おまけ.少女達の出会い
オティーリエは今日、母親のセラスティアに連れられて、お忍びで街の中央広場の南側にある神殿にやって来ていた。
オティーリエは侯爵令嬢。
周囲の人に知られると大変な騒ぎになることは、4歳ながらもよく分かっていたので、フルネームを名乗ったりなんかしない。
でも、今、オティーリエは大声で叫び出したくなっていた。
何故かと言うと。
お母様がいない。
手を繋いでいたはずなのに、いつの間にか離してしまっていた。
オティーリエは何かに夢中になると周囲が全く見えなくなってしまう。
今日は黒猫を抱っこしたお姉さんがいて、その黒猫に興味を引かれて付いて行くうちにお母様から離れてしまっていたらしい。
こうなっては大変。
なにせ、お母様もオティーリエも、お互いの名前を大声で呼ぶ訳にはいかない。
呼んでしまえば、領主夫人と領主令嬢がいることがバレてしまう。
なので、オティーリエは声を出さず、必死でお母様を探していた。
黒猫を連れたお姉さんのことなど、とうに頭の外側に飛んで行ってしまっている。
キョロキョロと周囲を伺いながら大人達の足の間をすり抜けるように移動する。
そうしているうちに。
「セ・ス・・ア。」
お母様の名前を呼ぶ声が小さく聞こえてきた。
オティーリエはその声がした方にパッと駆け出す。
必死すぎて、お母様の名前を呼ぶ人は、ここにいるはずがないということに気付かないまま。
◇ ◇ ◇
オストライヤ家当主夫妻と末娘のセレスフィアは、今日、初めて城塞都市内の神殿の日曜礼拝にやってきていた。
普段は西の壁外の教会に行っているのだけれど、たまには壁中の人と交流するために。
もちろん、交流するのは親の話で、子供は付いて来るだけだ。
今、父親が話をしているのは、ホテルをいくつも経営している、このホルトノムル侯爵領都でも有数の富豪家であるオスター家の当主だ。
オスター家も当然、家族で来ていて、夫婦の他に息子が一人に娘が二人、来ていた。
ただ、オスター家はここに来慣れているようで、息子と娘二人のうちの姉の方は、友達とどこかへ行ってしまっていた。
残っているのは、妹だけ。
その妹は、母親のスカートの陰から、チラチラとセレスフィアの様子を伺っている。
セレスフィアは6歳。
そして、セレスティアの記憶に間違いがなければ、オスター家姉妹の妹の名前はセリアで、壁外の学校では教育レベルが低いからと壁中のジュニアスクールに通うセレスフィアとは同じ学校に通っているはず。
はず、と言うのは、クラスが違うので顔を合わせたことはないため。
セレスフィアは顔を合わせたことはなくても、上流階級に所属している家のことは把握している。
そういう意味では、セリアの方もセレスフィアのことを知っているのだろう。
このようなことを比べても仕方がないとはいえ、家格はオストライア家の方が上。
だから、セリアは話しかけずらそうにしているのかもしれないとセレスフィアは思った。
そして、それなら、自分から話しかけるべきだろうとも。
そうして、セレスフィアがセリアに声をかけようとしたその時。
「セレスフィア。」
父親がセレスフィアを呼ぶ声が聞こえた。
「はい、お父様。」
顔を上げて、父親の顔を見ながらセレスフィアが答える。
どうやら、オスター家の当主との会話は終わったようだ。
父親がさらにセレスフィアに声をかけようとしたその時。
目の前の人混みの間から、どうやって出て来たのか分からないほど突然に。
天使が現れた。
宝石のようにキラキラした翡翠色の髪、愛らしく純粋なその顔立ち。
まるで、背中から天使の羽根が生えているかのよう。
その天使は。
キョロキョロと周囲を見回した後。
「あれ、お母様、いない・・・。」
と言って、ペタンとそこに座り込んでしまった。
それから。
緊張の糸が切れてしまったように、わっと大声で泣き始めた。
◇ ◇ ◇
ノシェは信心深い両親に育てられているおかげで、日曜礼拝には毎週、欠かさず参加していた。
そして、月最後の日曜日だけは壁中の神殿で行われる日曜礼拝に参加するために、神殿にやってきていた。
とはいえ、壁外ならともかく、壁中にはノシェの知り合いなどいない。
なので、両親にくっついて歩きながら、頭の後ろに両手を回して、退屈そうに歩いていた。
女の子がする仕種ではないと最初の頃は怒られていたけれど、今はもう両親も諦めて何も言わなくなった。
ノシェは友達が男の子ばかりの影響か、男勝りの性格で遊びも棒を持って走り回るようなことばかりしている。
でも、困っている子がいれば声をかけずにはいられない心優しい女の子であることも、両親はきちんと知っている。
そのノシェの耳に、小さな女の子のものらしい、甲高い泣き声が聞こえてきた。
ノシェは両親が止める間もなく、泣き声の聞こえた方へ駆け出して行った。
◇ ◇ ◇
セレスフィアは、突然泣き出してしまった天使のような女の子に思わず駆け寄った。
セリアも同じ。
その女の子に目を奪われて、泣き出してしまったことに驚いて、思わず母親のスカートの陰から出て来て、セレスフィアに一拍遅れて駆け寄る。
その女の子は、もちろんオティーリエ。
オティーリエはお母様の名前を呼ぶ声を追ってきたのに、そこにお母様がいなかったことで緊張の糸が切れて、座り込んで泣き始めてしまったのだった。
でも。
「お母様とはぐれてしまったの?
どこら辺で?」
美しい銀色の髪を持つ綺麗な女の子と。
「大丈夫?」
青緑の髪と瞳の可愛らしい女の子が、話しかけて来てくれた。
そのことで、ハッと我を取り戻したオティーリエは、ビクッと反応すると、すぐに泣き止み、涙を拭って立ち上がった。
気持ちを落ち着かせるために、スカートについた埃をパッパッと払う。
そして、笑顔を浮かべて声をかけてきてくれた二人の女の子にお礼を言おうと口を開いた、その時。
「何かあった?!」
鮮やかな赤色の髪を男の子のようにショートカットにした、パッと見ると綺麗な男の子のようにも見える女の子が、その場に駆け込んで来た。
こうして。
この後の人生を変わらぬ友誼を結ぶ4人の少女達は出会ったのだった。
◇ ◇ ◇
ちなみに。
大人達もただ娘達に女の子のことを任せていたわけではなくて。
娘達が女の子の相手をしている間に母親を探して回っていて、そのおかげで無事に親子は再会出来たのだった。
第13話の投稿まで少し間が空きそうですので、おまけの追加です。
本当でしたら第5話か第11話の後に入れた方がよさそうなお話ですが、ちょっと穴埋めにこのタイミングで投稿させていただきました。
みんなとの旅の終わりというタイミングではありますので、ギリギリOKとさせて下さい。
第13話は申し訳ございません、もう少しお待ち下さい。




