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6.それぞれの事情

最後尾の列車の客車の中は、ヨハンが最初に来た時とは違って混沌とはしていなかった。

護送者のうち倒れていた3人は他の車両に移動させられていた。

3人とも、命に別状はなく、眠り薬で眠らされていたらしい。


そして、今、客室の中にはy人の人物がいる。

強盗犯であるサミュエル、オティーリエ、ヨハン、オティーリエの護衛のうちの3人、キリヤ、イヴァン、ヒルデブランド、それから囚人の横にいて、囚人を追いかけるサミュエルに立ち塞がって貼り飛ばされた護送者。

その護送者も、今は気が付いていて、座席に座っている。


7人のうち、オティーリエ、ヨハン、サミュエル、護送者は会話がしやすいように2列の座席で左右それぞれの廊下側に座って、向かい合って座っている。

キリヤ、イヴァンその4人の前側の廊下、ヒルデブランドは後ろ側に立ち、何かあればすぐに行動が起こせるように待機している。

ちなみにオティーリエの護衛の残りの2人、メイとポーラは前側の扉の前に立って、中に誰かが入って来ないように見張っている。


サミュエルが強奪した金品は、すでに車掌に手渡されていて、車掌が四苦八苦しながら持ち主に返却しているところ。


「まずは自己紹介から始めましょう。

 わたしはティリエ。

 ホルトノムル侯爵領都に住んでいます。

 今は、ポール・セリジュアルへの旅行からの帰りです。」


オティーリエはそう言った後、ヨハンを見た。

その視線に、ヨハンが一つ頷いてこほんと一つ、咳払いをした。


「俺はヨハン。

 ティリエの兄だ。」

「いや、お前ら、どう見ても普通の町民じゃないだろ。

 だいたい、こいつら何者だ?」


サミュエルが廊下に立つ3人を見ながら、呆れたように言った。


「たまたま別の用事で乗り合わせていたホルトノムル侯爵領の騎士様です。

 外にいる騎士様と顔見知りだったんですよ。

 タイミングよくてよかったです。」


ニコニコと笑顔で言うオティーリエ。

いつもの、嘘ではないけど全てではないというヤツである。


そのオティーリエの説明に、サミュエルは胡散臭そうな顔をしたけれど、それ以上ツッコむのは止めた。

なにせ、サミュエルは捕まった側だ。

ツッコんだら答えてくれそうではあるけれど、それは今はやらない方がよさそうだ。


「まあいい。

 俺はサミュエル・ロバン。

 この列車で護送されていたフィリップ・ゴディエ、いや、フィリベール・アンリという男を追っている。」


サミュエルはそう言ってから、護送者を見た。

最後はお前だ、と言わんばかりの視線で。


「トマ・ギュイです。

 ご覧の通り、フィリベール・アンリを護送していた者です。

 この人と貴方方のおかげで、まんまと逃げられてしまいましたが。」


トマが憎々し気に3人を睨んだ。

このトマ、中肉中背で20代前半といった感じの人物。

いかにも真面目そうだが、優しい感じが前面に出すぎていて、どうにも睨んでいても迫力がない。

それに、この睨んでいる表情も作り物なことを3人とも見抜いているので余計そう見えるのだろう。


「嘘つけ。

 フィリベールの逃亡手助けしようとしてただろうが。」

「心外ですね。

 しようと、ではなく、したんです。」

「・・・いや、言っていいのかそれ。」


トマの返事にサミュエルがツッコむと、トマがしまった、という表情をした。

しかし、次の瞬間には真面目な表情に戻る。

3人を睨んだりはしてこなかった。


「バレてしまっては仕方がありません。

 私は護送者であることは間違いありませんが、フィリベール・アンリの協力者でもあります。

 元々、彼は自ら捕まって、この護送中に逃亡を図ったのです。」


そこまで言った後、サミュエルを見て。


「貴方を利用して。」


と、続けた。


「少々お待ち下さい。

 話が見えません。

 まず、サミュエルさんはフィリベールさんを救出しに来たのですよね?

 お二方はどのようなご関係なのですか?」


オティーリエが横から口を挟んだ。

それに、サミュエルはちらっとオティーリエを見た後、膝に肘をついて手を組み、俯いてその組んだ手を額に当てた。


「俺はスクレ・セルヴィスの諜報員だ。

 元、になったがな。

 そして、フィリベールとはバディを組んでいた。」


スクレ・セルヴィスとは王家直轄の機密情報院のこと。

その存在は一般には知られておらず、貴族や議員達の間でも噂されるだけの存在で、実在することを知るのは王家と、それに近い貴族、それから王家に対して諜報活動を行っている者。

このため、普通は隠匿すべき情報な上に、存在自体、知らなくてもおかしくないのに、サミュエルはオティーリエもヨハンもトマも知っているものとして話を進めた。


もちろん、オティーリエもヨハンも知っていたけれど。

ホルトノムル侯爵家は、現当主の姉が王家に嫁いでいるので王家に近い家柄でもあるけれど、スクレ・セルヴィスを知った理由はそのためではなく、王家に諜報活動を行っているためだったりする。


バディ、というのは二人一組で活動するコンビのこと。

スクレ・セルヴィスではソロとバディの2種類の活動形態がある。


サミュエルは視線だけをちらっとオティーリエとヨハンに向けた。

理解していることを確認して、話を続ける。


「それがある日、フィリベールが無実の罪を着せられた。

 なんでもスクレ・セルヴィスの構成員の情報を他国に売ったとしてな。

 逮捕されたフィリベールはどこか分からない刑務所に隠され、その日以来、俺はフィリベールの居場所を探し続けた。

 そして、今日の護送のことを知ったんだ。

 チャンスはここしかない。

 だから、俺はフィリベールの救出計画を立てて実行した。」


サミュエルは、そこで握った両手にぎゅっと力を籠めた。

頭はさらに下がり、祈るようなポーズになる。


「だが!

 救けに来た俺に、あいつは言った。

 お前は利用しやすかったと。

 計画通りに救けに来てくれてありがとうと!」


そして、サミュエルはだん!と座席の背板を殴った。

背板が割れそうな勢いで。


「なんだ?

 俺はあいつに利用されただけなのか?

 俺達はバディだったんじゃないのか?」


サミュエルは涙を流していない。

しかし、深い憤りの中にいることはその場にいる全員が分かった。


憤るサミュエルに、その場に静寂が落ちた。

その静寂を破ったのは、トマ。


「あなたは本当に何も知らないのですね。」


サミュエルの憤りなどなんということもないという様子で、飄々と言った。

こちらが、トマという男の本性なのだろう、とヨハンは思った。


「まあ、彼があえて何も言わなかったのだろうとも思いますが。」

「それはどういう意味だ?」


ぎろり、と俯けた顔から、視線だけをトマに送ってサミュエルが詰問する。


「言葉の通りです。

 バディであるあなただからこそ、彼は何も言わなかったのでしょう。

 そうですね、まず、あなたの間違いから正しておきましょうか。」


そう言って、トマは表情を消して話し始めた。


「まず、彼の罪は無実の罪ではありません。

 ネルガーシュテルト帝国に諜報員の情報を売りました。

 これは事実です。」

「な?!」


トマの告発に、サミュエルは愕然とした顔を上げた。


「彼にしてみれば、当然の行いですよ。

 そして、僕も彼を支持します。」

「なぜですか?」


絶句してしまったサミュエルに変わって、オティーリエが尋ねる。


「言うと思いますか?」

「言わないで済むと思うか?」


ヨハンが立ちあがって懐から銃を取り出すと、トマのこめかみに突き付けた。


「お兄ちゃん。」


しかし、オティーリエが咎めると、ヨハンはちらっとオティーリエを見てから、はあ、と溜息をついて銃を懐にしまって座席に座った。


「いい妹さんですね。

 妹さんのご配慮に応えて、彼と、そして僕の事情をお話しましょう。」


それは、あまりに不条理に。

愛する者を奪われた者達の話だった。


 ◇ ◇ ◇


王都の外れにある教会に、ジュリエッタ・アウイという女性司祭がいた。

明るく柔和な丸顔が特徴のその女性は、ある日、怪我を負ったフィリベールが治療のために訪ねてきたのを治療した。

その怪我は、銃創。

色々と疑っても仕方がないところを、ジュリエッタはフィリベールの秘密にして欲しいという要請を受け入れ、治療をした上で銃創だったことを秘密にしていた。

それから、フィリベールは怪我を負う度にジュリエッタを訪ねて来るようになった。

銃創だけはない。

裂傷、打撲痕、骨折など。

普通の人生を歩んでいる人物では有り得ない傷を負ってくる彼を、しかしジュリエッタは拒むことなく治療した。


そうして、治療の度にお互いのことを話すようになり、一緒の時間を過ごすうちにお互いを意識しあうようになっていった。

聖職者は結婚出来ないので、結ばれることはないことはお互いに分かっていたが、それでも惹かれ合う気持ちに嘘はなかった。


ジュリエッタにはアントワーヌ・アウイという弟がいて、アントワーヌにもフィリベールを紹介した。

このアントワーヌこそ、トマ・ギュイ。

護送人という特殊な職業にいるため、本名ではなく偽名を名乗っていたのだった。


この時はまだ、フィリベールとアントワーヌはお互いのことを知らなかった。

なので、2人もお互いのことを知らずに、ジュリエッタの想い人と弟という関係で接していた。


この3人の関係が崩れたのは、半年前。

命に関わるほどの大怪我を負ったフィリベールは、王都の教会に連れて行こうとしたサミュエルに言って、ジュリエッタのいる教会に連れて来てもらった。

サミュエルに肩を貸してもらってやってきたフィリベールを見て、ジュリエッタは大急ぎで奥の部屋へと案内した。

しかし、時すでに遅く。

診察用のベッドに寝かされたフィリベールは、ジュリエッタの顔を見ると、安心したように息を引き取った。


奇跡が起こったのは、その時。


目の前で命の尽きたフィリベールに、それでもジュリエッタは全力の祈りを籠めて、神の奇跡を使った。

その結果。

フィリベールは息を吹き返した。

サミュエルもジュリエッタも、フィリベールが再び目を開けた時は、涙を流して喜んだ。


しかし。


この光景を、教会長である大司祭が見ていた。

大司祭も、人のいい人物だった。

しかし、あまりにも純真すぎた。


大司祭はこの奇跡を中央神殿に報告した。

その結果、ジュリエッタは栄転が決まった。

ホルトノムル侯爵領の北側に隣接する、テネーブル男爵領という小さな領地にある医術研究所に。

ジュリエッタ自身はそれを望まなかったけれど、中央神殿からの命令とあれば従わなければならない。

大司祭も、栄転だと喜んでくれた。

そうして、ジュリエッタはまだ怪我の癒えていないフィリベールを教会の病床に残し、テネーブル男爵領へと向かった。


そして。


それ以降、ジュリエッタは姿を消したのだった。

落ち着いたところで、事情聴取です。

令嬢と従者の予想通り、強盗犯は訳アリでした。

ただの列車強盗から、どんどん話が広がっていきます。

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