7.上流階級と言えば
木曜日の午後、オティーリエは再び西門から出て工業地帯に向かっていた。
と言っても、目的地は工業地帯からさらに南。
工業地帯と鉱山のちょうど中間辺りにある大きなお屋敷が目的地だ。
このお屋敷、周囲には何もない所に立てられているので、西門から工業地帯までバスで向かった後は歩き。
オティーリエがバスを降りてから1時間も歩いた頃、ようやく目的地に着いた。
長距離を歩いたおかげで、ちょっと息が上がっている。
今日のオティーリエの目的地は、オストライア家。
つまりはセレスフィアの家。
オティーリエがそのお屋敷の門の所で息を整えていると、屋敷の中から人がやってきた。
やってきたのはオストライア家の家政婦で、モーリー・シュテルツ。
30代後半の女性で、着ている服はノシェの着ているお仕着せと違ってエプロンは着いておらず、全体に美しい装飾の施された黒い服だ。
髪の毛はまとめて上げていて、服に合わせた装飾の施された黒いヘッドドレスで覆っている。
そのモーリーはオティーリエの所に来ると、お腹の前に両腕を添えながらオティーリエに一礼して声をかけた。
「ティリエ様、ようこそお越し下さいました。
お嬢様は所用で手が離せませんので、応接室で少々お待ち下さい。」
「はい、ありがとうございます。」
モーリーはもう一度一礼すると、オティーリエを案内するように先に立って歩き始めた。
なんとか息を整えたオティーリエも、モーリーの後を着いて行く。
オティーリエはそのまま応接室に通されると待っている間にとお茶が出され、それを口にして、ようやく一息ついた。
◇ ◇ ◇
コンコン、と扉をノックする音が聞こえたので、オティーリエが「はい」と返事をすると、すっと扉が開いて、セレスフィアが入って来た。
ちなみにノックをしたのも扉を開けたのも、もちろんセレスフィア本人ではなく侍女。
「いらっしゃい、ティリエ。
こんな遠くまでどうしたの?」
セレスフィアは言いながら、立ち上がろうとしていたオティーリエを片手を上げて止めると、オティーリエの正面に座った。
「うん、フィアにちょっと教えて欲しいことがあって。
ごめんね、突然来ちゃって。
大丈夫だった?」
「もちろん、大丈夫よ。
大変だったでしょう。
楽にしていらして。
ところで、アーサー君は?」
「あ、アーサーはこの中。」
オティーリエは抱えていたナップザックの口を開けると、中をセレスフィアに見せた。
アーサーがひょこっと顔を出す。
「あら。
その中でじっと待ってるなんていい子ね。
出してもらっても構いませんよ。」
「ありがとう。
じゃあ、失礼して。」
オティーリエが抱えていたナップザックからアーサーを取り出して自分のすぐ横に下ろすと、アーサーはそこで毛づくりなんか始めた。
ナップザックはそのまま足元に置こうとしたら、侍女が預かろうと手を差し出して来たので、侍女に渡した。
「ふふ、相変わらず可愛らしいわね。」
セレスフィアが笑みを浮かべてアーサーを見た後、オティーリエを見ながら言った。
二人が話している横で、侍女達によってあっという間にティータイムの準備が出来ていた。
飾りはないものの、上品で物が良さそうな3段のティースタンドに、下段はサンドイッチなどの軽食、中断には小さめのケーキ、そして上段は銀製のクロッシュで覆われているので、おそらくスコーンが乗っているのだろう。
ティースタンドの他にクロテッドクリームと数種類のジャムの入った器が並べられているので、間違いないハズ。
セレスフィアにお茶が用意され、オティーリエにも待っている間に飲んだお茶のティーカップが下げられ、新しくセレスフィアとセットのティーカップに入れられたお茶が提供された。
「どうぞ。
作法など気にせず、好きな物を手に取って。」
セレスフィアがお茶を口に含んだ後、自らケーキを手に取りながら言った。
本来のマナーでは下から順番、つまりサンドイッチなどの重たいものから順に食べていくものなのだけど、今はそうしなくていいよ、とセレスフィアが自ら行動で示している。
オティーリエはもちろん侯爵令嬢としてマナーは心得ているけれど、それとは別に、ティリエとしてもセレスフィアから作法を習ったことがあるので、マナーを知っていることはセレスフィアも分かっている。
なので、あえての行動だろう。
「ありがとう。
じゃあ、せっかくだから、いただくね。」
オティーリエは、まずクロッシュを外そうと手を伸ばすと、横からすっと手が伸びてきて、控えていた侍女がクロッシュを外してくれた。
中身は予想通りスコーン。
とりあえずオティーリエはクロッシュを外してくれた侍女にお礼を言ってからスコーンを手に取ると、アーサーに渡した。
アーサーはスコーンを手渡されると、カリカリと小さな口で齧り始めた。
それを見てから、オティーリエは今度は小さめのケーキを取ると、フォークを手にした。
一口食べると、幸せな甘さが口に広がる。
オティーリエを見て、侍女が再びクロッシュをスコーンに被せた。
「これ、本当においしい!」
オティーリエは思わず左手を頬に添えて、幸せそうな笑顔になった。
実は舌が肥えている侯爵令嬢を満足させるあたり、さすがはオストライア家といったところ。
そんな幸せそうなオティーリエに、セレスフィアは満足そうな笑みを浮かべて、再びお茶を一口、口に含んだ。
「ところで、オルセン技師の件、ティリエが解決して下さったのでしょう?
どうもありがとう存じます。
オストライア家の者として、代表して感謝いたします。」
にこやかに言うセレスフィアの言葉に、オティーリエがちょうど口にしたお茶を吹き出しそうになったのを、なんとかこらえた。
「あらあら、大丈夫?」
心配そうに言うセレスフィアに、頑張ってお茶を飲み込んだオティーリエが、少し涙目になりながら答えた。
「あ、う、うん、ごめ、なんとか、大、丈夫。」
オティーリエはそれから、はあ、と息を吐いて呼吸を整えると、セレスフィアを見た。
「どうしてフィアが知ってるの?
あの事件、新聞記事にもなってなかったよね?」
「やっぱりティリエで合っていたのね。」
「あ。」
セレスフィアが嬉しそうに両手を胸の前で合わせながら言った。
それに、オティーリエがしまった、という顔になる。
でも、オティーリエが救出に行ったのは事実だし、セレスフィアならこの程度のことは想定して然るべきだし、考えてみればそもそも別に隠し事でもないし、という訳で、オティーリエは仕方ないと小さく息を吐いた。
「でも、わたし一人の力じゃないよ。
アーサーと、あともう一人、協力してくれた人がいたから。
それに、犯人もちょっとおマヌケさんだったし。」
「あら、アーサー君も?
アーサー君、どうもありがとう存じます。」
セレスフィアはアーサーに向かってお礼を言うと、再びオティーリエに向き直った。
「それで、もうお一方というのはどなたでしょう?
出来れば、お礼にあがりたいのですけれど。」
「えっとね。
その人、オルセンさんと一緒に捕まってた男の子を助けに来た人で、たまたま誘拐されてた場所の入り口で鉢合わせたんだ。
救出するのに集中しちゃって、お互い名乗りもしなかったし、詳しい話もしなかったんだよね。」
オティーリエの言っていることは嘘ではない。
嘘ではないけれど全てではない、というやつだ。
もちろん、こうして言い訳が出来るように、わざとそうしていたりする。
「そう。
それでは仕方ありませんね。」
セレスフィアはひた、とオティーリエを真顔で見た後、仕方ないというように首を振った。
オティーリエは内心、冷や汗ものだったけれど、なんとか表には出さなかった。
セレスフィアもオティーリエに何か事情があるのだろうと察したけれど、こうして誤魔化す以上は話したくないのだろうと引くことにした。
「それで、ティリエの御用は?」
「あ、うん、ウィリアムソンさんって知ってる?」
侍女達が、空になったティーカップにお茶を注いでくれる。
オティーリエはアーサーにスコーンの追加を渡したけれど、それは断られたので、クロテッドクリームとジャムを乗せて、自分でそれを食べた。
クロテッドクリームもジャムも上品な甘さでしつこくなく、またちょうどいい焼き加減のスコーンとも相まって、凄くおいしい。
「スコーンもお口に合ったようでよかったわ。」
再び幸せそうな笑顔を浮かべていたオティーリエを見て、セレスフィアも笑顔になる。
「うん、このスコーンとクロテッドクリームとジャムの組み合わせ、凄く美味しかった。
お茶にも合ってるし。」
オティーリエはスコーンを食べ終わると、お茶を一口、口に含んだ。
思わず、ほんわりとした笑みになってしまう。
「ふふ。
ところで、ウィリアムソン様にはいくつか心当たりがありますわ。
どのウィリアムソン様かしら。」
「ナディア・トリシア・エルデンシア・ウィリアムソンさん。
知ってる?」
「ええ、存じていますよ。
東地区にお住まいの方ね。
でも、2年前には社交界から引退されて、ご隠居生活をされていると伺っているわ。
そのナディア様がどうかしたの?」
オティーリエの質問に、セレスフィアは当然のように答えた。
オティーリエが期待した通り、上流階級のことはセレスフィアに聞くのが一番。
オティーリエも本来なら母親と一緒にサロンを開いて上流階級のご婦人方と交流するべきなのだけれど、母親がいないのをいいことに、そういうことからは逃げているので、上流階級のことは全く把握していない。
その点、セレスフィアはホルトノムル領でも一番と言ってもいい名家の娘で、きちんと上流階級のご婦人方と交流している上、本人がしっかりしているので情報もきちんと握っている。
「一昨日、知り合ったんだ。
それで、お家にお邪魔させてもらったんだけど、ちょっと気になったから、どんなご家族なのか知りたくて。」
「ナディア様御本人ではなくて、ウィリアムソン家について知りたいということね?」
「あ、ごめん、そう。」
セレスフィアの確認に、オティーリエはこくこくと頷く。
「ご当主だったジェイムス・ウィリアムソン様は一代で財を築かれたやり手の商人だったとお聞きしています。
とても人柄のよい御方で、交友関係も広かったとか。」
セレスフィアはそこで一つ区切るとお茶をに口をつけた。
オティーリエは真面目な顔でふんふんと頷きながらフィアの話を聞いている。
「ご本のご熱心な収集家としても広く知られていたわ。
あと、収集家、というお話では、一時、想い人への贈り物という宝石をご入手されたというお話が流れたことがあるわね。
誰も見たことがないので、真偽は定かではないらしいけれど。」
その一言に、オティーリエがぽかんと口を開けた。
唖然とした顔をしている。
セレスフィアがそんなオティーリエを面白そうに眺めていると、少ししてオティーリエが気が付いたらしく、パッと両手で口を隠した。
それから、そのまま、何故か声を潜めてセレスフィアに確認する。
「想い人への贈り物って・・・あの?」
そんなオティーリエに、セレスフィアはくすくす笑ってから答えた。
「ええ、その想い人への贈り物で間違いないわ。」
想い人への贈り物、というのは世界的に有名な宝石。
100カラットを超す巨大なピンクダイヤで、形も美しいため、カットもされていないというもの。
「ウィリアムソンさんって、宝石も集めてたの?」
「どうかしら。
話題として流れてきたのは、想い人への贈り物だけよ。
それから、どうして購入されたのか、どうやって見つけたのかは噂になっていないわね。」
セレスフィアもそこまでは聞いていないらしく、右手を頬にあてて、困ったわ、という表情をした。
それにオティーリエはぶんぶんと首を振った後、大きく頷いた。
「大丈夫、ありがとう、フィア。
大事なことを聞けたと思う。
本当に助かったよ。」
「そう?
大したことはしていないけれど、ティリエのお役に立てたのなら、何よりも嬉しいわ。」
セレスフィアとオティーリエが笑みを交わす。
「それじゃあ、遅くなるといけないし、そろそろお暇させてもうらうね。」
「あら、帰りは車で送らせるわ。
だから、せっかくだし、もう少しおしゃべりいたしましょう。」
「え?
あ、でも、悪いし。」
「気にしなくて大丈夫よ。
今日は家族の誰も出かける予定ないから、運転手も暇を持て余しているところだし。」
オストライア家では、屋敷が辺鄙な所にあることもあって、急用が出来た時のために運転手は毎日朝から夕方まで、用がなくても屋敷に常駐させている。
「うーん、じゃあ、お願いします。
ありがとう、フィア。」
「いいえ、どういたしまして。
ティリエとおしゃべりする時間が取れるのは嬉しいもの。」
こうして、この後はセレスフィアとオティーリエ二人で楽しくお茶しながら、ギリギリの時間まで談笑して過ごしたのだった。
◇ ◇ ◇
一方、その頃、ホルトノムル城内の一室。
ヨハンはお城の従僕であると同時に、オティーリエ付きの従者でもある。
このため、オティーリエに届く手紙は本人に渡す前に、全てヨハンが確認することになっている。
もっとも、まだ社交界デビューしていない上に他領との付き合いもなく、サロンも開いていないオティーリエに届く手紙はないに等しいけれど。
今日は、そんな珍しいオティーリエへの手紙が届いた日。
とは言っても、先日、オティーリエがエリオットからの手紙に返事を書いていたので、さらにその返事が来たのだろう。
その証拠に、封筒にはホルトノムル侯爵の印籠が押されている。
とりあえず、その封筒を開封して中身を確認するヨハン。
読み進めていくうちに、ある一文で目を止めた。
思わず呆れ顔になってしまう。
「あの馬鹿領主、何考えてやがんだよ。
娘に甘いにしても程があるだろ。」
と呟いた後、いや、と頭を切り替え、真剣な表情になった。
「それだけ、重要視している、ということか。」
ヨハンにとって、まさかの一文がそこには書かれていた。
◇ ◇ ◇
その日の夜もヨハンは新聞と一緒にエリオットからの手紙を持ってきた。
ちょっと難しい顔をしつつ。
夕食の時には澄ました顔で給仕をしていたのだけれど、今は二人(と一匹)だけ。
オティーリエは気を許してくれている証だと、内心、ちょっと嬉しかったりする。
「ヨハン、何かありましたか?
随分と難しいお顔をされてますけれど。」
オティーリエが手紙を受け取りつつ尋ねる。
「何でもない。」
と言いつつも、ヨハンの表情は変わらない。
少なくとも自分が原因ではなさそうだと判断したオティーリエは、いったん、ヨハンの思案顔は横に置いておいて、エリオットからの手紙を読むことにした。
オティーリエが手紙を開いている間に、ヨハンが横に椅子を持って来て座る。
そんなヨハンにチラッと視線を走らせてから、オティーリエは手紙を読み始めた。
読み始めた時は、それでもヨハンを気にしてチラチラ見ていたオティーリエだったけれど、読み進めるにつれて手紙に集中していき、徐々に自然な笑みが零れ始め。
そして、読み終わる頃には喜色満面の笑顔になっていた。
「ヨハン、許可が出ましたよ。
行ってこいですって。」
両手で広げたエリオットの手紙をヨハンに見せつけるように見せつつ。
そんなオティーリエとは対照的に、ヨハンはハァ、と溜息をついた。
そう、エリオットから許可が出たのだ。
北の海峡沿いの岬にある転移の魔法陣の状況確認に。
ちなみに行くのはヨハンとオティーリエの二人だけ。
秘密裏に事を進めたいという意向のため、身分を隠しての行動になる。
オティーリエは嬉しさでいっぱいだけれど、ヨハンが難しい顔をしている原因はまさにこれで。
「まさか、お嬢が返事でこんなこと書いてるとは思わなかったよ。」
ヨハンもオティーリエに届く手紙の内容は確認しているけれど、出す手紙までは確認していない。
しかし、手紙の文章の流れから、エリオット発案ではなくて、オティーリエが提案してエリオットが許可したのだろうことは読み取れた。
「あら、ヨハンは二人旅はお嫌ですか?」
オティーリエはヨハンの様子に喜色満面から一転、手紙を両手で見せつけるように持ったまま、少し気落ちした様子で上目遣いにヨハンを見た。
ヨハンが難しい顔をしているのを、オティーリエは嫌がっているのではないかと解釈したらしい。
「あ、いや、嫌とかそういうことじゃなくてだな。」
「お、い、や、で、す、か?
それならそうとハッキリ仰って下さい。
決して、無理強いはいたしませんので。」
ヨハンはその表情に慌てて慰めようと手を伸ばしたけれど、途中で止めた。
いや、止められた。
語調は強いながらも、少し傷ついたような顔を見せるオティーリエ。
ヨハンに見せつけるように持っていたエリオットからの手紙は下ろされていて、膝の上で両手でくしゃくしゃに握りしめられている。
二人旅、と言った辺りから妙に存在感を主張し始めたリスは、この際、無視だ。
ヨハンは中途半端に伸ばした手を引っ込めて、ふう、と一つ息を吐いた後、オティーリエにきちんと向き直った。
「いや、嫌じゃない。」
「本当ですか?」
「ああ。」
「本当の本当ですか?」
「本当だ。
しつこいぞ、お嬢。」
ヨハンの返事に、オティーリエは綻ぶような笑顔を浮かべた。
その表情に、ヨハンが思わず引き込まれる。
「アーサーも。
よろしくお願いしますね。」
オティーリエはアーサーの方を向いて頭を撫でていたので、ヨハンのその様子には気付かなかった。
「でも、そうでしたら、どうしてヨハンは難しいお顔をされていたのですか?」
アーサーからヨハンに視線を戻して、小首を傾げるオティーリエ。
他の理由が思いつかなかったからこそ、嫌がっているのではないかと思い込んでしまったのだから、当然の疑問。
「お嬢が気にすることじゃない。
それより、出発は次の月曜日にするぞ。
念のため確認するが、大丈夫だよな?」
ヨハンはオティーリエの動向を把握している。
そして、ヨハンの認識では今、オティーリエは普段の執務や勉強以外の予定はないハズである。
しかし。
「明日の夜までお返事をお待ち頂けますか?
今、少し気にかかっていることがありますので。
おそらく、明日にはハッキリすると思うのですけど。」
オティーリエが申し訳なさそうに答えると、ヨハンは腕を組んで眉を顰めた。
「聞いてないぞ?」
ついでに、目を細めて軽く睨む。
今度こそ、本当に機嫌の悪い顔だ。
途端に、オティーリエの顔がひきっと引き攣った。
「あ、えっと、お茶にお呼ばれしただけですので、報告しなくてもよろしいかと存じましたので。」
ヨハンの目が徐々に細くなっていく。
オティーリエは引き攣った顔のまま。
でも、視線を逸らしたり、声を小さくすることは幼い頃から叩き込まれたお嬢様教育が許さない。
お嬢様教育という意味では、引き攣った顔を見せるのもダメだけれど、そこはヨハンが相手なのでオティーリエ的には大丈夫な範囲内。
「お嬢、いつも言っている通り、何かあってからじゃ遅いんだ。
どんなことでも、常に報告、連絡、相談は欠かさないように、と言ってるだろう?」
そう、ヨハンの言う通り、いつも言われているオティーリエにとって、耳にタコが出来るお話。
なので、そんな言葉は右から左に抜けていってしまう。
おかげでいつもの調子を取り戻したオティーリエは、引き攣った顔からお澄まし顔になって返事をした。
「はぁい、気を付けます。」
「それで、今、どんな状況なんだ?」
オティーリエの気のない返事に、ヨハンは溜息をつきながらも確認する。
結局、オティーリエはヨハンにここ三日ほどの出来事を全て話した。
「それで、明日、第二騎士団に確認して、どうするつもりだ?」
オティーリエの話を聞き終えたヨハンは、腕を組んだまま真顔で質問した。
「まずはお二人に話をしてみるつもりです。
後のことは、お二人次第ですね。」
「分かった。
お嬢、ウィリアムソン家には、もう使用人はいないんだな?」
「はい、一人も見ませんでした。」
「なら、念のため俺が近くで控えているから、何かあったら大声を上げろ。
いいな。」
ヨハンが組んだ腕を解きながらオティーリエを見て言った。
「ありがとう。
それでは、もしもの時はよろしくお願いしますね。」
オティーリエも、ヨハンのその申し出を断ったりしない。
心配してくれての言葉だし、それがヨハンの仕事でもあるのだから。
上流階級と言えばこの人。
ホルトノムル侯爵領内で、民間トップクラスに属する家の人です。
その人に事情を聞けて、少しウィリアムソン家について知った令嬢。
ちょっときな臭くなってきました
そして夜は従者にとってまさかの展開に。




