に庇護を求めました。

 お嬢様が狙われていると想定されるためです。

 しかし、お嬢様自慢のため、ということも紛れもない事実です。」


オティーリエは狙われている。

オティーリエには秘密にしていたが、そのことにオティーリエ自身が気付いたということだろう。


「それは理解していますし、お気遣いもありがたいと思っています。

 ヨハンなら守り切れるという判断でしょうし、実際にそれは可能でしょう。

 ですけれど、自身が関わることで隠し事をされるのは、正直、気持ちのいいことではありません。」


オティーリエがじっとヨハンを見つめる。


「申し訳ございません。

 私共の無用な気遣いだったようです。

 関わった者全てを代表してお詫び申し上げます。」


ヨハンは素直に頭を下げて謝罪した。


「謝罪して欲しいわけではありません。

 ただ、隠し事をしないで欲しいのです。

 これからは、こういうことはしないと約束して下さい。」

「そのお約束は出来かねます。

 我々にも、お嬢様を心配する権利をいただきたく存じます。」


ヨハンは頭を下げたまま、オティーリエに答える。

自分のことを想って言ってくれていることはオティーリエにも分かるので、仕方がないという顔でヨハンを見た。


「分かりました。

 あなた方の謝罪と共に、今後についても希望を受け入れます。

 ただ、こちらの希望にもご配慮下さい。」

「ありがたきお言葉、感謝の念に堪えません。

 お嬢様のご希望につきましても、肝に銘じます。」


ヨハンはそう答えると、顔を上げようと閉じていた目を開いた。

その視界に、しゃがみこんでヨハンの顔を見上げているオティーリエが入って来て、思わずぎょっとする。


「わ、お兄ちゃんがびっくりした。

 珍しいね。」


いたずら成功、とばかりにニコニコ笑顔のオティーリエ。

ヨハンはとりあえず表面を取り繕いつつ、オティーリエに合わせて態度を崩した。

力を抜き、しゃがんでいるオティーリエは気にしないで身体を起こす。


「そんなことより、どうして狙われてるって分かったんだ?

 旦那様と俺と(じじぃ)くらいしか知らないトップシークレットだぞ。」


尋ねられたオティーリエは、答えようと口を開いた瞬間、ハタと気が付いた。

大した理由ではないし、別に言うのは構わないのだけれど、言ってしまうと、なんだか色々な人を残念がらせそうな気がする。

腕を組んで首を傾げ、うーんうーんと悩みだしてしまったオティーリエ。

普段はどんな質問にもすぐに答えるオティーリエの珍しい態度に、ヨハンも面白がってオティーリエを観察すること数刻。

さすがにヨハンが待ちくたびれて声をかけようとしたところで、オティーリエがパッと顔を上げた。


「うーんとね。」


そして、背伸びしてヨハンにグイッと顔を近づける。

それから、ニッコリ笑って。


「ひ・み・つ!」


そう言うと、クルッと踵を返してヨハンから離れて、客室に戻る扉を開けた。

アーサーは空気を読んで、すでに顔を引っ込めている。


「じゃあ、車両探検だよ、お兄ちゃん!」


明るい声を上げて、オティーリエがヨハンに呼びかける。

ヨハンは今日、何度目かの溜息をつくと、オティーリエに返事をした。


「いや、旦那様に報告してから戻るよ。

 先に行っててくれ。」

「うん、分かった!」


オティーリエは笑顔で頷くと客車に入り、左手だけを残してその手を振ると、車両探検に行ってしまった。

そのオティーリエを苦笑いで見送ったヨハンは、懐から通信の魔法具を取り出すと、エリオットに報告を始めた。

侯爵からの業務連絡。

あと、色々と状況の再確認でした。

領内から出てくることのなかった『騎士』の『操縦者』が出てくるということは、それなりに危険が伴うことでした。


アーサー君は、美しい景色よりも、現代の技術に興味津々です。

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