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2.占いの館

エリオットが王都に行っている間は、オティーリエは一人で食事を摂っているので、昼食をエリオットと一緒に摂れるだけでもオティーリエにとって、とても嬉しいこと。

なので、オティーリエは昼食の間中、ずっと上機嫌だった。

いや、昼食の間中、だけでなくエリオットが帰ってきてからずっと上機嫌なのだけれど。


エリオットが挨拶のために中央広場へ出かける時間になると、オティーリエは自室に戻ってリーエの恰好に着替えた。

そして、そのまま、お城を抜け出す。

まあ、お城の使用人達はいつものこと、と気にしないし、なんならヨハンとメイが護衛に付いて来ているけれど、そこは気にしない方向で。

夕食の準備については、概要はオティーリエが決めて、後の準備は家政婦長にお願いして来た。

今日のような日なのだから、と家政婦長も快く頷いてくれた。


オティーリエはお城を抜け出すと、まずは中央広場に向かった。


そこはもう人がごった返していて、入り込む隙間もないほど。

もともと、人通りの多い場所なのだけれど、今日はいつも以上。

人の流れに沿って、流れに任せて進むしかない。


露店もいつも以上に出ていて、その扱っている物も多彩。

いつもなら主に軽食やお菓子の露店にわずかに土産物の露店が並んでいるのだけれど、今日は軽食やお菓子の種類も増えて、土産物だけでなく射的などの遊戯系の露店も出ている。


それから、その中央広場の神殿の前には、演壇が用意されていて、そこで、エリオットが帰領の挨拶を行う。


『領主はずいぶんと慕われているようだな。

 素晴らしいことだな。』

『はい。

 自慢のお父様ですもの。』

『今後、近くでその人となりを見れるのが楽しみだ。』


もっとも、この光景も毎年のものなので、オティーリエも慣れたもの。

スイスイと人の流れの間を縫って、演壇の前に出ると、そこに根を張ったように陣取った。

人混みで護衛に苦労しているだろうヨハンとメイにはごめんなさいと心の中で謝りつつ。


そうしてオティーリエが少し待っていると、エリオットが乗る車がお城の方からやってきた。

それを見て、入口から演壇までの道を塞いでいる人々が、騎士の声かけなどしなくても自主的に道を開ける。

そして、中央広場中の人々が動きを止めてエリオットの車に注目した。


そうしてエリオットの乗る車が演壇までやって来ると、中からエリオットが出て来た。

ワッと大きな歓声が上がる。


エリオットはその歓声に応えるように笑みを浮かべて片手を上げると、さらに一際大きな歓声が上がった。

その歓声の中を、エリオットは演壇に向かう。


その途中で、エリオットがオティーリエを見た。

オティーリエはリーエの恰好をしているけれど、そんな変装くらいで娘を見間違うエリオットではない。

エリオットはオティーリエに向かって小さく頷くと、オティーリエも笑顔で頷きを返した。

毎年、この日はオティーリエはお城を抜け出して、必ず演壇の一番前にいる。

だから、エリオットもそれを分かっていて、毎年楽しみにしている。

そうした小さな親子の触れ合い。

直前まで一緒にいたのだけれど。

それはそれとして、二人とも、この触れ合いを大切にしているのだった。


 ◇ ◇ ◇


エリオットの演説が終わると、オティーリエはお城に帰る・・・というわけでもなく。

オティーリエは、まずはこの中央広場の露店を見て回った。

いつもとは違う物も売っているので、見て回るだけでも楽しい。

人が多くいるだけにトラブルが発生している場所もあったりしたけれど、第二騎士団がきちんと対応していた。


と、その途中。

甲高い子供の泣き声が聞こえてきた。


「ママ―、ママー!

 どこー?!」


迷子のようだ。

オティーリエがその声のする方に向かうと、ひょこ、と小さな男の子が人混みから上に顔出した。


「この子のママはいらっしゃいませんか?」


どうやら、誰か親切な人が迷子の男の子の母親を探し始めてくれたようだ。

それに安心したオティーリエ。

ただ、母親に呼びかける男性の声には聞き覚えがある。

と、いうわけで、オティーリエは男の子を目印に近づいてみた。


果たして、その男性はルカだった。


オティーリエが声をかけずに近くでルカと男の子を見ていると、母親は近くにいたらしく、すぐに二人に近寄って来た。

それから、母親は男の子を抱っこして受け取ると、何度もお礼を言いながら、ルカから離れて行った。


「ルカ様。」

「わ!」


オティーリエは母親と子供を手を振って見送るルカに、背後から声をかけた。

背後から声をかけたのは、たまたま。

ルカに近付いたのが後ろからだったから。

なのだけれど、それが結果的にルカをびっくりさせたようで、ルカは驚いた声を上げてから、バッと振り向いた。


「なんだ、ひ・・・リーエさんか、久しぶり。」


姫さん、と言いかけたルカを、オティーリエがそれをしーっと人差し指を口に当ててそれを止める。


「ルカ様、お久しぶりです。

 迷子のお母さん探しとは、さすが、お優しいですね。」

「ん、まあ、このくらいはね。

 リーエさんは・・・まあ、このお祭りを見に来たってとこ?」

「いえ、どちらかと言いますと、領主様のご挨拶を観に来ました。」


中央広場の出口に向かって、二人で並んで歩き出しながら会話を続ける。


「わざわざ?

 なんでまた。」


ルカにしてみれば、父親には普段から会ってるだろうに、この人混みの中をわざわざ父親の挨拶を観に来るのは、ちょっと意味不明。


「家族の晴れの舞台を観に来るような感じ、と言えばご納得いただけますか?」


オティーリエがちょっと下から覗き込むようにして言う。

まあ、ルカの方が背が高いので、必然的にそうなるのではあるが。


やっぱこの姫さん可愛いじゃないか、とルカは思っていた。

それを補って余りあるほどに個性的ではあるけれど。


と、それはさておき。


「まあ、そういうことなら。」


完全に納得したわけではないけれど、そういう家族もあるかと思って、とりあえずルカも頷いた。


オティーリエはここでルカと会ったことで、ちょっと思いついたことがあった。

それは、キャット・ウォークとの連絡係をルカにお願いすること。

なにせ、この先、お披露目が行われると街に出て来る機会は減るだろうし、毎回、ヨハンが付いて来るようになるだろうから、自分で足を運ぶのはなかなか難しくなるだろう。


なので、オティーリエは中央広場から少し離れた路地裏で商売をしているだろう占い師をルカを伴って訪ねることにした。


「ところで、ルカ様。

 占いなどご興味はおありですか?」

「占い?

 いや、僕はあまり。

 でも、リーエさんが興味あるなら、一緒に行くよ。」

「ありがとうございます。

 それでは、参りましょう。」


 ◇ ◇ ◇


ヨハンとメイにバレないように、ルカに他の場所を案内しつつ、オティーリエは目的の路地裏にやってきた。

その路地裏の奥では、どこか怪しげな雰囲気の露店が店を出していた。

看板は出ておらず、外側全て黒と紫の幕で覆われた小さな露店。


「なんか怪しさ満点じゃない?」

「腕は確かですよ。」


その占い師は、普段は気の向くままにお店を出すので、どこにいるのか見つけるのは難しい。

しかし、この日。

領主様帰領際(ホルトノムル侯爵領商工会議所による命名)の時だけは、ここにお店を構える。

この占い師に用が出来たオティーリエにとって、まさに渡りに船の状況。


オティーリエはルカに笑顔で答えると、その露店の幕を開けて中に入った。


 ◇ ◇ ◇


露店の中はキャンドルの薄暗い灯りに照らされていた。

お香も焚かれているようで、どこか不思議な香りが鼻をくすぐり、雰囲気満点。

ルカも楽しむ気持ちになったようで、楽しそうな表情だ。


『占いの館というものは、時代を問わず同じような物なのだな。』

『アルビオン皇国時代にも占いはあったのですか?』

『ああ。

 そして、占いをする場所というのは、往々にしてこのような場所だった。』

『アーサーは何か占っていただいたことはあるのですか?』

『いや、私はない。

 過去の主に占い好きの者がいたということだ。』


正面にはやはり黒と紫のクロスを敷いた卓が置かれ、その上には水晶玉が置かれていた。


そして、その卓の向こう側。

黒い服を着て、紫の裏地の黒いベールを目深に被った占い師が座っていた。

今、占い師は客はいないにも関わらず、タロットカードを使って何かを占っている。

その占い師の様子を見て、オティーリエは人差し指を口に当てて、しーっとルカに占い師の邪魔をしないように合図をした。

それに、ルカも頷く。


少しして、占い師がタロットカードを繰る手を止めると、わずかに視線を上げた。

それでも、被ったベールが深すぎて、顔の目より上は見えない。

その、わずかに見えている口が艶めかしく開いた。

ルカの視線が、思わずその口元に吸い寄せられる。


「久しぶりね、お嬢様。

 今日、ここに来ることは分かっていたわ。」

「ですよね。

 では、この人のこともお分かりですよね?」

「ええ。

 でも、出来れば自己紹介はしてもらえるかしら?」


ベールで目は見えないものの、占い師がルカを見たことは視線を感じて分かった。

ルカは占い師の、まるで自分の中を全て見通すような視線に緊張して、思わず背筋を伸ばす。

そして、それで固まってしまった。


「ルカ様、自己紹介をお願いします。」

「あ、は、はい。

 ルカ=テリオス・ベルナールです。

 よろしくお願いします。」


オティーリエに言われて、ルカが少し慌てた様子で名乗る。


「お嬢様の騎士。

 連絡役ね?

 ガブリエルからは許可を貰ってるわ。」


ガブリエル、というのはキャット・ウォークのギルドマスター。

この占い師はキャット・ウォークのエージェントの一人で、リュヌ。

もちろん占い師が本業で、占いでキャット・ウォークの仕事をするかしないかを決めているらしい。

オティーリエは一度、人探しの手伝いをキャット・ウォークに依頼した時に一緒に行動したことがあって、ベールを取れば長くて真っ直ぐな黒髪に黒い瞳を持った目の覚めるような美人さん。

その人探しの途中で暴漢と揉めた際、タロットカードを投げて暴漢を気絶させていた。


そして、このリュヌこそが、幼いオティーリエにキャット・ウォークを紹介した人物だった。


「それでは、今度、ご挨拶に伺わせますね。」

「ええ。

 そうして頂戴。」


オティーリエはリュヌに近づいて、卓の上にコインを1枚置いた。

もちろん、キャット・ウォークでの支払いに使う純金製のコイン。


「どうもありがとうございました。

 それでは、これで失礼します。」

「ええ。

 また会えるのを楽しみにしているわ。」

「私もです。」


そうして、緊張したまま訳の分かっていないルカを促して、オティーリエはリュヌの露店を後にした。

ルカと偶然出会って、ある思い付きから占いの館にやって来ました。

そこではルカ本人をそっちのけで色々な話が進んで。


ルカへのフォローはもちろん、後で令嬢が行います。

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