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3.情報屋との連絡係

オティーリエとルカは路地裏から出ると、お城に戻って第一騎士団の騎士団寮の応接室へとやってきた。

もちろん、ルカに先ほどのリュヌとの話の説明をするため。


今日の第一騎士団は領主様帰領祭に乗っかって、修練場に観客を入れて公開訓練。

朝から1時間おきにやっている。

だけれど、ルカは第一騎士団員ではないので、その訓練はお役御免。

非番だったので、街に出ていたのだった。


「で、どういうこと?

 なんか僕の扱いについて話してたよね?」

「はい。」


次の瞬間、オティーリエの雰囲気がガラリと変わった。

家女中のリーエではなく、オティーリエ・セラスティア・ロートリンデとして話をするから。

髪と瞳はリーエのままなのに、その面影はなくオティーリエにしか見えない。


そのオティーリエの雰囲気の変化に、ルカが背筋を伸ばし、表情を引き締める。


「ホルトノムル侯爵令嬢の騎士ルカ=テリオス・ベルナール。

 貴卿にギルド、キャット・ウォークとの連絡係に任命します。

 今後、指示のある時にはキャット・ウォークに出向き、情報のやり取りを行って下さい。」


騎士としての仕事の任命、だったのだけれど、なんだか騎士らしくない仕事に、ルカはちょっと眉をひそめた。。


「色々と説明して欲しいんだけど、まず最初に。

 連絡係って、騎士の仕事じゃなくない?」

「立派な騎士のお仕事ですよ。

 まず、連絡係を務めていただきたいギルドは、その存在自体が秘匿されています。

 城内でこのギルドをご存じなのはルカ様のみです。

 ですので、この連絡係というのは、他の方に任せられないのですよ。」


その答えに、ルカは閃いた。

その表情に理解が広がっていく。


「分かった、この前の情報を持って来た所だね?」

「はい、その通りです。」


この前の情報、と言うのはホルトノムル侯爵領に潜入しているヴァイス・シュヴェーアトの諜報員の情報のこと。

それで、合点がいったとばかりにルカが頷いた。


「つまり、姫さんは城内では姫さんだけしか知らない情報屋との連絡係が欲しくて、唯一、信頼出来る騎士である僕に依頼したということだね。

 なるほど、確かに忠誠を誓った騎士にしか出来ない仕事だね。

 分かった。

 いや。」


ルカは右腕を胸の前に沿えて、背筋を伸ばしたまま、一礼した。


「オティーリエ・セラスティア・ロートリンデ様の騎士ルカ=テリオス・ベルナール。

 その任、確かに拝命いたしました。」

「ありがとう存じます。」


それから、オティーリエはルカにキャット・ウォークについてや場所、行き方などを説明した。

特にガブリエルを始めとするキャット・ウォークの関係者については念入りに。


「最後に、出来れば明日にでも、一度キャット・ウォークをご訪問下さい。

 おそらく、ルカをお待ちになられていると思いますので。」

「承知いたしました。

 明日、キャット・ウォークを訪問するように致します。」

「よろしくお願いしますね。」


と、言ったところで、オティーリエは態度を変えた。

家女中のリーエだ。


「それでは、ルカ様、これで失礼させていただきますね。」

「ちょっと待って。」


態度を変化させたオティーリエに合わせて、ルカも態度を崩した。

この程度の対応も、もう慣れたもの。

もともと、こういった柔軟性が求められる対応は得意な方だし。

ルカとしてはごっこ遊びに付き合っている感覚があることは否めないけれど、自分が仕えることを決めた人物はこういう人物なので、そこはこちらが付き合ってあげなくてはならない。


「なんですか?

 デートのお誘いはお受け出来かねますよ。」

「なんで姫さんをデートに誘わないといけないんだよ。

 って、そうじゃなくて。

 あのリュヌって人とかキャット・ウォークとかと、予め連絡取ってたの?

 許可を貰ってる、とか言ってたけど。」

「いえ、そのようなことはしてません。

 今日、ルカ様にお会いしたのは偶然ですし、キャット・ウォークとの連絡係をお願いさせていただこうと思いついたのも、あの時です。

 あそこの方々は時々、信じられないことをされるんですよね。」


オティーリエが肩を竦めると、ルカはよく分からないといった顔で片眉をひそめた。


「なんか操られてるような気がしちゃうんだけど。」

「その感覚は理解出来ます。

 そうですね、いちおう、理論的な理由付けも出来ますよ。」


そう言うと、オティーリエは右手の人差し指を立てて、生徒に教える教師のような態度で説明した。


「キャット・ウォークにはこの街のあらゆる情報が集まっています。

 その情報の中には、当然、お城に関する情報も含まれます。

 キャット・ウォークでしたら、ホルトノムル侯爵令嬢の領内へのお披露目が来月に行われることは把握されているでしょうから、そこから推論が成り立つと思いますよ。」

「推論?」


意味が分からなかったルカが、鸚鵡返しに尋ねる。


「はい。

 お披露目が行われるということは、その準備期間も含めまして、ホルトノムル侯爵令嬢はしばらく街に出ることが出来ないということです。

 それから、来年は議会に向かうお父様と一緒に議会の開催期間と社交期間、つまり2月から8月までは王都のタウンハウスに向かうことになりますので、キャット・ウォークを訪れることも出来なくなります。

 つまり、キャット・ウォークとの連絡係が必要になるということですね。」


オティーリエの説明で、今度こそルカも理解出来た。

納得したように頷く。


「なるほどね。

 確かにそう考えると、推測したという話も納得だよ。」

「ですけれど、リュヌさんが占った結果というのも捨てきれませんよ。

 リュヌさん、ご自身が許可を得たという言い方をされていましたから。」

「なんかそれ、怖いんだけど。」


ルカが眉を顰めると、オティーリエはクスクスと笑った。


「いずれにしましても、キャット・ウォークの方々は悪い方ではありませんよ。」

「そうかもしれないけどさ。

 得体は知れないよね。」

「素晴らしい能力をお持ちの方々だとは思っています。」


オティーリエの答えに、ルカは軽く溜息をついた。


「分かったよ。

 ところで、ちょっと気になってたんだけど、一つ聞いていい?」

「なんですか?」

「姫さんは来年の2月から8月の間は王都にいるんでしょ?

 じゃあ、ひょっとして僕は定期的に王都とここを往復するってこと?」


悪戯に気付かれた、とばかりにオティーリエはちょっと舌を出した。

それから。


「はい。

 そういう訳ですので、よろしくお願いしますね。」


にこやかに笑みを浮かべて言う。


「そういう訳って・・・まあ、いいや。

 分かった。

 なんか食い下がっても仕方なさそうだし、一度言っちゃったからね。

 引き受けるよ。」


それに、ルカは本当に疲れたとばかりに脱力した。

キャット・ウォークとの連絡係確保、です。

キャット・ウォークは令嬢にとって貴重な情報源、関係を保っておきたい相手なので、こうなりました。

ルカはお疲れ様でしが、王都からホルトノムル侯爵領都までは軌上鉄道で半日ほどの距離。

休暇も兼ねての任務になる予定です。


ちなみにルカはそこまで気付きませんでしたが、オティーリエはタウンハウスに行く時は、ルカを騎士として連れて行くつもりです。

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