1.領主の帰領
オティーリエとヨハンが旅行から帰って来た翌日。
7月最後の日。
この日は日曜日だったので、オティーリエは午前中は礼拝堂に日曜礼拝に行き、日曜礼拝が終わってからは簡単な昼食を取っただけで、エリオットのお出迎えの準備に追われた。
2月から議会に参加するために王都に出向いていたエリオットが、明日、ホルトノムル侯爵領に帰って来る。
領地を挙げて盛大にお出迎え、などということは現代ではもう行っていないけれど、それでも半年もの長い期間、領地を離れていた領主を迎えるのだから、少なくともお城の中では盛大にお出迎えをする。
お出迎えの準備はオティーリエが家政婦長を補佐にし指揮を執る。
本来なら2月頭から7月末の時期は領主一族は全員でタウンハウスに赴き、議会や社交を行うものなので、お出迎えはお城の行事とはいえ、領主一族の仕事ではない。
しかし、エリオットはセラスティアとオティーリエを王都に近づかせたくないようで、一度もタウンハウスに連れて行かなかったので、セラスティアはこのお出迎えを重要なお城の行事と位置付けて、自ら準備をしていた。
もちろん、幼いながらもオティーリエも手伝っていて、セラスティアが亡くなってからは、毎年オティーリエが指揮を執っていた。
この準備は1ヵ月をかけて行う。
とは言え、今年は最後の一週間にセレスフィアからのお誘いで旅行に行くことになったので先週までの時点で形は作り上げて、残りは家政婦長にお願いして準備を進めておいてもらった。
今日の午後は、最後の確認。
お城中を歩き回って、清掃がきちんと行き届いているか、飾りつけはおかしくないか、騎士達の準備状況や、各責任者の頭の中に当日の段取りが入っているか、料理や飲み物の準備は整っているか、演奏家の手配は出来ているか等々。
今日は日曜日ながら、お城の使用人は休日返上で準備作業中。
ちなみに、大広間の壁に、宝物庫の剣と盾はかかっていない。
お出迎えの時は毎年かかっていなかったので、オティーリエとしてもそれは納得なのだけれど、だとすると、ファビアンはどうして剣と盾の儀式を行っていたのか、まだ分からないけれど。
結局、オティーリエは夕食の時間も遅らせて、なんとか必要な確認を終えた。
◇ ◇ ◇
オティーリエはお城の飛行場で、エリオットを出迎えた。
飛行場の領主一族専用の駐機場には二列に近衛騎士団の騎士達が並ぶ。
二人はホルトノムル侯爵領の紋章が描かれた旗を持ち、さらに後ろに並ぶ騎士達は銃剣を着剣した小銃を持って領主の帰宅を待っていた。
騎士のさらに後方、飛行場の出入口には入口の左右に横一列にお城の全使用人達が並ぶ。
『壮観だな。
騎士達も使用人達も、練度の高さが窺える。』
『アーサーのお褒めに与り光栄です。
ホルトノムル侯爵領自慢の騎士と使用人達ですもの。』
そして、その出迎えの列の先頭はオティーリエ・セラスティア・ロートリンデ。
今からホルトノムル侯爵領に帰還するホルトノムル侯爵エリオット・ロートリンデの一人娘。
凛とした面差しに昂然と胸を張って、エリオットの操縦する飛行機がやって来るのを待つ。
その出迎えの列の前に、一機の飛行機が飛んで来たかと思うと、滑らかに着陸して来た。
長距離を飛ぶための単葉機。
胴体にホルトノムル侯爵領の紋章が描かれている。
エリオットだ。
お供など引き連れず、一人で帰ってきたらしい。
もっとも、これはいつものこと。
エリオットと一緒に移動する使用人達は今頃、王国縦断鉄道の軌上鉄道で荷物と共に移動中だろう。
オティーリエを始めとする出迎えの者達の前で、その飛行機はバウンドなどしたりせず、きっちり3点着陸で着陸すると、滑るように出迎えの列の前にやってきた。
飛行機が停止すると、オティーリエはカーテシー、騎士達は捧げ銃の姿勢、それから使用人達は男性は左腕をお腹に沿わせ、右腕を背中に回して礼をし、女性は両腕をお腹に沿わせて礼をした。
そうして、出迎えの列が全員、礼の姿勢を取ると、飛行機のコクピットの扉が開き、エリオットがコクピットから翼の上に出て来た。
そして翼から地面に軽快に飛び降りると、パッとゴーグルを取ってヘルメットを脱いだ。
「出迎え、ご苦労!」
エリオットがそう声をかけると、オティーリエは頭を上げ、騎士達は銃を降ろし、使用人達も頭を上げる。
「ごきげんよう、お父様。
ご機嫌麗しゅう。
お帰りなさいませ。
ご無事のご帰宅、嬉しゅうございます。」
オティーリエはエリオットに近づくと、笑顔でそう挨拶をした。
「ただいま、オト。
その、なんだ、いつもの挨拶はどうした?」
エリオットの方は、少しそわそわした様子。
それに、オティーリエは、ん?と首を傾げた。
「いつもの、ですか?」
「そうだ。
いつもは可愛らしく抱き着いてくるではないか。」
オティーリエはなるほど、と内心頷きつつ、笑顔のまま答えた。
「お父様、もう幼子ではありませんの。
お父様とは申しましても、安易に殿方に抱き着いたりいたしませんわ。」
「・・・そうか。」
エリオットは残念そうにしながらも、頷いた。
それを見て、オティーリエはさらに笑みを深めた。
それから、そっとハグする。
「ですけれど、家族としてのハグは当たり前ですわね。
お父様、議会と社交のお勤め、お疲れ様でした。」
「うむ。」
エリオットは相好を崩すと、オティーリエをそっとハグした。
オティーリエの気持ちを尊重して、ぎゅっと抱きしめたりはしない。
この親子の抱擁を、ある者は暖かく、ある者は生暖かく、またある者は笑いをこらえて。
後ろに控えている者達は見つめていた。
ハグを先に離したのはオティーリエ。
エリオットの腕の中から出ると、その手を取って引いた。
「さ、お父様。
このような所で立ち話もなんですので、お城に入りましょう。」
「そうだな。」
エリオットは小さく答えると、オティーリエの手をエスコートするように持ち直して、歩き出した。
オティーリエもエリオットの横に付いて歩き出す。
近衛騎士団はザっと一斉に捧げ銃の態勢を取り、使用人達も先ほどと同じように礼をした。
近衛騎士団の列の間を通り抜けて、エリオットとオティーリエの親子はお城へと向かった。
◇ ◇ ◇
この日はお城を挙げての歓迎会。
お城の各所を飾りつけして、お仕事もお休みしてパーティー状態。
一般開放している箇所も今日は無料開放。
他にも中央広場でお城から出張した使用人達が無料で炊き出ししたりなんかもしている。
と、言う訳で、お仕事もお休みして、と言っても休んでいるのは行政組織側で、お城の使用人は大忙し。
それから、お城からは特に指示を出したりしていないけれど、お祭り体質の領都民は領主様ご帰領記念と称してお祭り騒ぎをしていたりする。
このため、午後半ばにはエリオットも中央広場に顔を出して軽く挨拶をするのが恒例。
この時、オティーリエは付いて行かない。
ただ、オティーリエも来月に領内へのお披露目を控えているので、来年からはエリオットと一緒に顔を出して挨拶をすることになるだろう。
とはいえ。
まあ、お祭り騒ぎの街にオティーリエが繰り出さないハズもなく。
今日もオティーリエはリーエの姿でお城を抜け出しているのだった。
お待たせしました。
ようやく第13話のラストまでの目処が付きましたので、投稿を再開させていただきます。
ただ、第13話からは平日毎日投稿ではなくて、火/金の週二回投稿にしようと考えています。
とりあえずその1回目です。
このまま週2回投稿を続けるは様子を見つつ決めたいと思います。
第13話の始まりです。
第13話は、領主の帰領とそれにまつわるお話で始まりますが、その後はいつものお話になります。
領主が帰ってきて、今後、お城での生活は様々に変化していきます。
よろしければ、今後の励みになりますので、評価、ブクマ、感想等よろしくお願いします。




