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7.司祭と弟と恋人の話

アントワーヌの話を聞いたサミュエルは、そんなことがあったのか、と呆然と呟いた。

サミュエル自身はバディであるフィリベールが怪我で動けないため、1人で2人分の仕事をこなすのに精一杯で、たまにフィリベールの見舞いに行くのみだったのだ。

そして、フィリベールがようやく完治したとされて教会を出て来て、それから1ヵ月はサミュエルと一緒に普通に仕事をこなしていた。

ただ、仕事のない時間でも休むことなく何かを調べていることはサミュエルも気付いていたが、必要になれば言ってくれるだろうと思って、特に何も聞かなかった。

そして、1か月後。

フィリベールは国家機密、つまり機密情報院の諜報員の情報を漏洩したとして逮捕されたのだった。


サミュエルはそれから、フィリベールの無実を証明するための証拠集めに奔走した。

しかし、重大犯罪者として肝心のフィリベールに面会も叶わず、それどころか収容された刑務所から別の刑務所へ移されたことを知って、今度は必死にフィリベールの居場所を探した。

その捜索の中で引っ掛かったのが、今回の護送だった。


「その情報を流したのは僕ですよ。」

「な!」


表情のない顔のまま言うアントワーヌを、サミュエルが驚愕の顔で見た。


「ジュリエッタさんの居場所が掴めたのですね?」

「鋭いですね。

 優しい上に賢い。

 素晴らしいお嬢さんですね、あなたの妹さんは。」


オティーリエが質問すると、アントワーヌは混ぜ返すようにヨハンに言った。

ヨハンは、その軽口には答えず、先を促すようにじっとアントワーヌを見つめた。

アントワーヌは、そのヨハンの視線にも動じずにオティーリエに視線を移した。


「その通りです。

 姉さんは、当初の予定通り、テネーブル男爵領にある医術研究所にいたのです。

 ただし、表向きは研究所にはいません。」

「死者蘇生の力を探るために地下に拘束されている、ということですね?」


オティーリエのその言葉に、アントワーヌの能面のような顔が崩れた。

驚愕の表情を浮かべている。


「どうして、それを?」

「乙女には色々な秘密があるんです。

 それを暴こうだなんて、紳士の振る舞いではありませんよ。」


オティーリエが悪戯っぽい顔で言うと、アントワーヌが今度は、は?と気の抜けたような顔になった。


「それ、今言うセリフじゃないだろ。

 いや、そんなことより、ティリエ、そこの情報は俺も知らない。

 説明してくれないか。」


言葉を失ったアントワーヌの代わりに、ヨハンがツッコミを入れつつ、オティーリエに説明を求めた。


「うん。

 えっとね、テネーブル男爵領の医術研究所って、名前の通り、医術を研究している研究所なの。

 運営の主体は教会で、いくつかの貴族と、庶民院の有力議員達が出資してる。

 研究所は大きなお屋敷で、テネーブル男爵領内の病人や怪我人を診て、医術を磨いている、というのが表向きなんだけど。」


と、オティーリエはここで一度、言葉を切った。

ヨハンだけでなく、サミュエルとアントワーヌまで真剣な表情で聞いている。


「実は地下があって、そこでは非人道的な研究が行われているらしいの。

 例えば、生きた人間からどれだけ血を抜けば死に至るのか。

 どれだけ運動を続ければ死に至るのか。

 一度切り落とされた四肢は接合するのか、とか。

 そんな研究。

 そして、地下に送られた人間は、もう地上に戻ってこれないって。

 ただ、そんな所だから、地下に入れるのもほんの一握りの人だけだし、チェックも厳重。

 だから。」


オティーリエはアントワーヌを見た。


「フィリベールさんは、そこに入るために、重大犯罪を犯したんだね。

 ジュリエッタさんを救け出したい、ただその一心で。

 そして、アントワーヌさんはそのフィリベールさんのことを知って、協力を行ったということだね。」

「その通りです。

 そもそも、僕自身が姉さんを救けようとしていましたからね。」


アントワーヌの答えに、オティーリエは頷いた。


「ここまで分かれば、今日の出来事の説明は付くよね。」

「ちょっと待ってくれ。

 フィリベールは、どうして地下に入るために重大犯罪を犯す必要があったんだ?」


サミュエルが横から口を挟む。

それに、オティーリエはサミュエルを真っ直ぐに見ながら答えた。

これは、サミュエルが覚悟を持って向き合うべきことだから。


「地下に入る資格を得るため。

 地下に入る方法は3つあるの。」


オティーリエは右手の指を三本立ててサミュエルに見せた。


「教会や出資者が指定した、研究を管理する人。」


人差し指を下げる。


「研究する人。」


中指を下げる。


「それから、重大犯罪者。」


薬指を下げる。

これで、オティーリエの右手はグーになった。

そのまま、オティーリエは手を下げる。


「待て、それはつまり。」


ここまで言われて、サミュエルにも分かった。

最後の資格者とは。


「うん。

 研究のための実験道具。

 あそこは、重大犯罪を犯した人を収監して、医術の実験と称して極刑に処する所。」


サミュエルは言葉を失った。

口を開こうとするけれど、何も言葉が出てこない。


「でも、極刑を執行する場所は憲兵総局の部外秘で、憲兵総局でも上層部と、護送者しか知らないでしょ。

 囚人の護送も極秘事項だし。」


憲兵総局は内務省の一部署。


「そこに、この研究所の関係者が噛んでいたら?

 まず間違いなく、他の省庁からは分からないよね。

 だから、今まで証拠も見つけられなくて、国としても手を出せないみたい。

 表向きは善良な診療所みたいな所だから、強制捜査もやりにくいみたいなの。

 それで、それだけ厳重に隠された場所だとすると、中に入るだけでも大変だし、重大犯罪者として中に入るとすると、中に入る前から厳重に拘束されて、身動きが取れなくなると思う。

 だから、フィリベールさんは中に入る前に脱出して、自由の身で中に入ることにした。」

「いや。

 囚人として中に入るためにわざわざ重大犯罪を犯したんだぞ。

 それを、途中で脱走するのはおかしくないか?」


オティーリエが説明している間に我を取り戻したサミュエルが、顎に拳を当てて、考えながら言った。


「うん、そうだね。

 そこは、アントワーヌさんが説明してくれるんじゃないかな。」


オティーリエはにっこり笑ってアントワーヌを見た。

それに、アントワーヌは降参とばかりに両手を上げた。

その顔にも表情が戻ってきていて、今は苦虫を嚙み潰したような顔をしている。


「僕が獄中の彼に接触したからですよ。

 僕は憲兵総局の局員で、護送担当ですからね。

 重大犯罪者の居場所は把握していますし、誰がどこに収監されているかも、定期的にチェックしています。

 その時に、彼の名前を見つけました。

 姉さんを探すのに行き詰っていた僕は、藁をも掴む思いで彼に接触しました。

 そして、姉さんのことを教えてもらったのです。

 ハッキリ言って衝撃の事実でしたね。

 姉さんのことも、彼のことも。

 しかし、考えてみて下さい。

 医術研究所は今まで手がかりを掴ませないほどに厳重に地下のことを隠しています。

 そのような所に囚人として入って、自由に動けると思いますか?」


アントワーヌはサミュエルを見た。

サミュエルはそれに、首を振る。


「ですので、僕は彼が自由に動ける方法を模索して、その方法を見つけました。

 彼が護送中に脱出したのは、そこが一番、手薄になるからです。

 そして、脱出を確実にするために、あなたを利用させていただきました。」

「俺が救けに来る、その騒ぎを利用したってことだな。

 ・・・いや、逃げるために利用したんじゃなくて、襲撃を受けて逃げ出した、という事実を作るためか。」

「はい、その通りです。」


サミュエルの言葉に、アントワーヌはにっと笑った。

その事実を作る必要があった理由は簡単。

アントワーヌが罪に問われないため。


その答えに、サミュエルはガシガシと頭を掻いた。


「んなもん、先に言ってくれりゃあ、俺も協力したんだがな。」

「怒らないのですか?」


アントワーヌが驚愕の表情でサミュエルに問いかけた。


「そんな話を聞いて、怒れるわけないだろ。

 お前もだ。

 水臭いぞ。」


そう言われて、アントワーヌは見開いていた目をますす大きく見開いた後、ふう、と息を吐き出しながら全身から力を抜いた。


「あなたはそういう方なのですね。

 彼が信頼しているのも分かります。

 それで、この話を聞いて、あなたはどうされますか?」


そのアントワーヌの問いかけに、サミュエルは決然とした表情で見返した。


「追う。

 当然だろ?

 まあ、そっちの坊ちゃん嬢ちゃんが許してくれればだが。」


最後、ちょっと苦笑しつつ。

ヨハンは坊ちゃんと言われて少し眉を歪めたものの、特に言い返しはしなかった。

サミュエルは言い返してこないヨハンに、ふっと笑いつつ、言葉を続けた。


「そっちの嬢ちゃん、ホルトノムルの美少女名探偵だろ?

 さっき、ようやく名前を思い出したよ。

 ホルトノムルの騎士団と顔見知りなのも当然だな。」

「そうなの?」


なぜか言われた当人が、不思議そうにヨハンに尋ねた。

それに、ヨハンが今度は苦笑しながら答えた。


「ああ、そうだ。

 ティリエは領都じゃそう呼ばれてる。

 耳に入れたことはなかったが、領都では知らない人はいないほどの有名人だぞ。」

「そうだったの?

 知らなかった。」


オティーリエは驚いた様子。

ちなみに内心、こういうのは尾ひれが付くものよね、などと美少女の部分に頷いていた。

なにせ、ティリエとして活動している時の自分は見た目10歳くらい。

美少女とかなんとか言われる年齢じゃないと思っている。


まあ、おかげで、サミュエルとアントワーヌには美少女の部分は受け流すんだ、と思われていたが。

ヨハンはオティーリエがどう考えているか、正確に把握しているので何も言わなかった。


「まあ、それは置いといてだ。」


サミュエルはオティーリエとヨハン、2人を見ながら言った。


「どうする?

 俺としては、見逃してもらえると有り難いんだが。」

囚人と護送者の真実、でした。

ついでに令嬢が領都でどう呼ばれているかも。

なんだかこのお話、短い割に今まで書くタイミングの掴めなかった設定がポロポロ出てきますね。

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