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3.ようやく一段落

月曜日の午前の執務の時間には、第二騎士団から魔獣事件の顛末について報告が上がって来た。

それによると、コレット・スペンサーは産業スパイであり、その手先として働いていた人物は全員捕らえたらしい。

スパイを潜り込ませていたのはネルガーシュテルト帝国。

証拠としては物証はなく関係者の証言のみ。


魔石については、レミリア・ミズリアードという国内中に販売ネットワークを持つ大商会の奥方が中央神殿から購入した物を提供したのだそうだ。

ただ、こちらについては罰しない、発表しないという条件で証言を得たので、配慮をお願いしますとのことだった。


関係者一覧と証言をはじめとする分厚い報告書が提出され、この案件は一領地の騎士団には手に余るということで、以降は侯爵様にお任せします、と一言付け加えられて、報告は終わった。

オティーリエは労いの言葉と共に報告書を受け取ったが、オティーリエも後のことは王都のエリオットに報告書を送って任せるつもりだ。


その日の午後、第二騎士団は魔獣事件解決の報告の記者会見を開いた。

すでに世間の興味はなくなっている事件だが、それなりの人数の記者が出席した。

その場で一番多かった質問は白騎士に関してだったが、白騎士については不明としていた。

この記者会見の様子は、翌日の新聞で、ごく小さく扱われただけだった。


 ◇ ◇ ◇


その日の夕食後。

習慣化してしまった新聞チェックのためにオティーリエは人払いをして、それからヨハンが新聞を持って部屋に入って来ると。

ヨハンはテーブルに向かいながらオティーリエに話しかけてきた。


「お嬢、旦那様から手紙だ。」


ヨハンはテーブルに新聞の束を置くと、それとは別に持っていた手紙をオティーリエに渡した。

当然、事前チェックが入っているので、封は切られている。


「ありがとう、ヨハン。

 お父様からですか?

 なんでしょう。」


言いながら、封筒から手紙を取り出して広げて見る。

その間に、ヨハンは椅子をオティーリエの横に持って来て座った。


「アーサーの転移の魔法陣が見つかったのですね。

 まさか、まだ残っているものがあるとは思いませんでした。」


ちょっと驚きの表情のオティーリエ。

ヨハンも、同意するように頷いた。


「20世紀も前の遺物だからな。

 岬の上っていうあまり人が寄り付かない場所の上に深い森の中だったのが功を奏したのだろうな。」


話しながら、オティーリエは手紙を丁寧に元のように畳んで封筒に入れて、テーブルに置く。

転移の魔法陣のある場所は、オリベール王国北側の海峡に面した岬の上にある森の中らしい。

鬱蒼と茂る木々の根っこの間を掘り返して念入りに調べたところ、魔法陣らしき跡があり、それを繋げてみると魔法陣と同じ紋様になったとのことだった。


「使えるかどうかは、現地に行って魔力を流してみて確かめないといけませんね。

 アーサーのメンテナンスルーム、あ、いえ、中央広場の地下から転移してみて、あちらの魔法陣が不完全な物でしたら、転移できずにどうなるか分かりませんから。」

「どうなるか分からない?」

「はい。

 転移の魔法陣で転移の出口側の魔法陣が機能しなかった場合は、この世ではない、どこでもない空間に転移してしまうそうです。

 実際にどうなるのかは、戻って来た人がいないらしいので、分からないのですけれど。」

「・・・そんな危険な代物だったのか。

 確か、前の時にはそんな説明はなかったと思ったが?」


ヨハンがじっとオティーリエを見る。

明らかに非難の目だ。


「アーサーに転移する際はアーサーに誘導されてのことでしたので、危険はありませんでしたよ。

 アーサーが転移する際も、動作することは分かっていましたし。」


実際のところ、オティーリエが転移の魔法陣がそんな危険な物だと知ったのは、アーサーから流し込まれた知識でだったけれど。

でも、アーサーが誘導してくれていたのだから問題はなかったのだろうし、オティーリエが転移出来たのだから、アーサーの転移も問題なかったはず。


それでも、ヨハンは疑わしそうな目を止めない。

その視線に、オティーリエは毅然と見返した。


先に折れたのはヨハン。

今、言い合っても、もう時が戻るわけではないのだから。


「まあいい。

 もう済んだことだしな。

 それよりも、現地に行って確認すれば、安全に転移出来るか分かるのか?」

「はい。

 あちらの転移の魔法陣を入口にする分には、魔力を流してみて動くかどうか確認すればよいだけです。

 操縦者が転移出来れば、アーサーの転移の魔法陣も動作しますよ。

 この二つはどちらが欠けても動かない仕組みになっていますので。」

「逆に言えば、現地に行かないと確認出来ないってことか。

 分かった、旦那様には連絡しておく。」

「いえ、お返事を書きますよ。

 一緒に、この辺りの事情も書いておきます。

 これを理由に北の岬にお出かけできるといいですね。」


オティーリエは指を組み合わせて、ちょっと楽しそうに言った。

しかし、ヨハンは首を振る。


「分かった、頼む。

 でも、お嬢がこの岬に行くことはないと思うぞ。

 この調査は極秘で行ったからな。

 お嬢が出向くとなればそれなりに目立つから、それはやらないはずだ。」

「ヨハンと二人だけで隠密に事を運ぶのはいかがでしょう?

 ヨハンが一緒でしたら危険はないでしょうし、とても楽しいと思いますよ。」


このお嬢様の天然ぶりをなんとかしてくれ、とヨハンは思った。

態度には出さなかったけれど。


「そんなこと出来るわけないだろう。

 夢見てないで、この話はこれで終わりだ。

 そんなことより、早く新聞チェック終わらせよう。」

「少しくらい夢見てもいいではありませんか。」


オティーリエは不満そうに言いながらも、新聞を手に取る。

ヨハンも新聞に目を通しだした。

この時、ヨハンにとってまさかの展開が待っていようとは、ヨハンは夢にも思っていなかった。

今回もすみません、第3話の内容に入れませんでした。

転移の魔法陣についての調査報告。

令嬢はいいこと思いついたとばかりに希望を伝えますが、従者はバッサリ切り捨てます。

うん、まあ、でも、従者の意見が正しいです。

一般的には。

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