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3.強盗犯を追いかけて

結局、ヨハンはオティーリエと一緒に最後尾の車両にやって来ていた。


オティーリエが移動するとアーサーからオティーリエの【念話】が切れてしまうけれど、そこは移動しながら、少しづつ移動距離をアーサーに教えて途切れないようにして。

もちろん、アーサーが移動した時も、オティーリエに移動距離を教えて、オティーリエからアーサーの【念話】も途切れないようにしつつ。

以前はオティーリエもアーサーと会話する時はそれに集中しないといけなかったけれど、今は他の事をしながら、同時にアーサーと会話が出来るようになっているおかげで出来るようになったこと。


最後尾の車両の客室からは、乗客が1人づつ、出て来ていた。

出て来る乗客は怖がっていたり、怒っていたり、その様子は人それぞれ。


そして、最後の1人。

最後尾の3列の座席に座っている一段以外の人が全員出て来ると、ヨハンはオティーリエに紙を渡した。


「ティリエは前の車両で待っていてくれ。」


真剣な表情で言うヨハンに、オティーリエは素直に頷いた。


「うん。

 だけど、この扉の前でね。」


オティーリエが指差したのは、最後尾の車両の一つ前の車両の扉の前。

要は、すぐにでも最後尾の車両の客室に飛び込める場所。

何かあった時に援護するつもりなのは明白。


しまった失言だった、とヨハンは後悔したけれど、後の祭り。

ヨハンとしてはオティーリエを危険に曝すのは本意ではないので、前の車両の客室内にいて欲しい所だが、すでに口に出してしまった後でもあるし、ここまでがオティーリエとギリギリ折り合える境界線だろう。


「分かった。

 くれぐれも動かないようにしてくれよ。」

「それはちょっと約束出来ないかも。

 あ、ヨハン、それよりも早く行かないと最後尾の車両で動きがあるよ。」

「ちっ。

 ティリエ、くれぐれもそこから動かないようにな。」


そのオティーリエの報告にヨハンは一つ舌打ちすると、もう一度、オティーリエに念押ししてから最後尾の車両の客室の扉に向かった。


 ◇ ◇ ◇


ヨハンは最後尾の車両の客室の扉の横に背を付けると、扉に耳を当てて中の様子を探った。

何か会話をしている声が聞こえてくるが、最後尾で会話をしているようで、くぐもった声が聞こえてくるだけで、ハッキリと会話は聞き取れない。


ヨハンは窓から覗き込もうかとも考えたけれど、あの男は会話をしているからと言って、背後の視線を感じ取れないということはないだろうから、少し躊躇してしまう。

しかし、躊躇いはほんの一瞬。

ほんのわずかな躊躇いが重要なタイミングを逃してしまうものだから。


ヨハンは何?


先ほど口にしたのとは違う、そのオティーリエの問いへの答えを胸に浮かべつつ、思い切って、しかし平静を保ったまま、ヨハンはわずかに顔を出して中を覗いた。


 ◇ ◇ ◇


客室の中では、囚人が上着を脱ぎ棄て、手錠もかけられずに立ち上がり、銃を持って銃口を列車強盗犯に銃口を向けていた。

そして、護送者は囚人の横の1人だけが立っていて、他の3人は姿が見えないので、座席に座っているのだろう。

この状況で座席に座っているということは、最悪は射殺、最善でも気絶させられているのかもしれない。


囚人はくたびれてくすんだライトグリーンの髪を、手入れせずに伸ばし放題に肩の辺りまで伸ばしている。

顔は頬がこけ、その身体も痩せ細っていたが、その目には鋭い光を宿していた。


強盗犯はヨハンの方に背中を向けて立っていて、囚人に銃を向けていた。

おかげでその表情は見えない。

囚人の方は、どこか強盗犯を嘲るような表情だ。


そして、強盗犯が一歩、囚人の方に足を踏み出そうとしたところで、囚人が列車強盗犯の足元に銃を一発、発射した。

その銃声は、扉の外のヨハンにも聞こえて来た。

当然、オティーリエにも。

ヨハンはオティーリエの方をチラッと見て左手を上げて来ないように、と合図をした。

思わず近づこうと、一歩踏み出しかけたオティーリエも、それを見て足を止める。


オティーリエが足を止めたことを確認してから、ヨハンはバッと扉を開けて客室内に飛び込むと、全員を牽制出来るように銃を構えた。


 ◇ ◇ ◇


扉の開く音に、強盗犯が咄嗟に振り向く。

それに、囚人がニヤリと笑ったのが見えた。


「じゃあな、相棒!」


囚人はそう言うと、身を翻して客室後部の扉から出て行った。


「しまった!」


強盗犯は再び囚人の方を向くと、扉から出て行った囚人に向けて銃を一発撃った。

しかし、それはもともと威嚇射撃。

そんなことはお見通しとばかりに囚人は最後に片手だけを扉から見せると、ひらひらと手を振って出て行った。


「待て!」

「行かせない!」


強盗犯が囚人を追いかけようとした所に、唯一立ち上がっていた護送者が立ち塞がった。


「ちっ!

 どけ!」


強盗犯は銃で撃つのではなく、両手を広げた護送者に駆け寄ると、横凪に腕を振って護送者を吹っ飛ばした。

真横に吹っ飛ばされた護送者は窓に頭をぶつけると、力なくその場に崩れ落ちる。

強盗犯はそれに目をくれる間もなく、客室を出て行った。


ヨハンも、すでに強盗犯を追って駆け出している。

この状況なら、仮にオティーリエがこの客室に入って来ても、さほど危険はないだろう。

そのまま、ヨハンも強盗犯を追いかけて客室を出て行った。


 ◇ ◇ ◇


ヨハンが最後尾の乗降口に着いた時、すでに誰もいなかった。

バッと振り返って上を見てみると、ちょうど列車の屋根の上に上がろうとしている足が見えた。

タイミング的に、おそらく強盗犯だろう。


「止まれ!」


威嚇射撃を一発。

もちろん、強盗犯はそれで止まったりしない。

足はそのまま列車の屋根の上に消えた。


ヨハンが左右を見回すと、左側の壁の端に屋根の上に上がるための据え付けの梯子を付いている。

ヨハンは梯子に取り付くと、強盗犯を追って屋根の上に上がった。


そして、屋根から顔を出そうとした時。

一発の銃声がしたかと思うと、チュンッと頭のすぐ横の屋根を掠めるように銃弾が飛んできた。

しかし、これも威嚇射撃。

それが分かっているヨハンは、気にも留めずにそのまま梯子を登り切って屋根の上に出た。

強盗犯と囚人、それから囚人を庇う護送者。

それぞれの思惑が絡み合う中に、従者は飛び込んで行きます。

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