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6.聞き込み調査とその顛末

オティーリエはそれから、改めて聞き込みをすることにした。

先ほどの情報から、ターゲットは早朝にこの裏路地の出入口の両側の通りを通る人達。

そして、そういった人達はすでに働き始めているだろう。

なので、オティーリエは早朝から働いているだろう人達を訪ねてみることにした。


まずは近くのパン屋さん。

街に住む人々の朝食向けに早朝から開店していて、すでにお客様のピークも過ぎている時間なので聞きやすいと考えて最初に訪ねてみた。

ただ、近く、と言っても、通りを3つくらい領都の中心方向に行ったところにあるので、あまり情報はアテに出来ない。


パン屋さんを訪ねた後、北大通り側に来たついでにグライユル・ブランに寄ってお昼ご飯時に部屋を予約してきた。

さすがに11時、12時は空いていなかったけれど、13時30分から20分間だけ空いていたので、そこを予約した。

・・・お昼ご飯時、と言うには少し遅いかもしれない。


次に、西門の詰め所に行くことも考えたのだけれど、さすがに遠い。

なので、そこは後回しにすることにして、オティーリエは再び事件現場近くに戻ろうとしたところ、途中でハイリに出会った。


「あ。

 ハイリさん、おはようございます。」

「あら、リーエさん。

 おはよう。

 ひょっとして、皮革職人殺人事件の捜査中?」

「はい、そうです。」


にこやかに挨拶を交わした後、そのオティーリエの返事にハイリは苦笑した。


「さすがの地獄耳ね。

 じゃあ、もうキャップには会った?」

「事件に遭遇したのはたまたまですよ。

 はい、ウォードさんにはお会いして、現場を見せていただきました。」

「そう。

 じゃあ、もうあたしが何をしに行ったかも聞いてるわね。

 これからキャップに報告するから、一緒に来る?」

「はい、ぜひ、お願いします。」


こうして、オティーリエはまた事件現場に戻ることになった。


 ◇ ◇ ◇


ハイリと一緒にオティーリエが事件現場に戻って来た頃には、すでに野次馬の人だかりはなくなっていた。

非常線はまだ張られていて警備の第二騎士団員もいて遺体も残っているけれど、鑑識はすでにいなくなっていて、ウォードとマシューは路地裏を出て裏通りの入り口に立っていた。

ハイリとオティーリエがやってきた時にはマシューが手に持っている手帳を見ながら二人で何かを話していたけれど、ハイリとオティーリエが近づいて来たのに気付いて挨拶代わりに片手を上げた。


「キャップ、聞き込みから戻りました。」

「ご苦労。

 リーエちゃんはやっぱり途中で合流したんだね。」

「はい。

 想定済みでしたか。」


ウォードの質問にオティーリエが小さく笑みを浮かべて頷く。


「リーエちゃんなら、きっと捜査してるだろうと思っていたからね。

 なら、ハイリと会うのも必然というものだよ。

 じゃあ、ハイリ、報告を頼む。」


オティーリエと同じく小さく笑みを浮かべて答えたウォードが、いつもの柔和な顔でハイリに報告を促した。


「はい。」


と答えて、ハイリはメモ帳を取り出して目を落とした。

マシューは少し微妙な顔をしたけれど、特に何も言わなかった。


「まず、妻の名前はマーガレット。

 柔和な雰囲気の、人の良さそうな夫人でした。

 娘二人は結婚して家を出ていますので、まだ会っていません。

 妻は被害者の訃報に接しても特に落胆した様子もなく、そう、と一言、ポツリと呟いただけでした。

 少々不躾ではありましたが、どうしてか理由を尋ねたところ、すでに夫婦関係は冷え切っていて、今は事務的な会話しかしていないという返事でした。

 その後の聞き取りも淡々とした様子で答えていましたので、嘘ではないと思われます。」

「被害者については?」

「外面ばかり良くて、と言っていました。

 それは自分もだけど、とも言っていましたけれど。

 それから、今朝の被害者の行動については把握していませんでした。

 いえ、今朝だけでなく、普段から、ですね。

 被害者は妻が置き出すより前に仕事に出かけ、帰宅も遅いので顔を合わせて連絡事項があればそれを伝えて、なければ特に会話もなく一日を終えるそうです。」


ウォードはハイリの報告を聞くと、ふむ、と頷いてからさらに質問した。


「被害者の近所の評判は?」


被害者の妻への聞き取り、という内容からは外れた質問だけれど、ハイリはきちんと聞き取りを行っていた。


「被害者は早朝から夜まで働き詰めのため、近所とはあまり接点はないようですが、評判はよいようです。

 休日などに革製品の修理などを頼むと、快く引き受けてくれていたとか。

 これは妻も同じで、二人の近所の評判は優しくて人当たりのいい人、というものでした。」

「夫婦関係については置いておいて、妻による犯行は考えにくいということだな。

 被害者の職場については何か言っていたか?」

「いえ、特には。

 行ったこともないようです。」


ウォードが苦虫を噛み潰したような顔になったけれど、すぐにいつもの表情に戻った。


「分かった。

 と、すると、後は娘二人と周辺の聞き込みだな。

 娘二人の方はハイリ、頼めるか。」

「はい。」

「マシューは周辺の聞き込みを。」

「はい。」

「僕は遺体の搬出と現場の片付けの指揮を執るから、しばらくは現場付近にいる。

 いなくなっていたら、庁舎に戻ったと思ってくれ。」

「あの。」


ウォードが指示を出したところで、オティーリエが横から声をかけた。


「リーエちゃん、どうかしたかい?」

「私もこの周辺の聞き込みをしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「ああ、それは助かるよ。

 頼めるかい?」


オティーリエの質問に、ウォードがマシューとハイリに合図をしてそれぞれ聞き込みに向かわせてから答えた。


「はい、それでは、マシューさんと逆方向の聞き込みをしますね。」

「よろしく頼む。」


オティーリエも、周辺の聞き込みを始めた。


 ◇ ◇ ◇


オティーリエは通り沿いのお家を手あたり次第に当たった。

とはいえ、呼び鈴を押してもなかなか出て来てもらえない。

おそらくは夫婦共働きのお家が多い、子供は学校かお手伝い、後は独身の家が多いのだろう。


ともあれ、そうやってオティーリエが聞き込みを行っていると、前方からヨハンがやってきた。

オティーリエはさりげなく自分からヨハンに近寄って行って、すれ違いざまにメモを渡した。

メモには、《13:30 グライユル・ブラン》と書いておいた。

これで、ヨハンはこの時間にグライユル・ブランに来てくれるだろう。


あるていど時間が経ったところで、オティーリエはウォードに報告に行った。

報告、と言っても収穫なしの報告になってしまったけれど。

ウォードはそんなもの、と笑って言うと、ちょうど遺体の搬出と現場の片付けが済んだということで、非常線も解除して第二騎士団の総合庁舎に戻って行った。


ウォードが総合庁舎に戻った後もオティーリエは粘って聞き込みを行ったものの、特に収穫はなく。


そのまま約束の時間になってしまったので、オティーリエはグライユル・ブランにやってきた。

従者といったん別れた令嬢ですが、聞き込みは空振りでした。

令嬢が自由に動けるのはあと半日。

タイムリミットが徐々に迫ります。

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